Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューDischarming man - "極点とオーロラ"がいざなう激情と寂寥の極北

“極点とオーロラ”がいざなう激情と寂寥の極北

2021.01.25

 蛯名啓太(vo)がDischarming manとして活動してきた16年に及ぶ歳月とは、とどのつまり自身の歩んできた轍と絶えず対峙する歴史だったのだと思う。キウイロール解散後に彼が追い求めたのは"キウイロールではない何か"であり、それを徒手空拳で必死に探しだすことに邁進した。数々のトライ&エラーとメンバーチェンジを繰り返してきた末に蛯名が導きだした答えは、バンドという形態としっかり向き合うこと。それはそれまで避けて通ってきたキウイロールという自分の過去と刺し違える行為でもあり、そこで彼はようやく覚悟を決めたのだろう。俵谷恭子(ba)、橋詰俊博(gt)、西野みちか(dr)という史上最強の布陣が揃ったことで、GEZAN主宰の《十三月》から発表された4作目となるアルバム『POLE & AURORA』は従来の歌の良さはそのままに、バンドの一体感とアンサンブルの妙味がこれまで以上に際立つ傑作と相成った。粗暴だが繊細で、激情と寂寥が混在した歌と合奏は彼らが生まれ育った北海道の凍てつく冬景色と荒涼とした大地と荒れ狂う海原を想起させる。また、心情と信条が相容れぬ相手にも諦めず自ら手を差し伸べようとする蛯名の歌詞は、不器用にも自身のアップデートを続けてきた彼ならではの新境地だ。前作『歓喜のうた』から約5年半を経て辿り着いた到達点までの紆余曲折を蛯名に聞く。(interview:椎名宗之)

ちゃんとバンドをやりたいと思い立った理由

──ここ数年のあいだに発表されてきた7インチやスプリットを聴いてバンドとしての一体感が増してきたのを感じていましたが、最新作『POLE & AURORA』はその集大成といった趣がありますね。ここまでバンドらしさを感じるDischarming manのアルバムは過去随一かもしれない。

蛯名:『歓喜のうた』(2015年7月発表)を出した後にベースの江河(達矢)さんが抜けて、それをきっかけにちゃんとバンドとしてやりたいと思ったんですよね。それでピアノやギターを弾いてくれてた玉木(道浩)くんには自分の統率力のなさを理由にバンドを抜けてもらって、Discharming manを立て直すことにしたんです。そしたらベースにくしこ(俵谷恭子)が立候補して入ってくれて、長年ドラムを叩いてくれたのっち(野川顕史)がやめたりしつつ今に至る感じで。もう一度バンドでガシッとやってみたい気持ちがここ数年強くあったのが今回のアルバムに表れているんだと思う。

──もともとは蛯名さんのミニマムなソロプロジェクトとしてキウイロールの反動的側面もありつつ始まったのが、結局はバンドという原点に返るとは面白いですね。

蛯名:ブッチャーズやイースタンユースといった諸先輩の存在や影響が潜在的に刻まれているのもあったし、Discharming manを始めた当初は逆張りじゃないけど、キウイロールではやれなかったことを進んでやっていたんですよね。でもちゃんとしたバンドになりたいと思い立って、そのときの自分とキウイロールをやっていた自分が地続きだったことに気づけたっていうか。キウイロール時代の「white」をDischarming manでやってみたりいろいろ試行錯誤してきたけど、自分がそれまでやってきたこととしっかり向き合わなきゃいけないと思ったし、キウイロールの最後のアルバム『その青写真』と勝負しなきゃダメだなとも思ったんです。そんな気持ちが今回のアルバム制作中にはあったんですよ。それをことさら意識したわけじゃないけど、どれだけ逆張りをしても消去法で考えても他に道がなかったし、自分は自分だし、地続きでやってきたことをちゃんとやるしかないと思って。

──確かに地続きではあるけれど、その時点でDischarming manとして10年以上やってきた経験もあったわけだし、そこで改めてバンドと向き合えばキウイロールとは違うベクトルの表現になるとは思いませんでしたか。

