柳家睦の新たな挑戦が始まる。1週間連続ライブ『チャレンジ・ザ・ナイスミドル』、LOFT HEAVENでのレギュラー企画ショー『大衆キャバレー・ニューヤナギヤ』、そして4月にはもはや恒例となった『湯河原音泉歌謡祭』を3日連続で開催。さらに5月には『TOKYO BIG RUMBLE』を2日連続で開催と、柳家睦がいま激しい! ソロ・ユニットである柳家睦&THE RAT BONESも新作のリリースを控えており、勢いは最高潮。「湯河原ファースト」を掲げ、老人たちと子どもたちの橋渡しを考え、ある時はキャバレーの支配人として、またある時はバンドの歌手として、サイコビリー・シーンの真ん中より少し後ろ辺りで誰かをおんぶしているその男こそ、柳家睦その人である。[interview:景山潤一郎(THE PRISONER)]
柳家睦とイギリス人はロフトの犬!?
──お疲れ様です。2019年上半期はロフトプロジェクトとの連携が活動の支柱になっている印象を受けています。しかもバッチリ噛み合って面白さが増幅されている印象です。どういった流れでロフトプロジェクトと連動することになったのでしょうか。
睦:俺が地元の湯河原でやっている企画『湯河原音泉歌謡祭』、今年は4月27日、28日、29日の3日間で開催するんだけど、そのチケット発券を依頼したんだよ。ぴあとかプレイガイドの。あれ面倒くさいからさ。それでロフトの大塚(智昭)さんにコンタクト取っていたらロフトも協力するって話になったんだよ。だから『湯河原音泉歌謡祭』にはロフトも出店するしさ。そういった相互関係で生まれた話だよ。
──いま珍しくないですか。企業と言うか、この業界の組織で、自分がいいと思って金を出すと言うか、アーティストの背中を押すと言うか、育てると言うか。だいたいが切り詰められた予算内で回すことによって縮小したり、アーティストの飼い殺しがほとんどの中で。
睦:まぁでも、いい会社の使い方じゃないの。立場の使い方か。大塚さんが上手くロフトを使ってるんだよ。「カルチャーの側面からの見方」と「ビジネスの側面からの見方」のバランスがいいんじゃないかな。言ったことに関しては、けっこう「やっちゃいましょうか!」みたいなところがあるからね。意外とイケイケですから、あの人。だからそのイケイケ具合が要所、要所で顔を出すんだよ。
──たしかにそうですね。睦さんは昔からロフトとのつながりが強いと思いますが、大塚さんとのつながりってどのようにして生まれたんですか。
睦:大塚さんの前は東田(慎二)ってのが店長だった。いま恵比寿リキッドルームのブッキングをやってるんだけど。俺とロフトの関係はそこからだから。大塚さんとは「次の店長の大塚です。よろしくお願いします」からだよ。関係性と言えば、今では大塚さんの口車に乗せられているってくらいの感じだよ。ロフトの犬じゃねぇかよ! ってくらい。俺とイギリス人は。
──1週間連続ライブ『チャレンジ・ザ・ナイスミドル』にも挑戦されますが、これはロフト側からの発案だったのですか。
睦:イギリス人が毎年、新宿ロフトのバー・スペースで1週間ブチ抜き連続ライブをやってるんだけど、それを見て「これ、うちらもやれねぇかな、やりてぇな」と思って大塚さんに訊いたんだよ。そしたらその場で「やりましょう!」ってなったの。曜日、空き日の調整でロフトが埋まっている日はロフト系列の下北沢シェルターを押さえて。で、せっかくなんで下北沢シェルターはライブハウス的な雰囲気、新宿ロフトはバー・スペース、サブ・ステージだからキャバレー的な雰囲気で、会場によって違う雰囲気でやれたらいいなぁなんて思っているよ。
──バンド運営、物販製作、企画運営から宣伝、そして作詞作曲活動と激烈な忙しさ、超多忙の毎日の中でのレコーディングはどうですか。いい感じですか?
