全く無名なバンドのTHE TOKYOが2015年に新宿LOFTで1年間ぶっ通しイベント『LET'S GO LOFT!オレたちしんじゅく族』を開催してから、早くも3年の月日が流れた。毎回、「もっとこうしよう」「もっとこうしたい」とか、お酒を飲みながら話をしていたのが懐かしい。大変な思いをしても、転がり続けながらバンド活動を続けている彼等を見ていると、自分もライブハウスで働いて良かったと思う。
そんなTHE TOKYOが圧倒的な歌唱力を武器に、『男』をキーワードにして昭和の名曲をカバーしたNEWアルバム『男』をリリースする。
なぜ今の時代に昭和歌謡をカバーしたNEWアルバムをリリースするのか? そんな素朴な質問を投げかけてみた。そこには一つの美学にまっすぐに突き進むバンドマンの姿があった。[interview:柳沢英則(新宿LOFT)]
良い曲をカバーすると、自分たちをまた別のところに連れて行ってくれる
——俺たちが出会ってどのくらいになるのかな。
コダマアツシ(以下アツシ):4年ぐらいですかね。下北沢のCAVE-BEによく出てた頃から。
——(当時店長の)荒川さんとやってた頃か。
アツシ:もう無くなってしまって別の店になってますけどね。
ミヤシタツカサ(以下ツカサ):KITAZAWA TYPHOONから柳沢さんとは付き合いが始まりましたね。
アツシ:そうだね。その後、柳沢さんがLOFTに移るってことで、「何か面白いことしようよ」ってことで、そこから『俺たちしんじゅく族』っていう突拍子もないイベントをやりましたね(笑)。
——一年ぶっ通しでやったね。
アツシ:俺たちがやってる音楽って最初というかその頃から結構変わってきてません? 今回のアルバムは聞いてくれましたか?
——今回のアルバムを聞いたけど、選曲がすごいイイね。
アツシ:間違いないです(笑)。でしょ? って僭越ながら自分でも言いたいですね。
——あれはメンバーが決めたんだよね?
アツシ:みんなで決めました。THE TOKYOって一番最初はAerosmithとか、ああいうのをやりたくてやってたんですよね。
ツカサ:ちょっとハードロック気味でしたね。
アツシ:そう。その時はスカジャンも着てなくて、俺は白のセットアップなんか着て髪ももじゃもじゃ、髭も生やしてて。そこからだんだんと自分たちの好きなものを突き詰めていったら一つ極致に来れたかなって感じがしてますね。今回のアルバムも一つの極致かなって思うんですけど、あれを聞いて一番思ってほしいのはやっぱり、「良い曲だな」ってことなのでそう言ってくれるのは嬉しいです。
——カバーアルバムを出そうってのは自分たちで決めたの?
アツシ:俺たちはずっと自分たちだけでやってきたんですけど……たまたまライブで知り合った人がレーベルスタッフで、その人が昭和歌謡のカバーアルバムを一緒にやらないかと言ってくれて。
——その発想はすごいよね。
アツシ:本当に面白いなというか、晴天の霹靂でしたね。スカジャンを着てるし昭和っぽいと言われることはありますけど、ダイレクトにそういうものを録ろうって言ってくれたのはすごい面白くて。そこから一年ぐらい揉んでどんなアルバムにしようかって考えていて。
——結構前から動いてたんだね。
アツシ:そうですね。それこそ何十曲も候補を出して軽くカバーアレンジして、その中から決めていきました。
ツカサ:最初は『男』っていうコンセプトはなくて、昭和歌謡っていう広いイメージで考えていて……それこそ山口百恵とかも挙がりましたし。
——前にもクールスのトリビュートアルバムで「ひびわれたグラス」をカバーしてたね。
アツシ:それがあったのも面白いなって思った理由ですかね。俺たちは、俺たちの好きなものを誰に何を言われてもやっていこうぜってことを一番大事にしてるんですけど、ただ少し寂しい想いもあるんですよ。俺たちが好きなものを好きって言ってくれる人が周りにあまりいないっていうのは。そのことが昭和歌謡のカバーアルバムを出すってことと繋がるなと思って。俺たちが好きなものはこんなにかっこいいんだ、ってことをTHE TOKYOを通して知ってもらえたらなと。俺っていうフィルターだったら、俺がかっこいいと思ってることを俺が表現するわけだから一番伝えれるなと、そういう自信もありましたね。
——歌もハマってたね。
アツシ:でも何度も録りなおすってことを人生で初めてしましたね。柳沢さんは「ひびわれたグラス」を録ったときに一緒にいたので知ってると思いますけど、あの時はミックスブースでハンドマイクを持って1,2度仮歌を歌ったらそれでOKって感じだったので。今回は1曲で1時間歌いっぱなしとかもありましたね。
——レコーディングはみんな別々で?
