ロックンロールでは絶対に嘘を唄えない
──そんなマモルさんが「お金がなくちゃ困るけど あんなに必要なんですか」「金がすべてじゃカッコわりぃ 金がすべてじゃ情けない」と唄う「イエーお金」はとても説得力がありますね。
マモル:まぁ、ぜんぶ頑固ジジイの戯言ですよ(笑)。今の時代、こんなことを言う奴が一人くらいいてもいいじゃないか! っていう。
──マモルさんにとって、最低限これさえあればいいというものは何ですか?
マモル:ギターとサウナかな(笑)。あと、ツアーに行くとよくいいなと思うのは、港とかの景色。わざわざ観光をするわけじゃないんだけど、ふらっと散歩してる時に見える景色ね。なんかいいなって思う。
──マモルさんのお膝元で言えば清水港とか。
マモル:うん。あと函館とか。いい景色を見るとそれだけで満足する。随分と安上がりな男だと思うけどね(笑)。でも自分にとって必要なものなんてそんなものだよね。ギター、サウナ、いい景色、ロックンロール。お金は生きていけるだけあればいいんじゃないかな。自分が楽しく生きていけるだけの金があれば。
──極論を言えば、ロックンロールと旅があればいいと。
マモル:そうだね。最近は開き直ってドサまわりなんて言葉を使ってるけど、ツアーをやりながらドサまわりをしてると面白いなぁって感じる瞬間が増えてきたんだよね。僕のことなんて知らない人たちの前でやるライブはいっぱいあるけど、「トーテムポール」みたいな新曲をやってお客さんがものすごく喰いついてくることがあったりする。それはものすごくちっちゃい世界かもしれないけど、自分の音楽が広がっていく瞬間は最高だからね。その瞬間がいつ訪れるかはわからないし、いつでも体調は万全でありたいから身体に負担はかけたくないんだよ。自分の体調管理に左右されるところが大きいからドサまわりってすごくリアルだし、それはメジャーでグレイトリッチーズをやってた頃には全然感じられなかった感覚なんだよね。ライブをたくさんやればやるほどお客さんも増えていくしさ。ツアーで得たものが次にまたアルバムを作る原動力にもなるしね。すごくちっちゃいことかもしれないけど。
──だから年間150本に及ぶワーカホリックなツアーも「嫉妬するほど楽しそう」に見えるのかもしれませんね。ロックンロールとはなぜこんなにも飽きないものなんだと思いますか。
マモル:正直だからじゃないかな。僕がロックンロールを好きなのは、自分自身に嘘をつかないところ。だから絶対に嘘は唄えない。デフォルメする部分はあるにしてもね。だから身の丈に合わない偉そうなことは唄えないし、無理に唄おうとすれば嘘になっちゃう。物事は立ち止まってじっくり考えることも必要なのかもしれないけど、ライブでお客さんと「ドーナッツ」「ドーナッツ」ってコール&レスポンスをしていると意味なんてどうでもよくなっちゃう。「ドーナッツ」「ドーナッツ」って言い合ってる瞬間は楽しければいいし、僕がどんな思いをしてその曲を作ったかなんてどうでもいい。お互い思いきり声を出し合って、また明日から頑張ればいいんですよ。
──なるほど。ロックンロールとは刹那的なものですからね。
マモル:たとえばチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」は田舎に住む少年のことを唄った他愛のない歌だけど、僕にとってはその時々によって聴こえ方が違うんですよ。普通に楽しい時もあれば、励まされる時もある。それは他愛のない歌詞だからいいんだし、あの歌がもし堅苦しい内容だったらそういういろんな捉え方はできないよね。それよりも「Go! Go!」と唄うだけで楽しませたり、励ましたりできるのは最高の落語みたいだし、チャック・ベリーは僕にとって永遠の憧れだし、究極の目標だね。
──「ドーナッツ」然り、「Go! Go!」然り、意味のないことに意味があるんですかね。
マモル:意味なんてないんだけど、こっちが勝手に意味を感じてしまう。完全に騙されてるんですよ(笑)。でもそれでいいんだと思う。チャック・ベリーは黒人のなかでもちょっと異質で、白人に虐げられた裏返しで妙に明るいじゃないですか。いつもお金のことしか考えてないしさ(笑)。人としてはだいぶ問題あるけど、そこもまた面白い。人間性を含めてトータルでロックンロールなんですよ。僕もそうなりたいね。ロックンローラーと言うより、もはや旅芸人みたいになっちゃってるかもしれないけど(笑)。