精鋭部隊で臨んだコレクターズのライブ撮影
──梅田さんは川口さんのさまざまな映像作品をご覧になってどんな思いを抱いていたんですか。
梅田:基本的にセップの頃から変わってないですよね。もちろん進化はしてるけど、いい意味で変わってない。川口さんにしか撮れない画だなといつも思うし、ブッチャーズの『kocorono』(2011年)は特に印象深いです。冒頭の吹雪の画とかホントに狂ってるなと思いました(笑)。フロントガラスに吹きつける雪を車の中で延々と撮ってるわけじゃないですか。
川口:梅ちゃんは僕が映画監督としてデビューすることになった『77BOADRUM』(2008年)も観に来てくれたよね。77席しかない劇場で、通路に座って観てくれたのを覚えてる。
梅田:席がなかったんですよね。たしか公開初日とかで。
──『さらば青春の新宿JAM』には梅田さんも撮影に参加していますが、川口さんから直々にオファーがあったんですか。
梅田:たまに呼んでくれるんですよ。
川口:たまにじゃないよ、けっこう呼んでますよ。
──川口さんが監督を務めたスペシャのシリーズ番組『ニッポンのライブハウス』でも梅田さんが撮影クルーとして参加していましたよね。
川口:『ニッポンのライブハウス』もそうだし、ブルーハーブの『20YEARS, PASSION & RAIN』(2018年)でも梅ちゃんに来てもらったし、DIYでやらなきゃいけない時はまず梅ちゃんにお願いしてるんです。
梅田:バジェットが限られてる時はね(笑)。
──素朴な疑問なんですけど、写真を撮るのをメインにしている人が動画の撮影へスムーズに移行できるものなんですか。
梅田:最初は慣れるのに時間がかかりましたね。使ってるものは同じでも、考え方が違うので。写真はシャッターを一発切れば次の瞬間はファインダーを覗かなくてもいいし、次に撮るものを考えればいいけど、ムービーはそうはいかないんです。ずっとカメラを覗きながら構えてなくちゃいけないし、次の画までのあいだもずっと考え続けなきゃいけない。それが最初の頃はできなくて、一度撮ったらそのまま画を変えなかったんですよ。それで川口さんにすごい怒られて(笑)。
川口:怒った覚えはないけど、こうしたほうがいいとは言ったかな。
──写真が点なら動画は線ということですか。
梅田:そうですね。ムービーの仕事を始めたのは10年くらい前、GOMAさんがオーストラリアのバイロンベイでレコーディングをやることになって、そのついでにジャケ写やアー写も撮ろうってことでスチール係で呼ばれたんですよ。その時に使った一眼レフのカメラが動画も撮れたので、試しに撮ってみたら「なにこれ、すごい綺麗じゃん!」ってみんなにびっくりされたんです。動画を撮れる機能がまだ珍しかった頃だったので。そのついでに撮った動画がGOMAさんやスタッフに気に入ってもらえて使ってくれて、それから徐々にムービーの仕事をするようになったんです。
川口:その前からムービーもやってなかったっけ?
梅田:仕事としてはやってないですね。もともと僕は高校の時に映画を作るサークルにいたんですよ。本当は映画を作りたかったんだけど、日芸の映画学科と写真学科を受けて、映画学科に落ちて写真学科に受かったので写真を撮るようになったんです。
川口:いま思い出したけど、『さらば青春の新宿JAM』で梅ちゃんに撮影をお願いしたのは、『ニッポンのライブハウス』シリーズを梅ちゃんと何本かやって、その感覚がほしかったのもありますね。梅ちゃんならライブハウスの質感や匂いをよくわかってるし、だからいの一番に声をかけたんです。「12月24日空いてる?」って。ライブ以外でも新宿JAMの外観や内装のディテールも撮るようにお願いして、実際に本編に使ってますしね。
──梅田さんは撮影を手伝った『さらば青春の新宿JAM』をご覧になっていかがでしたか。
梅田:単純にすごく面白かったですね。コレクターズは有名な曲を聴いたことがある程度だったんですけど、新宿JAMでのライブがすごい良かったんですよ。撮ってて楽しくて、自分でもけっこういい画が撮れたと思ってるんです。そういう画を川口さんがだいたい使ってくれてて、ここは使うよねという感覚が近いんじゃないかなと思って。
──キャパ200人程度の小さなライブハウスでよくあれだけ多角的な画を撮れたなと思ったのですが。
川口:いやぁ、多角性ゼロだったと思いますけどね。
梅田:多角性があるように見えるのは、川口さんの画数〈えかず〉が多いからだと思うんですよ。レンズもいろいろ変えてましたからね。川口さんの画にはいつも感じるんですけど、同じ位置から撮っててもよくこんなにいろんな画が撮れるなって思うんです。そこはいつも勉強になりますね。
──新宿JAMでのライブは何人編成で撮影に臨んだんですか。
川口:全部で6人です。定点を入れるとカメラは8台。ステージ前は僕と梅ちゃん、ステージ袖にブルーハーブなどのスチールを撮影しているSUSIEさん、ドラムのほうにコレクターズの映像にここ数年ずっと関わってる山辺真美さん、客中にオールディックフォギーのMVを一緒に作ったカメラマンでコレクターズのアーティスト写真とかも撮影している後藤倫人さん、決め手は去年『MOTHER FUCKER』で監督デビューを果たした大石規湖さんですね。梅ちゃんも大石さんもライブハウスの距離感を熟知してるので、安心して撮影をお任せできました。