睦:いま疲れているのかどうかすらわかんねーもん! 正直、レコーディングに関してはまだ何にも見えてないよ。こんな感じになるんだろうなっていうのはわかるけど。まだ新曲に限っては音を1個、2個しか入れていないからね。
──いつもの「ヒッツビル・ジャパン」との異名を持つ大久保のスタジオMでのレコーディングで、五十嵐理(ザ・プリズナー)をエンジニアに迎えてのやり方ですか。
睦:うん。シングルで出している既発音源の再録はもう半分は録れてんだよ。6曲か。それにプラス新曲って形だから、今回は。新曲のうち1曲なんてさ、俺、存在すら忘れてたからね。歌詞がまるっきり出来てないから。
──楽曲は出来上がっているけど歌詞が全然追いついてないのですか。
睦:いや、そいつだけ。あとはまぁ、8割方は形になってる。あとどっか言葉を変えていくくらいかな。意味合いは一緒だけど。ニュアンスは変えたくないからね。
──睦さんの書く歌詞は柳家睦のソロ・プロジェクトになってからはもちろん、バトル・オブ・ニンジャマンズ時代から名言が多いですよね。「反省の色は何色だ」とか。あれは閃きや直感なんですか。
睦:いや、そんなんじゃない。昔にあった言葉なんだよ、日常の中に。「はたして何色だ? あれは」っていう話になって、みんなで話した思い出はあるかな。実際に前に言われたんだよ、「反省の色がねぇな」って。「反省の色ってどんな色だよ!?」って話じゃん。「そんなのあるのか、この野郎!」ってさ。
うちのバンドはインドのカースト制度と同じ
──これほどまでにタフな活動をされていると、バンドの結束力は向上するんじゃないですか? 1週間連続『チャレンジ・ザ・ナイスミドル』なんて、新曲がどんどん仕上がっていくのが想像できます。
睦:メンバーはすごい本気でイヤがってる(笑)。うちのバンドはインドのカースト制度と同じだからさ。独裁者だから、俺は。ピラミッドの頂点。だから俺がやるって言ったらやることになるんだよ。主従関係はハッキリしているからね。ただ演奏環境だけは整えてやってさ。「機材とか必要なものは全部置いとくからさ、お前らは仕事が終わったらすぐ来ればいいだけだから」って環境は作ってやってるよ。
──いい環境ですよね。演奏するって目的のプレイヤーからしてみれば、演奏場所もお客さんも用意されている状況で演奏すればいいだけですから、喜ばしいことですよ。
睦:まぁ、どうなの? お客さんが入ればいいと思うよ。わかんないよね。1週間ってけっこうなもんだよ。自分とこだって1週間連続ってどうよ?
──うちは無理ですね! 1週間なんて。まずメンバーが許してくれません(笑)。3月30日の『木更津ダイナマイトどんどん』が最終日ですが、何か所縁があるのでしょうか。
睦:あそこはね、基本、漁師町じゃん。千葉の中でも田舎のほうの、ビッグシティみたいな。もともとウケがいいんだよね、そういう場所って。
──睦さん、やっぱりそういう所に好かれるんじゃないですか? 広島の呉もそうじゃないですか。
睦:なんだろな。わかりやすい田舎っぺたちがなんとなく田舎っぺの俺を見てさ。「おおお! なんか歌手じゃん!」みたいなわかりやすい歌手と、それを見た客のわかりやすいリアクションが成立するからじゃないの。ステレオタイプの? 知らねぇけど(笑)。
──応援したくなる感じがあるんですよ。シンパシーと言うか、睦さんを透かして自分自身を見ている的な。いくら笑わせても睦さんのむせ返る不良感と哀愁にグッと心を鷲掴みされているんですよ。
睦:まぁでも、同じ田舎っぺっていうのがあるんじゃないのかな。
──その1週間連続ライブ『チャレンジ・ザ・ナイスミドル』が終わって、今年はついに3日間連続で開催される『湯河原音泉歌謡祭』はけっこう規模が大きくなってきてますよね。やり始めてから4年目ですか?
睦:5年目かな…5年経つか。
──今では町おこしみたいになっている印象を受けます。もう湯河原全体が協力態勢になっているように感じているのですが。
睦:いや、そうでもないよ。町の中でも知らねぇ奴のほうが多いもん。あんまり興味ねぇんだよ。俺らのまわりの奴とかは、多少金も動くし人も来るから賑わっている感じはあるけど、まだまだだよ。経済効果もタクシーくらいじゃね?(笑) 湯河原の旅館はゴールデンウィークだから黙っていたって儲かるんだよ。だから本当に客が入んねぇような時期にやったらスゲエと思うんだけど。トータルで考えるとさ、湯河原じゃそんなに客は入んねぇから。
──そうなんですね。地元を盛り上げるって素晴らしいことですよ。誰でもできることじゃない。湯河原でお客さんはトータルで入らないって言われてますが、旅館や温泉はどうなんですか。
睦:旅館は入るんだよ。客はなぜか入る。しかもボッてんの。もうこの時期からボッてんの。すげぇ早いよ、今年はゴールデンウィークが10連休だからバカ高い。まぁそれで食ってるからね。しょうがねぇか。
──サイコビリー・シーンを牽引し、『ビッグランブル』でクラブチッタ川崎の動員記録を樹立したりしていた頃から「いつか地元の湯河原で企画をやろう」と思っていたんですか。
睦:いや、ないな。別にそれは思ってなかった。ラットボーンズやってからじゃないかな。どこでも演ろうっていうスタンスに変えてからかな。だから湯河原じゃなくてもいいと思ってるよ。いま足利でやらないか? って誘われてるんだ。
──栃木県の足利市ですね。あっちでもそういうフェスを開催するってことですか。
睦:フェスって言うか、音楽祭と言うか、まぁ一回金勘定をなくしてトントンでやってみて何がいちばん売れるのか? っていうのを出して、そこから広げていくっていう。
──統計を一回出して、出店で何がいちばん売れるのか? と。売れているものを把握するってことですね。
睦:そうそう。入場料とか何かで考えるから面白くないんだよ。逆に0にして出店料を取って、「いくら売れた?」って。「ハコのイベントだと1日じゃ30,000円取るのは無理だな。じゃ、1日10,000円の、3日で30,000円。今まで5店舗だったのを、それじゃ無理だから10店舗に増やそう」とか。