Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューDischarming man - "極点とオーロラ"がいざなう激情と寂寥の極北

“極点とオーロラ”がいざなう激情と寂寥の極北

2021.01.25

「Discharming man」はキウイロールの「バカネジ」と戦った曲

──「WOUND」の「だけど今はどこにも行けなくなってしまった」というくだりはコロナ禍と直接関係があるんですか。

蛯名:いま聴くとそう聴こえるかもしれないけど、コロナの状況を唄ったわけではないんです。今回のアルバムでコロナのことをテーマにした曲は一つもないですね。このなかで一番新しい曲は去年の今頃にできた「future」ですし。コロナの感染拡大が始まる前から自分のなかで拭いきれない閉塞感が芽生えてたし、そっちのほうが自分にとっては重要なテーマでした。今は終わったけど安倍政権とそれを支持する人たちのこととか。

── 一つの社会を敵と味方に安易に振り分ける分断の時代は安倍政権が生み出したものだと思うし、たとえば国会前のデモに参加すれば何かにただ反対したいだけの人というレッテルを貼られてしまいますよね。自分の思想や信条と相容れぬ人を即敵対視する風潮には確かに言い知れぬ閉塞感を覚えます。

蛯名:今の時代、驚くほどそっち寄りの人たちが多いというか。職場でも近しい感覚で話せる人はほとんどいませんからね。エコーチェンバー内は自分と同じようにリベラルな人ばかりだけど、一歩外に出たら真逆の世界なんですよね。みんなびっくりするほど思考停止してるし、辛いことには一切目を向けないことになってるから、日本の戦後教育は大成功だと思いますよ。もちろんこれは皮肉ですけどね。

──前作『歓喜のうた』では蛯名さんが敬愛するzArAmeの竹林現動さんが1曲ギターで参加していましたが、今回はdiscotortionの高橋一朋さんが「WOUND」の作曲者としてクレジットされていますね。

蛯名:discotortionの『影切』(2017年10月発表)というアルバムに俺が1曲歌で参加して(「奇異羅理」)、そのお返しがしたいと一朋くんが急にスタジオにやってきたんです。そこでいきなりリフを弾きだして、みんなで音を合わせたら「こんな感じだから」と言い残して帰っていきました(笑)。

──外部の人が作曲に携わるのはDischarming manには珍しいケースですよね。

蛯名:珍しいし、「WOUND」ができてからハードな曲が増えていった気がします。「future」、「極光」、「WOUND」の3曲はDチューニングでギターを1音下げてる共通項もあるけど、その連なりはやかましい印象がありますね。三兄弟みたいな曲っていうか。

──「February」で一息つける感じがありますしね。7インチとして発表した2曲、「Disable music」を残して「ダメージド」を外したのは何か意図があったんですか。

蛯名:時間があまりなかったのもありますね。みちかちゃんが入ったのが一昨年の6月で、初ライブがその年の10月くらいだったんです。そこから録り始めるまでに実質3カ月くらいしかなかったから、ライブでよくやってた曲しか録れない事情もあったんです。そういう技量的にできる範囲内でまず選んだのと、あとは2020年の今どうしても入れたいと思った昔の曲も選んでみました。「Discharming man」がその手の曲なんですけど。

──このタイミングでバンド名を冠した曲を発表するのは、蛯名さんが今のDischarming manに対して揺るぎない自信を抱いていることの表れのように感じたのですが、まさか昔の曲だったとは。

蛯名:曲自体は江河さんが抜けるとき(2015年10月)に目掛けて作ったんです。そのあとも何度かライブでやってたもののちゃんとした形にはできなかったんだけど、みちかちゃんが入ったときに合わせてみたらいい感じだったので、このままアルバムに入れちゃおうと思ったんですよ。

──「Discharming man」はバンド屈指の名曲だと思うし、今の布陣がどれだけいい状態にあるかのバロメーターにもなっている気がしますね。

蛯名:嬉しいです。「Discharming man」はキウイロールの「バカネジ」と戦った曲なんですよね。ここで勝負しないとダメだ、ちゃんと向き合わなきゃダメだなと思って戦ったんだけど、かなりいい勝負をしたんじゃないですかね(笑)。何も考えずにギター一本で作った曲なんですけど、それが逆に良かったのかもしれません。

──「ダメージド」を入れなかったのは「Discharming man」の歌詞に似ていることもありましたか。「ダメージド」に「あの時の僕はもういない/でも今の僕はあの時にはいない」という歌詞がありましたけど、「Discharming man」には「いつしかあの日の僕は/どこにも存在しないから」という歌詞があるじゃないですか。

蛯名:それはたまたまです。いま言われて初めて気づいたくらいなので(笑)。「ダメージド」の前に「Discharming man」ができてるので、その辺りからそういうマインドだったんじゃないですかね。

──“過去の自分はもうどこにもいない”ことをタイプの異なる2曲で唄っているくらいだから、蛯名さんがとりわけ強く主張したいことだったのかなと思って。

蛯名:キウイロールを解散してからずっとDischarming manをやってきたけど、やりきれてなさが自他ともにあったと思うんです。吉村さんがいた時期もあったし、玉木くんやのっちに支えられながらみんなでやっていた時期もあったけど、自分の曲を再現する場でしかなかったような気がして。そうじゃなく、もっとバンドとしてやりたくなったんですね。キウイロールは終わってしまったけど聴いてくれた人たちのなかに今もずっと残ってるものがあって、何か膨れあがったものがあるのを俺も感じていたんです。いまだにけっこう人気があるし、ちょっと煙たい存在ではあったんですよ。ひょっとしたらそこから逃げていたのかもしれない。さっきも言ったとおりキウイロールみたいなことはやらないという消去法でやってきたわけだから。でもやっぱり向き合わないといけないと思ったし、どう転がっても自分は自分だし、今の自分を示していこうと思った。その意思表示が「Discharming man」という曲に出ているんじゃないですかね。

 

このアーティストの関連記事

POLE & AURORA

2020年12月23日(水)発売
十三月 JSGM-40 ¥2,420(税込)

amazonで購入

iTunesStoreで購入

【収録曲】
1. future
2. 極光
3. WOUND
4. February
5. Disable music
6. メイデイ
7. empty boy
8. Discharming man

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