Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー高橋サヨコ(ex.ゼルダ / サヨコオトナラ)「時空を超えて魂を揺さぶる〈野性のゼルダ〉の尊い純真性」

時空を超えて魂を揺さぶる〈野性のゼルダ〉の尊い純真性

2019.06.07

 これを日本のパンク/ニューウェイヴの最重要発掘音源と呼ばずして何と言おうか。和製ガールズバンドの先駆者として、既存のロックの鋳型にとらわれず自由奔放なスタンスでポストパンクの時代を駆け抜けたゼルダ。その揺籃期からメジャー・デビュー前後までの軌跡を追った最初期音源集『はじまりのゼルダ』は、新宿ロフトや渋谷屋根裏などのライブ音源が数多く収録された貴重なアーカイブであると共に、バンドの音楽的変遷を語る上で決して欠かすことのできない重要作としてオリジナル・アルバムと比肩する位置付けがなされるべき作品だ。高橋サヨコ(ボーカル、クラリネット)、小嶋さちほ(ベース、ピアノ、コーラス)、鈴木洋子(ギター、ベース、コーラス)、野沢久仁子(ドラム、コーラス)からなる初期ゼルダのプリミティブなアンサンブルと歌は今なお清冽な輝きに満ち溢れ、初期衝動に突き動かされた純然たる表現は時空を超えて聴き手の魂を激しく揺さぶる。稚拙さなどものともしない美しさや滾るエネルギーを内包した、二度と戻らぬ蒼の時代の二度と為し得ぬ無垢な表現。その根源にあったものは何だったのか、『はじまりのゼルダ』の監修を務めたサヨコに話を聞いた。(interview:椎名宗之)

尖っていた十代の自分と今の自分の温度差

──15年ほど前から最初期の音源集を出す話があったそうですね。

サヨコ:私はゼルダ以降もいろんな形で音楽活動を続けてきたので、それに集中すると過去のことは振り返りにくいんですよね。それに子育てもしていましたし、自分の十代の尖っていた時期を振り返る余裕がなかったんです。最初期の音源集を出す話をいただいた時は自分でも出したい気持ちがあって、何度か打ち合わせもしたんですけど、なかなか着手には至りませんでした。当時ゼルダで出していた音の感じやメッセージ性が話をいただいた時の自分とは温度差があって、自分であって自分ではない感覚があったし、タイムカプセルを開けたような不思議な気分だったんです。自分自身、むしろ衝撃のほうが大きかったし、それを人に伝えていくところまでの行動に移せなかった。出せば終わりってわけじゃないし、出たら出たでいろんなリアクションがあるじゃないですか。

──出す以上は責任を持って、しっかりした内容にしたかったと。

サヨコ:そうですね。ライナーノーツもちゃんと書きたかったし、昔の写真や資料も探して整理した上で提供したかったので。そうやって中途半端なものにしたくなかったことも出すのが遅れた要因のひとつなんですが、図らずもこの平成から令和になる節目に今回のCDを出せたのは良かったと思います。ライナーノーツも実は1年くらい前にはほぼできていたんですけど、マスタリングしたり、いろんな人たちに確認の連絡を取っていたらこんなタイミングになってしまって。何と言うか、いま出さないともう二度と出せないと思ったんですよ。それで必死になって作業に打ち込みました。とにかく約束は守りたかったし、出せば自分もすっきりするだろうという一心で(笑)。

──実際、すっきりできましたか?

サヨコ:そうですね、今は出たばかりなので。私の知る限りですが、CDを聴いてくれた人たちがすごく喜んでくれたのがとても嬉しかったです。それもノスタルジーだけではなく、CDを聴いたことで元気ややる気が出たとか今に繋がっていることがとても嬉しかった。そうやって今に繋がることがあれば、またみなさんといろんな形で出会えるかもしれないし。ただゼルダに関しては、その時の空気感や時代性の中でその時のメンバーでやっていたものなので、その形だけでも再現してほしいというリクエストがもしあったとしても、それをただなぞって演じるような感じになってしまうと思うんですね。だからそういうことはできませんけど、今回のCDみたいな形でみなさんに伝えられることはあるので、時間はかかったけどこうして形にできたのは本当に良かったと思っています。

──当時、観客だった方が録音したカセットテープから起こされた音源がバンドに渡ったことがそもそもの発端なんですよね?

