ボーカリストのイメージ
——お2人とも、ボーカルを始める前はボーカリストに対してどういったイメージを持たれてましたか?
椎名:多分、誰もが思うと思うんですけど、絶対にモテるって。
卓偉:(笑)そうですか? その感じ、軽くないですか?
一同:(笑)
椎名:絶対にモテるって思わなかった? 俺たちの時代って、ボーカルとギターはモテるけど、ベースとドラムはモテないってイメージなかった? モテたくて言ってるんじゃないし、モテたいからボーカルをやってるんじゃなくて、客観視したらだよ。どんなに不細工でも、「なんでお前みたいな奴が?」って思うくらいな奴でも。
卓偉:今日も口が喋ってますね(笑)。
一同:(笑)
椎名:俺はそういうイメージがあったよ。イメージ何かある?
卓偉:椎名さんと僕で3年違うんで世代に若干違いがあると思うんですけど、僕の時代はほぼバンドってなかったんですよね。学校にもバンドを組もうぜっていう奴はほぼいなくて、個々にやってる人はいても、バンドを組もうと集まって、いくつもバンドが生まれるって感じではなかったんですよね。これは真面目な話で、僕はボーカルをやればモテるから、ボーカルになろうっていう意識はなかったです。
椎名:おいおい、俺だってねーよ。
一同:(笑)
椎名:客観視して、「自分がボーカルになる前に、ボーカルってどう思いますか?」「モテそうですね。」いーじゃん、これは別に。「じゃあ、何でボーカルになったんですか?」って言われたら、「いや、モテたくてです。」
卓偉:どっちなんだよ。
一同:(笑)
椎名:すいませんでした。結局モテたかったんです。
卓偉:これが慶治です(笑)。薄っぺらいです。
椎名:うるさーい! やかましいわ(笑)。じゃあボーカルを目指した理由は?
卓偉:僕は、最初はギターをやりたいなって思ってサイドギターだったんです。和音が好きだからコードを鳴らしてて。ちまちま楽器をかじってる奴が何人かはいたんで、無理くりバンドを組んでやろうってなった時に、ボーカリストなんて、恥ずかしくてそんなものは出来やしないって感じだったんです。その代わり歌は好きだって意識は自分の中であったから、ハモろうと思って。でもそのバンドのボーカルが、まあ下手だったんですよ(笑)。それで演奏が上手くなってもボーカルが下手だからみんな段々とクエスチョンになってきて、埒が明かなくて。周りもお前がボーカルをやったらって感じで、僕も自分が歌った方がいいのかなって、そういう自然な流れでしたね。
椎名:なるほどね。初めは、「ボーカルなんて恥ずかしくて出来ねーよ」って言ってたとこから、ちょっと押されて頑張ったってことなんだね。俺は、マスダっていうダブりの先輩がいて。同じ学年なんだけど1つ歳上っていう一番怖いやつよ(笑)。で、マスダって奴が歌がちょっと出来るもんだから、「俺が歌うからお前ら俺のために楽器やれ」と。これが最初で、高校1年の時に軽音部で。ギターは中学からやってた奴がいて、ドラムもかじってた奴がいて、キーボードがいないってなって、「椎名、キーボードやれ」って言われて、最初はキーボードだったの。
卓偉:鍵盤が弾けたんですか?
椎名:弾けないよ。弾けないけど、中学の時からシーケンサーで曲を作ってて、どっちかって言うとシーケンサーも鍵盤が付いてるわけだから、何となく分かるから。最初はBOØWYの曲とかをやってたんだけど、BOØWYってさ、鍵盤がないんだよ。何を弾きゃいいんだってなるじゃん。
卓偉:そうですよね(笑)。いるだけキーボーディスト!
椎名:そうそう(笑)。それが俺のバンドの最初でした。軽音部でのキーボードから始まって、俺がボーカルになったのは友達から誘われたんだけど。俺は本当に不良だったんで、授業中でもずっと歌ってたんですよ。不良って言っても、不良品の方の不良で、ポンコツっていう意味の(笑)。授業中に「フンフ〜ン」ってよく歌ってて、周りはクスクス笑ってて、先生からチョークが飛んでくるみたいな。そういう学生だったんですけど、隣の席のキーボーディストだったマエカワくんっていうのがいて、「椎名くんって歌が上手いよね」って。で、マエカワくんに誘われて。
卓偉:図に乗っちゃった!
椎名:そう! で、学園祭に2人で出たのがきっかけです。
卓偉:その時はボーカリスト?
椎名:そう。マエカワくんがキーボードで、俺がキーボードに打ち込みが出来るから、リズムパターンとかベースラインとかのデータを全部入れて、鍵盤は生で弾いて。2人で出たら、もう後輩たちがギャーギャー言い出して。「あんな先輩いたの? 何、あの人!」ってなって。
卓偉:曲は何をやったんですか?