ツカサ:そうですね。ドラム録ってベース録ってギター録って……と重ねていきました。
アツシ:ああでもないこうでもないと試行錯誤を重ねましたね。自分たちで作ったものは自分たちの中で出来上がってるのでそれは上手くいくんですけど、やっぱり人のものをやるってのは面白かったですね。良い曲をカバーすると自分たちをまた別のところに連れて行ってくれるような。1曲歌うごとに自分の中で何かが芽生えていって、その感じが面白かったですね。昭和歌謡……まぁ昭和のものを表に出すっていうのは、思い入れとはまた違うかも知れないですけど、好きだっていう気持ちをバンと出すのが気持ち良くて。この1年は大変でしたけど納得いくものができたと思います。
どれだけ自分たちが信念をもってやっていくか
——このカバーアルバムのレコ発とかもやるの?
アツシ:もちろん。4/22(日)に下北沢THREEで。俺たちみたいに好き勝手やってると集まってくる奴もおかしなやつばっかりで。今回は10年ぐらい付き合いがある笹井トシオっていうDJが仲間とやってるBLAST JAMS!! ってやつらと一緒にやろうってなって。
——今度そこからレコードも出すんだよね?
アツシ:そうですね。2/16(金)の深夜にそいつのイベントで発売ですね。
——それはオリジナル?
アツシ:1曲オリジナルで1曲洋楽のカバーですね。カバーはThe StranglersのNo More Herosをやりました。なので、去年はいろいろチャレンジしたなって感じですね。
——大貫憲章さんのイベントもよく出てたよね。
アツシ:この活動は全部修行……何なら死ぬまで修行だと思ってますけど(笑)。例えば柳沢さんとやってたときはLOFTっていうでかいハコで、毎月若い奴が好きなメンツを呼んでやってましたけど、それは自分たちのライブっていうものの修行でしたね。その次に始まったのが昔から脈々と続けてきたDJたちとの活動ですね。それが一昨年の終わりぐらいから始まった大貫さんとの繋がりで。今考えると、自分たちの感覚を研ぎ澄ませていこうという気持ちでしたね。それを今回レコードとカバーアルバムという形で1つ外に出せるのかなと。ある意味一区切りというかこれまでの修行の成果を出す場になりました。
——最近はSAとかにも可愛がってもらってるみたいだね。
アツシ:俺らはミュージシャンとかアーティストにイイねって言ってもらえることが多くて、本当に嬉しい限りなんです。
——氣志團の翔さんにもtwitterで「THE TOKYOイイ」って言われてたしね。
アツシ:始めた頃は、「お前らをどこに入れたらいいかわからない」って言われてアイドルから何から、それこそいろんなグループと浮き草のようにやりましたけど、だんだん周りの環境が変わってきて、もちろん自分たちは変わりませんけど、支えてくれる人が多くなってきましたね。
——仲野茂さんとかとも最近親交あるよね。
アツシ:ゲルさんは最高ですね、この前、朝まで一緒に酒飲みましたよ(笑)。……よくまわりの人に言われるんですよ、「よくそんな感じで喋れるね、恐縮しないの?」って。でも俺たちは知らないんですよね、昭和という時代を。俺たちが小さい頃に聞いていたのは小室とかですからね。昭和はノスタルジーの対象ではないんですよ。
ツカサ:単にいい曲を探していった結果、辿りついたというか。
アツシ:探していって、良いなと思ったのが日本の昭和の曲が多かったのかなと。
——じゃ今バンドの調子はいいのかな。
アツシ:漲ってますね。
——レコード出してカバーアルバム出して、今後の展望はあるの?
