全員が仕事を辞めてバンドに専念しようと決意
──タイトルに『辞めたった』と掲げてある通り「退職して初のツアー」ということで、心境的にも新鮮な感覚があったのではないかと思います。全員が仕事を辞めて、ミュージシャン/バンドに専念しようと決意するまでの経緯について、聞かせてください。
あっこりんりん:2019の『SXSW』で、レーベルのジョージ(※おとぼけビ〜バ〜が所属する「Damnably」は、George GarganとJanice Liの2人によって運営されている)に「いくらあれば生活できるの?」と訊かれて、当時の月給を答えました。そうしたら「今は無理だけど、いつかはいけるよ! がんばろう!」と言われて。そんないつかはいけるなんていう可能性が自分にあるなんて衝撃を受けました。
その日泊まるホテルは4人部屋だったので、みんなで「さっきのはびっくりしたなあー、でも遠慮してちょっと少なめに言うたもんな!」とか話してたら、突然よしえちゃんが「でも私、全然いい! 全然もっと少なくても仕事辞める!」と言って。びっくりしました。というのも、よしえちゃんが一度新卒で就職して東京に行ってしまい、私はバンドがやりたかったけどそれぞれの人生があるしそんなことは言えないし、もちろん私も食っていけるとは思ってなかったし、就職して。で、数年後やっぱりバンドやりたいって戻ってきてくれて、「仕事しながら長く続けよう!」というスタンスでやってきたので、よしえちゃんはその気持ちのままだと思ってました。
海外に出ておとぼけのことを面白いって言ってくれる人がこんなにいるんだと知ってから、仕事を辞めて挑戦したいという気持ちは持ってましたが、私が曲書けなかったら迷惑かけるし、みんなが生活できなくなるし、と自信もなくて。みんな仕事辞めてまではついてきてくれないだろうと正直思ってました。だからよしえちゃんの言葉はピストルで撃たれたような、クヨクヨしてた頭がパーンってはじけるような感覚で、同時にめちゃくちゃ嬉しかったです。一度しかない人生、これでいいの? いま行かないで後悔しないか? とずっと悩んでいたから、「絶対こんなチャンス誰にでも来るもんじゃないし、乗ったほうがいいよね!」とその気持ちも共有できて嬉しかった。かほちゃんとひろちゃんにもどう思う?と恐る恐る聞いたら、普通にOKって言ってくれて。このバンドを尻込みさせてたのは私だったんだなと思いました。
日本に帰ってから、ジャニスとジョージに「やっぱりプロでやっていきたいから仕事を辞めようと思う! 来年のツアーを組んでほしい」と頼みました。ジャニスは「めっちゃプレッシャーやわ」ともこぼしてましたが、今はいいタイミングだと思うと言ってくれました。そのあとダウンタウンミュージック(出版社)からも一緒に仕事がしたいとメールが来て、いろいろと時間をかけて打ち合わせしながら退職に至りました。
よよよしえ:2019年の『SXSW』の話があっこちゃんからも出ましたが、もともとはと言うと新卒で入った会社を一度辞めてまして、その仕事を退職するまでは「普通に働いて親安心させて結婚とかしちゃったりすることが幸せなんだろうな」とマジで考えていたクソお花畑脳みそ野郎だったんですけど、まあ冷静に考えればそれが本当に幸せかどうかは人それぞれじゃないですか。
で、その会社に入社したまでは良かったんですけど、仕事はクソ、人付き合いはパワハラ上司のみ、友達もいない、仕事も私生活もハイパーめちゃくちゃ、なんも信じられへんみたいな状況が続いて。結果、仕事も辞めてあらゆるものをなくしたんですけど、その時に唯一待っててくれたのがおとぼけビ〜バ〜で、「あ、私、これしか残ってないし、あっこちゃんがこのバンドやりたいって言うてる限り私はこのバンドに私を捧げよう」ってなったのがおとぼけをマジのマジで続けていくきっかけの一つでした。究極を言うと、あっこちゃんに「このバンドにお前いらない」ってなったら全然身を引くレベルでやっています。あんまりそう見えないと思うけど。
で、その決意後はわりとすぐに再就職ができて、みんなも正社員で働いてたのでその時のスタンスとしては仕事をやりながらというのはあったのですが、自分的には一度おとぼけビ〜バ〜に自分を捧げる決意をしてたので、仕事を辞めることには何の抵抗もありませんでした。あと、単身で求める生活の質(QoL)も他のメンバーと比べてかなり低いので、失うものが何もなかったっていうのもちょっとはあるかもしれません。ただ、再就職した先がほんとにホワイトで、職場の人みんなが応援してくれてたのと、とにかく居心地が良く「仕事って楽しいな〜」って思える場所だったので少し惜しいなという気持ちは正直ありました(笑)。今でも会社の自慢を友達にしちゃう時があるくらい良い会社でした。