サヨコ:最初はチホさん(小嶋さちほ)と当時のマネージャーに音源が提供されて、その後、私に音源が委ねられたんです。最初はなかなか聴けずにいて、しばらく寝かせておきました。サヨコオトナラで頻繁にツアーにも出ていたし、すごく忙しかったのもあって。

zelda_jkt_web.jpg──ジャケットの写真はいつ頃に撮られたものなんですか。

サヨコ:あの写真の確認にけっこう手間取ったんですよ。日本フォノグラムからファースト・アルバムを出すタイミングでフォトセッションをした時の1枚で、その時の写真を何枚か見つけ出して、今回はこれが一番いいなと思ったんです。でも最初は誰が撮ったのかがわからなくて、それを辿って事実確認をする作業も時間がかかりました。

──音楽性自体もそうなんですが、この写真もまたタイムレスなんですよね。メンバーのビジュアルも古びた印象がないし、時代不詳なイメージを受けます。

サヨコ:ゼルダというバンド名は、1920年代のアメリカの小説家であるF・スコット・フィッツジェラルドの妻だった女流作家、ゼルダ・フィッツジェラルドから命名されたんです。あのジャニス・ジョプリンも憧れていた女性で、チホさんがあの時代が好きだったんですよ。ローリング20と呼ばれる1920年代のアメリカの洗練されつつもデカダンな時代が。だからゼルダは最初から時代を超越した感じがどこかにあったんだと思います。

 

クリエイティブな3人のおかげで自由に歌を唄えた

──それにしても今回の音源は音が素晴らしく良いですね。とてもカセットから起こしたとは思えないほどのクオリティで。

サヨコ:マスタリングしたら格段に音が良くなって、すごく聴きやすくなったのが嬉しかったです。当時の良い状態で録音してあったことも大きいですよね。とは言え、やっぱり照れくささはあります。自分の15、6歳の頃の日記を世間に公開するようなものですから(笑)。でもマスタリングしたことで演奏がとてもクリアに聴こえるようになって、自分たちのことながらすごいグルーヴ感だなと思えたし、素直にいいなと感じましたけどね。メンバー3人はすごくクリエイティブだったし、だからこそ私は好きなように唄わせてもらえたんだなと今になって感じます。

──僕はメジャー・デビュー以降の洗練されたゼルダしか知らなかったので、非常にパンク色の濃い〈Disc-1〉の音源を聴いて見識を改めたんです。初期のゼルダはこんなにもパンキッシュで、エキセントリックかつエモーショナルなバンドだったんだと驚いたし、スリッツやストラングラーズといった海外のパンク/ニューウェイヴのバンドと引けを取らずにここまで呼応したバンドが日本にいたことに衝撃を受けました。

サヨコ:私もびっくりしました。チホさんのベース、ヨーコさん(鈴木洋子)のギター、マルちゃん(野沢久仁子)のドラムはいま聴いても素晴らしいですね。特にヨーコさんの弾くリフやフレーズはキラキラと突き刺さる感じで、本当に素晴らしい。

──そうなんですよね。たとえば「E=MC2」のギターの音色はとても色彩豊かで、これぞニューウェイヴといった感じで。

サヨコ:ヨーコさんはその後、ルースターズの下山淳さんの弟のアキラさんと一緒にCLANというバンドをやっていたんですけど、今は音楽活動を全くしていないんです。今もずっと仲良しなので、今回のリリースにあたっても会って話をしましたけどね。

──今回の収録曲を聴くと、楽曲の成り立ちと変遷が窺えるのも興味深いですね。「BE-POP」はのちの「ロボトメイア」だったり、「密林」はのちの「密林伝説」だったり。

サヨコ:ゼルダを知っている方はそういう変遷を感じられますよね。逆にいまパンクやニューウェイヴに響いている若い世代には、こんなふうに自由に音楽をやれるんだよというのを伝えられたらいいなと思います。

ブロマイドa_sayoko_web.jpg──ジャンク・コネクションから出た最初のEPの楽曲(「Ash-Lah」、「ソナタ815」、「BE-POP」)、アスピリン・レコーズから出たソノシートの楽曲(「マッチングシュール」、「MACKINTOSH-POPOUT」、「灰色少年」)が収録されているのも資料的価値が高いですね。