椎名:TM NETWORKとね、B’zとかかな。主にTM NETWORKだね。マエカワくんもTM NETWORKが好きで、授業中に歌ってたのがTM NETWORKで、それで声を掛けられてっていうところからで。それでモテるモテる。
卓偉:(笑)そこで勘違いしちゃったんだね。
椎名:ボーカルモテるぞっと。何の話だ、これ。
一同:(笑)
椎名:その日の学園祭のPAをやってたのが永谷喬夫。
卓偉:それが永谷さんだったんですか。
椎名:「椎名くん上手いな」って言って、俺の相方が観てたんだよね。
卓偉:永谷さんはその時はギターはもうやってたんですか?
椎名:そう、教員バンドで。先生たちに混じってギター弾いてて、めっちゃ早弾きしてたよ。たまに「ウィーン、ウィーン」ってドリル使ってさ。もうさ、ヴァン・ヘイレンよ(笑)。すげー後輩がいたもんだなって、俺も記憶に残ったの。それから後日、声を掛けられて。
卓偉:同じ高校だったんですか?
椎名:そう、同じ高校。だから俺がボーカルを始めたのは、モテるってとこかな(笑)。
一同:(笑)
——実際にボーカルを始めて、思ってたことと違ったことはありますか?
卓偉:そんなのはいっぱいありますよ。10代の頃はバンドもやってましたけど、ボーカリストって結局はセンターにいるから、批判にしても何にしても全部、まずはボーカリストにきますよね。
椎名:そうそう。
卓偉:自分のせいではなくても、全部自分のせいみたいになるし、すごく威張ってるようにも思われるし、出しゃばってるようにも見える。そういうところで、やっぱり傷付くことが多々ありますよね。
椎名:意外と小せーな、お前(笑)。
一同:(笑)
卓偉:純粋だから、本当。兄さんはB型でしょ。俺は純粋なA型だから。
椎名:あっ、じゃあ活字とかも見たくない人だ。
卓偉:見たくないっていうか、いいことはもちろん受け入れるし。
椎名:今はネットだけど、昔ってアンケートだったじゃん。アンケートの中に必ず良くも悪くも悪口って入ってくるじゃん。
卓偉:みんな軽い気持ちで言ってると思うんですよ。でもそれを「こういうもんだな」って思えたのが、30歳過ぎてからで。ステージで「こーで、あーで」っていうのは言い訳っぽくなっちゃうし、説明出来るわけじゃないじゃないですか。
椎名:説明してると言い訳だもんな。
卓偉:そうなんですよ。こんなはずではなかったってわけではないんですけど、ボーカリストっていうのは、いい意味でも悪い意味でも顔だから、いろいろ思われたり言われたりする立場にあるんだなっていうのはありますね。
椎名:これは俺も同じですね。そういうところを見てきてるし、苦渋はあるよね。俺は2人組だけど、やっぱりこっちにきますもん。こんなはずじゃなかったというか、やる時に「こうなるんだろうな」っていう覚悟が逆にちょっとありましたね。その通りになりましたけど。ボーカルを今から目指している人は、やめた方がいいと思う。
一同:(笑)
卓偉:本当に精神が図太くないとね。ステージの上で図太く生きられれば。心が決まっていれば、別にオフステージは関係ないと言えば関係ないんですけど。
椎名:そうそう。たまに話を聞くと、怖―な、気持ち悪いなって思うのが、批判的になっちゃうんですけど、エゴサする人がいるじゃないですか。自分でわざわざ、自分の批判とかがされてないかエゴサしにいって、Twitterとかで自分の名前を登録して、引っかかったやつを見て落ち込む。じゃあやめとけばいいじゃん、見なきゃいいじゃんっていう人がたまにいます。しかも先輩とかで。
卓偉:僕もそういう知り合いがいます。チェックしないと気が済まないって。
椎名:いるでしょ。それで傷付くくらいだったら見なきゃいいのに。俺は見ないんですよ。俺もやっぱり傷付くんで、見ないんですけど、逆にすごいなって思います。自分から突っ込んで行くんだって思って。
卓偉:そういうことを言うと、スポーツ選手の方がよっぽどキツイでしょうね。
椎名:そうだろうね。
卓偉:記録で戦ってる人とか、発言で「それ、どうなんだ」って言われる時代じゃないですか。でも気にしてたら、そんな記録なんか作れないはずですしね。
椎名:そうだね。俺たちは20年やってるけどさ、スポーツ選手は20年も出来ないからね。本当に短命じゃん。あんな短い中で、人生をそこだけで生きているわけだから、「何でこれを目指すんだろう」って、逆に怖いもん。俺には無理だな。プロ野球に入って、絶好調でプレイが出来るのって15年くらいでしょ。
卓偉:多分、15年もないんじゃないですかね。
椎名:もう俺たち、終わってるわけじゃん。すごい世界だよね、スポーツの世界は。リスペクトします。