ひろちゃん:あっこちゃんにどう? って訊かれた時、私はアルバイトだったこともあり、「仕事にこだわりないし! バンドして辞められるなら最高!」と正直、少し軽い気持ちだったと思います。徐々に新しい環境への不安を感じ始めた時、暗い声で母親に電話をしました。その時「そんなことまで考えてるの!」と大笑いされ、そういえばこの人、楽観的だった…私もそうなってみるか、と楽しむ覚悟ができたのを覚えています。仕事も確かに楽しかったし、充実していましたが、バンドしてる自分とどちらが好きか? ってなったら当然今の自分で。未来の自分にわくわくしながら生きていける人生をもらえたことは本当に嬉しいです。あっこちゃんにやりたいことがある限り、私はおとぼけビ〜バ〜でいたいなと思います。
かほキッス:『SXSW』のホテルで話した時、仕事を辞めることについては何の躊躇いもなく賛成しました。当時、バンドに加入して約1年半でしたが、活動の中でしっかり手応えを感じていましたし、集中したいと思う時もあったので、バンドに絞ることに対して不安はなかったです。私自身、周りの環境を変えることもあまり抵抗がないので、帰国後はすぐ準備に取り掛かりました。いつでも個人練習ができるように音楽スタジオの近くに引っ越したり、貯金のために転職したり。
それまで務めていた会社も好きで選んだ仕事だったので、離れるのは寂しかったです。でも、やってきた経験は減らないし、これからは想像できない経験ができる。行ったことない場所にも行ける! 10年、20年経ったら自分はどうなってるかな!? と想像すると寂しい気持ちは消えてわくわくに切り替わりました。これからが本当に楽しみです!!!
また、バンド活動に力を入れることに対していろんな方に応援してもらえたこともエネルギーをもらいました。バンド活動をしているといろんな人に支えてもらっていることを実感します。私もどんな形でもいいのでおとぼけビ〜バ〜の活動が誰かのパワーになれるように、調子良くやっていきたいなと思っています。
バンドのことだけを考えればいいのは嬉しい
──現時点で、バンド活動にはどのような変化が起きていますか?
あっこりんりん:自分としてはやっぱりプロになって本数も増えるので、体調管理と声に対してめちゃくちゃ気を遣うようになりました。スタジオにはいっぱい入れるし、考えることもバンドのことだけを考えればいいというのは嬉しかったです。
今は京都と大阪間の電車移動を避けるために練習も自粛しているので、ラインや電話でどういうことをやっていくか、毎日のように連絡を取り合っています。
よよよしえ:人生で2つ目の仕事を辞めてからもしばらくは手続きやらなんやらでバタバタとしてて、その流れでツアーが始まったのでツアーが終わるまではけっこう目まぐるしい日々を過ごしてました。こっちに帰ってきてコロナの問題がかなり大きくなりだして、3月27日・28日に東京2デイズを予定してたのですがキャンセルを決断。自分が何よりも楽しみにしてたぶん、これがほんと残念でした。ヨーロッパ・ツアー中に急遽決めたライブだったので周りにもいろいろと手伝ってもらってたのと、何よりヨーロッパ・ツアーから帰ってきた私たちを楽しみにしてくれてた人に申し訳ないなという気持ちでした。
とにかく今は「次なんかできへんかな」の精神で日々過ごしております。常に楽しいこと考えるスタンスです! 乞うご期待で(基本的に課金で楽しいやつ)。直近で言うとおとぼけビ〜バ〜でnoteを始めました。インタビュー自体お声をかけていただくことも少ないので、自ら発信するスタイルでいこうかと。これも課金スタイルなのですが、ぜひ見ていただけたら嬉しいです。
ひろちゃん:ツアーを終えて帰国してからは自粛もあり、時間ができたので音楽に触れる時間がかなり増えました。ベースを楽譜に起こしたりバンドのコピーしてみたり、高校生の時にやっていた練習をもう一度してみたり。その様子を少しSNSにもあげていければいいなと思ってます。あとは今回のツアーで2つのフェスに出て、こんなバンドがいるんやと感動するような出会いもありました。そこからかなり音楽を聴くようになったと思います。私にとっては一番大きな変化です。
かほキッス:今はコロナの影響でスタジオ練習でさえできない状態なのですが、できることを探してどんどん活動したいです。