アツシ:好きなことを続けていくっていうのは変わらないですけどね。多分、ここからもっとハードになっていくと思うんですけど。勢いでやれるのはここぐらいまでで、あとはどれだけ自分たちが信念をもってやっていくかです。個人的に言ったら、もっとでかい音楽をやってみたいなと。それこそ世良公則&ツイストとか、80年代の矢沢栄吉とか、ああいうスタジアムな音楽に最近興味があって。
——似合いそうだね。
アツシ:俺たちは下手糞なんで(笑)。口ばっかり達者で。そういう意味でも今回のカバーアルバムは勉強になりましたね。今までみたいに衝動だけでは表現できないことに自然とぶちあたってきて、それを乗り越えていく作業は面白かったですね。
——じゃあ次はがっつりオリジナルのアルバムを。
アツシ:作りたいですね。それが楽しみです。
一本通った男って滑稽でカッコイイ
——カバーアルバムの展開も結構あるの?
アツシ:いろいろありますよ。興味を持ってくれる人は多いみたいです。ヴィレッジヴァンガードとかも面白がってくれる方がいて嬉しいですね。レーベルの方も動いてくれていて、本当に俺らは色んな人に支えられてますね。因果な話ですけど、俺たちほど好きなことやって来たバンドはいないと思うんです。ただ一方で、どこのバンドよりも色んな人が協力してくれているバンドだという気がするんです。そうやって面白いなって思ってくれる人が増えていったらいいですね。それは俺たちが好きなものを認めてもらう手段だと思うし、住みやすい世界になるんじゃないかと。
ツカサ:俺たちが、住みやすい世界ですね(笑)。
——そういう信念が人を動かすんだろうね。
アツシ:ありがとうございます。俺たちのライブを見たあとって面白がってくれる人が多いんですよね。俺がライブの時に思ってることは1つで、「誠心誠意ど真ん中」その言葉だけで。その場でどれだけ全力を尽くしてどれだけ真剣にやれるかってことだけを考えてライブをするんですけど、その結果の感想が「面白い」で。これって俺が初めてTH eROCKERSとかを見たときの感想と同じなんですよ。俺たちがカッコイイと思う人って、やりすぎてダサいぐらいまでいってるんですよ。
ツカサ:一本通った男って滑稽でカッコイイんですよ。笑えてしまって親しみがあるような。
アツシ:そうだな。滑稽なレベルまでカッコイイバンドを、たまたま俺たちが昭和のバンドに多く見出したってことだと思う。
——ワンマンとかはやらないの?
アツシ:やりたいですね、LOFTで!
ツカサ:3周年ワンマンがSHELTERでしたから、次はLOFTですね。
——あれがもう一昨年なんだね、今5年目か。
アツシ:もう当時、一緒にやってたバンドもやめてる奴は多いですね。それこそ柳沢さんとやってた時と比べると体感からしたら半分ぐらいになってるような。
——あの頃でいうとYellow Studsとかはまだまだ頑張ってるけどね。
アツシ:この前、久しぶりにライブを見に行ったんですよ。相変わらずかっこよかったです。変わらないカッコよさというか。もちろん良い曲もたくさんできていて演奏も素晴らしくなっていってるんだけど、芯がブレないというか。それこそゲルさんとか見ててもブレないカッコよさがあって刺激になりますね。うちのメンバーはどちらかというとバーンとやって目立ちたいっていうよりは良い曲を作りたいってことの方が大きいんですよ。だから、同じように良い曲をやっている人たちにどんどん会わせてやりたいってのもありますし。俺自身も自分に響くような人を求めて動いてきたのかも知れないですね。