サヨコ:貴重だと思います。「Ash-Lah」が入っているEPはマスターがなくて、盤起こしなんですけど。ちなみに以前、ソニーから出たベスト盤(『GOLDEN☆BEST / ZELDA-Time spiral』)にもEPに入っていた「Ash-Lah」と「ソナタ815」を収録したことがあります。

──何が驚異かと言えば、最初のEPをレコーディングした時点でサヨコさんはまだ弱冠15歳ということなんですよね。

サヨコ:私が高校1年生だった夏休みに、チホさんの千葉の実家で合宿をしたんです。その時に録った練習テープを、後でリザードのモモヨさんがミックスしたのかな。当時、他のメンバーはすでに成人していて年齢差もあって、私はレコーディングやバンドの動きにはほとんど関わらなかったんです。ゼルダに入った当初は自分の歌詞を自分で唄うことで手一杯だったので。ヒカシューの巻上公一さんがホーンで参加した、ソノシートに収録した法政大学のライブのことも覚えていますけど、あれもチホさんが巻上さんに話をして、気づいたら巻上さんがステージにいたという感じでした。

──当時のライブ音源を聴き直せば、その時のライブのことをわりと思い出せるものですか。

サヨコ:なんとなく覚えています。渋谷の屋根裏で初めて(遠藤)ミチロウさんと話をしたとか、新宿ロフトの裏で初めてs-kenさんと話をしたとか、ステージ以外の記憶のほうが鮮明かもしれませんけど。たとえばチホさんがMCで「今日は土人を2人お迎えして…」と話しているロフトのライブ音源を聴いて、ああ、これは清水(寛)さんだけじゃなくて、ていゆうさん(中村貞祐)がタイコを叩いているライブだなと思い出したんですが、念のために確認したら、ていゆうさん自身も忘れていましたね(笑)。何せ40年近く前の話だし、そういう曖昧な部分が多々あるんですけど、曖昧なのを承知で楽しんでもらえたらと思います。

 

このアーティストの関連記事

はじまりのゼルダ
最初期音源集 1980-1982

いぬん堂 WC-91〜92(2枚組CD)
2019年4月20日(土)発売

amazonで購入

【Disc-1】
01. Ash-Lah
02. ソナタ815
03. BE-POP
04. とまればまたくる
05. アヴァンブラ
06. E=MC2
07. WHY DON’T YOU?
08. PARADOX
09. つれてってよ
10. WHITE LIGHT WHITE HEAT(カプセルベイビー)
11. 密林
12. Ash-Lah(another version)
13. 灰スクール(灰色少年original version)
14. MERCY
15. +α
16. マッチングシュール
17. MACKINTOSH-POPOUT
18. 灰色少年

【Disc-2】
01. PLEASURE GROUND
02. アメリカナイズ
03. まっくら
04. E=MC2(another version)
05. ワルツ
06. シャンソニエ
07. クラリネット
08. ソナタ815(another version)
09. MACKINTOSH-POPOUT(another version)
10. 問1
11. スイッチひとつで
12. とらわれ
13. 黒い華
14. 開発地区はいつでも夕暮れ
15. マリアンヌ
16. ハベラス
17. うめたて
18. 野性のポケット
19. Z-JA-Z
20. スローターハウス

LIVE INFOライブ情報

地球屋16th Anniversary Day5
BASSMENT JAMMIN' Vol.174

2019年6月16日(日)国立 地球屋
【Kouchie Riddim Section】
(Ba.Kouchie / Gt.ARI / Dr.Yaggy)
Meets…
Vo.SAYOKO / Vo.Vin内田コーヘイ / Steel Pan.TICO / Key.Hakase-sun
【Yota Kobayashi -Reggae Set-】
Meets…
Gt.Yota Kobayashi / Ba.Koucie / Key.Couta / Sax&Per.西内徹 / Dr.西原ツバサ
【Selector】
AO INOUE / NAMETAKE
369 / 国立Yahman Crew
OPEN 18:00 / START 19:00
Charge ¥2,000+1Drink
Info 地球屋 042-572-5851

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