不良っぽさと音楽に対するピュアさのバランス
──ストーンズのカバーから遡ってオリジナルを聴くこともありましたか。
花田:うん。それなりに。
佐々木:オリジナルがチャック・ベリーの「カム・オン / Come On」もそうだけど、ストーンズのカバーはテンポが速いじゃないですか。ブルースのカバーもだいたい速くなる。そこがいいんですよね。リズム&ブルースがたまらなく好きで、もう我慢できない! って感じが出てて。
花田:そうそう。いいよね。
──今回発売された『オン・エア』を聴いてみて、いかがでしたか。
佐々木:上手いなと思いましたね。こんなに演奏が上手かったんだ!? ってびっくりしました。
花田:俺も上手いなと思った。演奏がしっかりしてるよね。
──ミック・ジャガーもキース・リチャーズもまだ弱冠20歳なのに。
佐々木:(DJブースに掲げられているストーンズのファースト・アルバムを見ながら)あんなに生意気そうな顔つきなのに演奏がすごく上手いんだな、っていう。あと、チャック・ベリーの「カム・オン」でオリジナル通りの高い声で「カム・オン!」と真面目に唄ってるのがかわいいなと思って。
花田:それと、音がすごくいいなと思った。
──たしかに。アビイ・ロードのエンジニアたちが最新の技術を駆使して音のバランス調整をして、質感のある音に仕上げたそうですからね。
佐々木:そもそもの話なんですけど、今回の音源はラジオ番組のためにライブ演奏したものなんですか?
──そうです。当時のBBCラジオではレコードをそのまま放送することが規制される時間帯があったらしくて。「レコードをかけると演奏家の仕事が減る」という理由で、ミュージシャンの労働組合がレコードを流すことに反対していたそうなんです。それでストーンズも生演奏を余儀なくされたという。
佐々木:今回の音源を聴いてると、ストーンズって不良っぽさもあるけど、すごくピュアだなと思うんですよ。リズム&ブルースがめちゃくちゃ好きで、とにかくそれを自分たちでやりたくてしょうがない! って感じがよく出てる。不良っぽい佇まいと音楽に対するピュアさのバランスがいい。
花田:まだ若いのにああいう渋い音楽の趣味をしてるのが面白いよね。
佐々木:今回の収録曲のなかでいえば、俺は「ウォーキング・ザ・ドッグ」とかが好きですね。オリジナルはルーファス・トーマスが唄うすごく元気で楽しいソウルの曲なので、カバーしたら楽しくやれそうな気がする。
花田:(紙資料の収録曲を見ながら)「ウォーキング・ザ・ドッグ」もそうやし、ルースターズでやった曲ばっかりだね。でもこういうむかしの音源が光るのは、ストーンズがいまだに現役で活動してるからだと思う。バンドをやめてたら、こういうのも過去の遺産みたいになっちゃうしね。
──古典的なブルースのカバー集『ブルー&ロンサム / Blue & Lonesome』(2016年12月発表)という原点回帰の作品を出したあとに来るアルバムだし、いまのストーンズはそういうモードなのかもしれませんね。ストーンズが新作を出すといつも必ずチェックしますか。
花田:いちおう聴くよ。でもいまはストーンズの新作よりもキースのソロのほうが好きかな。ストーンズはもう大名っぽいっていうか(笑)、それもしかたないところがあるんだろうけど、個人的にはキースのソロのほうが聴いててラクだよね。その人のパーソナリティが出たアルバムが性に合うのかもしれない。ロン・ウッドの『俺と仲間 / I've Got My Own Album To Do』(1974年9月発表)とかも好きやしね。
佐々木:俺はストーンズの新曲が出るたびにドキドキして聴いてますね。結成50周年記念のベスト盤(『GRRR! 〜グレイテスト・ヒッツ 1962-2012〜 / GRRR!』、2012年11月発表)に入ってた「ドゥーム・アンド・グルーム / Doom And Gloom」という新曲のリリックビデオがすごく格好良かったんですよ。なんであの調子で新曲だけのアルバムを作らないんだろう? っていつも思うんですけど。
──ビートルズを始め、キンクス、フー、ゼム、アニマルズ、デイヴ・クラーク・ファイヴといった同世代のブリティッシュ・ビートのバンドと比べると、ストーンズ独自の個性とはどんなところだと思いますか。
佐々木:ゼムとかキンクス、あとになって出てくるレッド・ツェッペリンとかもそうだけど、曲調がアイルランド民謡っぽいところがありますよね。ちょっとジメッとしてるっていうか。それと比べるとストーンズはアメリカっぽい、カラッとした印象がありますね。