蛯名:どうだろう。もう何も考えずに曲を作るようになっちゃったんですよね。前は「これはキウイロールっぽいな」「○○っぽいな」とか感じた曲をどんどん削って小さくまとまっていたけど、くしこが入った辺りから何も考えないようになったんです。より自由になったところはありますね。

──くしこさんの加入はDischarming manの潮目を大きく変えたと思うし、間違いなくキーマンですよね。ライブも圧倒的に良くなったし。

蛯名:そうですね。前は自分の曲を人にやってもらうのが前提だったけど、くしこが入ってからはその順番が逆になったというか。今はその人が弾くならこういう曲がいいかな、この人に合うのはこんな感じかなと考えるようになったんです。ギターの詰(橋詰俊博)は吉村(秀樹)さんに影響を受けた弾き方をするけど、高校の頃はケミカル・ブラザーズみたいなテクノとかも好きだったみたいで、細かいフレーズを弾くのも上手なんです。ドラムの(西野)みちかちゃんは54-71のBoboくんみたいにシンプルでタイトなドラムが意外と上手だったりして、個性がちゃんとある。くしこはメロディのあるベース、唄うベースを弾くのが上手だし、そういう3人の持ち味を合わせていけばいいんじゃないかと思いながら今回はアルバムの制作を進めましたね。

──今でこそ理想的な布陣が固まりましたけど、唯一のオリジナル・メンバーだった野川さんの脱退はかなりのピンチだったんじゃないですか。

蛯名:うん。正直、もうこれで終わりかなと思ったくらいなので。どうしようかと思って残された3人で何回か話し合ったら、くしこも詰もぜひ続けたいと言ってくれたんですよ。2人に背中を押されて今に至る感じですね。

──中尾憲太郎さんによるプロデュースの『ダメージド / マイウォー』(2016年10月発表)、『Disable music / my stupid pride』(2017年11月発表)、「WOUND」(Climb The Mindとのスプリット『GLASS』収録、2018年10月発表)、「hole & hole」(bedとのスプリット『mother』収録、2018年11月発表)を立て続けに発表した流れでそのままアルバム制作に突入するかと思いきや、そうはなりませんでしたね。

蛯名:憲ちゃんがかなり忙しかったのも一因としてありましたね。Crypt Cityの他にもベンジーとやっていたバンド(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS、中尾は2020年10月に脱退)とか、もちろんNUMBER GIRLもまた始めてたし。あとART-SCHOOLやACOさんとかのサポートをいろいろとやってたりで、彼のスケジュールがなかなか押さえられなかったことでリリースが半年延びたことも実際あったんです。それに憲ちゃんが札幌へ来ると短期間に集中してレコーディングすることになって、その良し悪しもありました。一緒に作業できてすごく楽しかったし、いろんなことを教えてもらっていい時間を過ごせましたけどね。

──たとえば「マイウォー」は仮歌をそのまま使われたり、不意打ちのようなプロデュースもかなりあったみたいですけど(笑)。

蛯名:そうそう。そのあと何度も唄い直したのに仮歌が使われちゃって。「ダメージド」はレコーディング前日に演奏を全面的に変えられたりとか。面白かったですけどね。俺以外の3人は大変だっただろうけど(笑)。

──憲太郎さんのプロデュースで一作フルで聴いてみたかった気もするけど、タイミングもありますしね。

蛯名:憲ちゃんプロデュースでこのままアルバムまでいこうと考えていたところでのっちからやめたいと申し出があって、そのまま時間がずるずると過ぎていって、憲ちゃんも変わらず忙しそうだったからこれはちょっと難しいかなと思ったんですよ。

 

このアーティストの関連記事

POLE & AURORA

2020年12月23日(水)発売
十三月 JSGM-40 ¥2,420(税込)

amazonで購入

iTunesStoreで購入

【収録曲】
1. future
2. 極光
3. WOUND
4. February
5. Disable music
6. メイデイ
7. empty boy
8. Discharming man

RECENT NEWS最新ニュース

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