精神に破綻をきたすほどの生真面目さ
──梅田さんは『SOUNDS LIKE SHIT』を作り終えて、ハイスタはなぜこれほどまでに愛されているのだと思いましたか。
梅田:やっぱり3人の生き様が音楽に出てるからじゃないですかね。爆発的な成功を収めて、その反動でどん底まで落ちて、紆余曲折を経て今また上り調子にあるという凄まじい人生じゃないですか。
川口:そこが愛されてるのかな?
梅田:まぁもちろん楽曲がいいからというのがありますよね。
川口:僕はそれに尽きると思うんだよ。結局ね。
梅田:3人のケミストリーで生まれる楽曲の良さ、アンサンブルの素晴らしさはバンドを好きになる絶対条件だけど、魅力はそれだけじゃないと思うんですよ。その奥に沼みたいに底なしのドロドロした部分もあるし、懐の深さもあるし、人間くささもある。ハイスタを好きな人たちはただ好きっていうレベルじゃなくて、人生そのものみたいに思ってるファンが多いですよね。それは自分の人生を投影できる深さや広さがハイスタの音楽にあるからだと思うんですよ。
川口:そうだよね。曲は嘘をつかないし。あと、3人とも音楽に対してすごく真面目なんだよね。普通、バンドの中にはいい加減な人が1人くらいはいるものだけど、ハイスタは3人ともあり得ないくらい真面目。精神に破綻をきたすくらい真剣に音楽のこと、バンドのことを考えてきたんだと思う。
梅田:すごいストイックですよね。3人とも。
川口:歌詞は英語だけど、真面目さや素直さがそのまま出てるよね。このあいだ『AIR JAM 2018』を撮っててもとにかく真面目な人たちなんだなと改めて思ったし、そこは僕もすごく共感できる部分なんです。
──梅田さんは初めて長編映画を撮り終えてどう感じましたか。
梅田:川口さんのことをより尊敬するようになりましたね(笑)。
川口:いやいや、そんなことないでしょ。
梅田:ずっとこんな大変な仕事を続けてきたんだなと思ったし、2時間くらいの長編を作り続ける熱量は尋常じゃないなと。川口さんは苦労を表に出さずに飄々と仕事をするのがすごいですよね。
川口:それは僕がモッズだからじゃない?(笑) まぁそれは冗談だけど、梅ちゃんがこうしてハイスタの映画を撮ったのも何かの巡り合わせだと思うよ。自分の意思とは関係のないところで撮らされることってあるんだよね。それが僕の場合はブッチャーズの『kocorono』だった。吉村(秀樹)さん亡き今、それはすごく思う。吉村さんの魂が周囲のいろんなものを巻き込んで、あのタイミングで僕に映画を撮らせたとしか思えない。梅ちゃんがハイスタの映画を撮ったのも何らかのタイミングだと思うな。
梅田:だからこそのタイミングだったんでしょうね。じゃないと、この映画は撮れなかったと思いますよ。
川口:MINORxU君が撮った健さんのドキュメンタリー映画(『横山健 ─疾風勁草編─』、2013年)の時は、健さんも復活したハイスタを今ほど肯定してなかったしね。ハイスタをやることに対してかなり葛藤していたし。その理由が何だったのかと言えば、新曲をやらなかったからというのが『SOUNDS LIKE SHIT』を観ればわかるんだよね。
梅田:本当にいいタイミングで撮り始めて、いいタイミングで作り終えることができたと思います。ここまで3年弱かかりましたけどね。その間にハイスタも新曲を作ることになって、バンドとしてさらに成長していく時期だったし、側でそれを見て記録できたのはいい経験でした。
今この瞬間を一生懸命楽しむほうがいいんじゃない?
──月並みですが、どんな人たちに今回の作品を観てほしいですか。
川口:コレクターズのファンや当時の東京モッズ・シーンにいた人たちはもちろんなんですけど、若い世代にもぜひ観てほしいです。こういう面白い時代があったと伝えたいのもあるけど、ロックをやるにはこれくらいの気概がないとダメなんだよっていうのを僕は伝えたい。意地や痩せ我慢でバンドをやり続けることが格好いいのか格好悪いのかわかりませんけどね。東京モッズ・シーンでコーツというバンドをやってた(甲本)ヒロトさんは「やりたくなければやめればいいんだよ」という言葉を残してるんですよね。たしかにイヤなことを続けていく必要はないし、それはそれで格好いいと思うけど、少なくともコレクターズは生半可じゃない気概で今もまだ足掻き続けている。『さらば青春の新宿JAM』はバンドのドキュメンタリー映画だけど、いろんな映画と比べても遜色のない作りと言うか、たとえば劇映画を観た後に何かを感じ取るのと同じように、観た人に何かを感じてもらえる作りになっていると思ってるので、いろんな人たちに観てほしいですね。
梅田:僕もいろんな人たちに観てほしいというのは3年前に撮り始めた時から思ってましたね。たとえばブラジル人やインドネシア人が観ても、音楽が好きであれば楽しめるものにしたいと最初から念頭に置いてました。海外の人が観て「なんだこのバンド! すげぇな!」と思ってもらえたら嬉しいし、今がどれだけ大変な状況でも明日になればいいことがあるのかもしれないと観た人が思ってくれたらいいなと思って。絶対無いこともあるかもしれないけど、もしかして明日はいいことが起こるかもしれないじゃないですか。まさかの復活を果たしたハイスタみたいなことが誰かの日常でも起こるかもしれないと僕は思ってるんです。
──20年前はZKレコードまわりをウロウロしていた2人が今や同時期に秀逸な音楽映画をそれぞれ発表するのだから、人生は何が起こるかわかりませんよね。
川口:僕は音楽を題材にした自分なりの映画を作りたいと昔から思ってたんです。でも、梅ちゃんはまさかの転進だったよね。
梅田:これも運命なのか、人の人生ってわからないよなって思いますね。自分でも意外な展開だけど、単純に面白いですよ。
川口:まぁ、僕もコレクターズの映画を撮ることになるとは思わなかったけどね。でもコレクターズにしてもハイスタにしても、音楽映画をどこまで一般層に浸透させられるかが課題ですよね。世界中でヒットした『極悪レミー』もすごく面白いドキュメンタリーだったけど、あれもやっぱり一般層にまでは届いてない気がするんです。普通の人にまで波及するとは僕も思わないし、音楽が好きじゃないと音楽映画を観ないのも理解してますが、音楽を好きな人は洋邦問わずいっぱいいるわけで。だから全方位の人たちに観てもらいたいんですよ。……ところで、梅ちゃんは『SOUNDS LIKE SHIT』を通じて何を一番伝えたかった? 僕もそれを訊かれたら困るんだけど(笑)。
梅田:「人生ってすごいよ!」ってことしかないかな。ハイスタの3人に限らず、僕らも含めてね。みんなそれぞれ多かれ少なかれ大変なことがあるけど、明日どうなるかなんて誰にもわからないし、とにかく今この瞬間を一生懸命楽しむほうがいいんじゃない? って言うか。そういう強いメッセージをハイスタは常に発してるし、今回の映画を通じて伝えたかったのはそこかなと思うんです。
川口:なるほどね。僕は『さらば青春の新宿JAM』を撮って監督として何を言いたかったのか、自分でもよくわからないんですよ。でもそのわからないってこと、説明のつかない何かが重要で、いろんな人がいろんな解釈で観てもらえればいいのかなと思うんですよね。
(Rooftop2018年11月号)