わかり合いたいと願うその姿は美しい
──『ふとどきな果実』は、口にすると空洞だった目に瞳が入る謎の果実をめぐる物語ですが、この果実は何かのカリカチュアなのでしょうか。たとえば輪廻する念や執着といったような。
カヨ:『ふとどきな果実』では、主人公の夫婦は何かを信じていて、それを信じない人々は皆からっぽだ、と思っている。だから彼らから見ると、他の人たちの目は空洞に見える、という世界を描いています。でも違う立場から見れば、その夫婦のほうが空洞に見えているのかもしれない。あの果実は、念や執着、というものに近いですね。信じる思いが強すぎて、実ってしまうものなんだと思います。結局、夫婦は果実を実らせすぎてしまう。そして無理に他人に信じさせようとしたために、あのような結末を迎えてしまうのですが、その姿はできるだけ美しく描こうと思いました。世の中には自分とは違う考え方の人がたくさんいて、みんなとわかり合うことなんて絶対にできない。悲しいこともたくさんある。だけどわかり合いたいと願うその姿は美しいんじゃないか、という思いでつくりました。
小磯:ラストのシーンは、テロリストって、こんな気持ちなのかもなって思いながらも、あの夫婦を自分たちに重ねてもいましたね。
──『捕食』は本作の収録作品の中でもコミカルさが際立つ作品で、ゴミを漁って食べ物を探し続ける小磯さんの怪演ぶりが楽しめます。作中で手塚治虫の漫画『ブッダ』が映る場面がありますが、これはどんな意図があったのでしょうか。『ブッダ』に作品のテーマと重なる部分があるとか?
小磯:あの男性の住居には、実はいろいろなものが潜んでいるのです。『ブッダ』もそうですが、三島由紀夫の全集に、ギター。壁にはモナリザを裸にした絵画。この絵画は札幌の画家・松川修平さんの絵を使わせていただきました。これらをあちこちに配置することによって、今でこそ段ボールハウスの住人である彼がどんな人物なのか、なんとなく考えさせるような雰囲気をつくりました。自分たちの中ではかなり明確に人物像をつくったのですが、そこははっきり説明しないほうがいいかな、と思います。どんな人、というのは観る人がそれぞれに感じてくれたほうが嬉しいので。ただひとつだけ、彼についての情報を。実はあの部屋の中にはReguReguの最初の作品集『ゆめとあくま』に収録の『まりめろつうしん』に出てきた大きな時計も潜んでいるのです。裏の設定として、実はあの男は『まりめろつうしん』に出ていた男と同一人物なのです。何があってああいう暮らしになったのかは、また次回作で説明されるかもしれません。
──『いちばんのり』はストップモーション+実写+アニメーションを駆使したReguReguの全部盛りのような作品ですが、レース中に人形たちが向かい風を浴びる場面がとてもリアルですね。本作収録の作品で、もっともストップモーションで難儀したのはどの作品のどんな場面でしたか。
小磯:やはり『いちばんのり』のレースシーンは大変でした。レースに出場する人形たちを一度に並べると、狭い撮影部屋はぎゅうぎゅうで、走っているところなんかは撮れないのでグリーンバック合成をするしかない。それが技術不足で全然うまくいかず、試行錯誤の毎日でした。ストップモーションで映像をつくるようになって10年になりますが、まだまだ難しいことばかりですね。でもそのぶん、出来上がった作品を観るときの喜びはひとしおなのです。