花田:そうだね。ストーンズは他のブリティッシュ勢と比べて黒い感じが強いと思う。
キース・リチャーズのぶれないピュアさ
──1963年から1965年にかけてのストーンズはまだオリジナル一辺倒ではなく、自分たちなりに咀嚼したリズム&ブルースのカバーもまた大切なレパートリーで、それらを楽しんで演奏している様が今回の音源から窺えますね。
佐々木:俺らの世代はカバーをやるのをちょっと構えちゃうところがあるんですよ。それに比べてストーンズはもっと自由だし、カバーを自分たちのものにしようとして楽しくやってる感じがする。
花田:やっぱりオリジナルとの違いが面白いよね。テンポもそうやし、解釈のしかたが違うのも面白い。ルースターズがストーンズのやってたリズム&ブルースをやる時は、時代的にパンクとかも好きやったからテンポは速く、黒い感じでやるっていうのが暗黙のうちにあった。
──むかし『ローリング・ストーン・クラシックス』というストーンズがカバーしたリズム&ブルースのオリジナル楽曲を集めたオムニバスがブルース・インターアクションズから出ていたんですけど、オリジナルよりもストーンズのほうが耳馴染みのいい曲がたくさんあったんです。孫引きのルースターズのほうがいい曲もたくさんあるんですけど。
佐々木:わかります。俺もたとえば「モナ」だったら、ボ・ディドリーよりもストーンズよりもルースターズって感じなんですよね。デビュー前に「モナ」をカバーした時もルースターズをお手本にしてましたから。
──この『オン・エア』を聴いていると、憧れのリズム&ブルースにいちばん無邪気だったブライアン・ジョーンズがまだ元気なのが嬉しくなるんですよね。このあとオリジナル楽曲を量産していくミックとキースの存在感が増すにつれて、ブライアンは徐々にバンド内での影響力を失っていくじゃないですか。
佐々木:ブライアンってギターだけじゃなく、いろんな楽器を使いこなしてましたよね。「黒くぬれ!」でシタールを弾いてみたり。
花田:ポイント、ポイントでね。「アンダー・マイ・サム / Under My Thumb」(1966年4月発表)でマリンバとか。
──「レディ・ジェーン / Lady Jane」(1966年4月発表)ではダルシマー、「ルビー・チューズデイ / Ruby Tuesday」(1967年1月発表)ではピアノとリコーダー。ビートルズの「ユー・ノウ・マイ・ネーム / You Know My Name (Look Up The Number)」(1970年3月発表)にゲスト参加した時はサックスを吹いていましたね。
佐々木:ブライアンはなんでもやりたいタイプだったんじゃないですかね。それに比べてキースは一途でピュア。キースが2年前に出した『クロスアイド・ハート / Crosseyed Heart』(2015年9月発表)っていうソロ・アルバムはメンフィスのロイヤル・スタジオで録ってて、キースが最初に出したソロ・アルバム『トーク・イズ・チープ / Talk is Cheap』(1988年10月発表)もメンフィス録音で、一貫してるんですよ。メンフィスはブルース、ソウル、ゴスペルといったブラック・ミュージック発祥の地だし、ずっとぶれずにブラック・ミュージックをこよなく愛してるし、キースってすごくピュアなんですよね。そういう部分に俺は感動するけど、初期のストーンズはブライアンとキースという違う個性が混ざり合ってたバランスが面白かったんだと思う。
──そういえば、佐々木さんが今年の8月に発表したソロ・アルバム『LEO』もメンフィス録音でしたね。
佐々木:キースの『クロスアイド・ハート』と同じロイヤル・スタジオで録ったんです。
花田:ああ、本当?
佐々木:エンジニアがキースのソロと同じブー(ローレンス・ミッチェルの愛称)という人で、彼もキースのことをすごいピュアだと言ってたんですよ。さっきルースターズはブルースの孫引きっていう話がありましたけど、それでいえば俺はひ孫引きみたいなもので、ブルースやソウルももちろん好きなんですけど、その聖地でどうにか自分らしさを出さなきゃと躍起になったんです。だけどキースは大好きなリズム&ブルースを現地のミュージシャンと一緒にそのままやりたい人なんですよね。音楽への愛情が深いし、あのピュアさは半端じゃないと思う。俺は俺で諸先輩方とは違うことをやらなくちゃいけないと思ってるので、キースのそういうところが羨ましい部分もありますね。