ここまで来たら解散しないでほしい
──僕も何度か来日公演を観たんですけど、キースのプレイがけっこう粗くて、ミスが目立つところもあったんです。それでもやっぱりオープンチューニングのテレキャスターをガツン!とぶっ叩くように弾く時のアクションは文句なく格好いいし、存在自体がロックンロールのアイコンというか、上手い下手では語れないギタリストなんだと実感したんですよね。
佐々木:なんというか、キースはキースでしかないし、何をやってもキースなんですよね。もはや雷とかの自然現象に近いっていうか(笑)。近くにいたらたいへんだけど、遠くで見るぶんにはキレイみたいな。決して真似できるものじゃないし、真似してもしょうがない。
花田:単純にギターだけで捉えると面白くないかもしれないよね。だけど曲作りの才能は素晴らしいし、それ込みで捉えると非凡なギタリストだと思う。「サティスファクション」でファズを使ってみたり、何よりリフレインの音楽はキースが作り上げたといっても過言じゃない。そもそも自分たちでオリジナルの曲を作って、自分たちで演奏して、世界規模のツアーをやって…そんなことを50年以上やってるわけでしょう? その意味じゃストーンズは初めてのことをやり続けているバンド。そんなバンドをずっと支え続けているメンバーとして、キースは純粋にすごいと思うよね。
佐々木:俺、リアルタイムで初めて聴いたストーンズのオリジナル・アルバムが『ア・ビガー・バン / A Bigger Bang』(2005年9月発表)だったんですよ。あれに入ってる曲もそうだし、さっきも話に出たゴリラのジャケットのベスト盤(『GRRR! 〜グレイテスト・ヒッツ 1962-2012〜』)に入ってた新曲(「ドゥーム・アンド・グルーム」、「ワン・モア・ショット / One More Shot」)もそうだったけど、リフがすごく格好いいんですよね。花田さんが言うように、リフレインの音楽を生みだすことにかけてキースは天才だと思います。それにチャック・ベリーも戦前のブルースマンもバッキングとメロディを同時に弾いてたけど、「サティスファクション」はギターが単音で、別にこれだけでいいじゃん! っていう開き直りが潔い(笑)。それが63年くらいにストーンズがカバーをやってた時代のリフといちばん違うところだと思います。
──ミック・ジャガーのことはどう捉えていますか。
花田:バンドの顔やし、すごい華があるよね。パーティー感やないけど、ストーンズにはやっぱりミックみたいな華がないと。ああいう雰囲気はなかなか出せないけどね。
佐々木:そういう華のあるボーカリストやギタリストを支えるリズム隊もすごいですよね。タイトで堅実なプレイで。
花田:ビル・ワイマンにはやめてほしくなかったね。あの弾いてるのか弾いてないのかわからんような感じも味があったし(笑)。
佐々木:かなり長くいたのにやめちゃうなんて(1963年から1993年まで在籍)、不思議ですよね。
──ビル・ワイマンといえば、ベースをほぼ垂直に立てて演奏するスタイルが独特でしたね。
花田:ショートスケールのベースが好きなんだよね。ネックが細くて短いタイプの変わったベースをいつも使ってたし。
──ビル・ワイマンはやめたものの、今年で結成54周年を迎えたストーンズのメンバーの平均年齢は74歳。まだまだ現役で活動を続けているし、そんな時代に立ち会えた幸運を実感しますね。
花田:メンバーが死んだり、不可抗力でバンドが続けられなくなったりするなかで、ストーンズだけはずっと続いてる。それが純粋にすごい。それに尽きるよね。
佐々木:ウチはサポートを入れたら8人くらいやめたメンバーがいるんですけど、誰がやめた時でもバンドをやめる理由が俺には見当たらなかったんですよ。音楽をやっていれば「これはたまんないな」って思えるし、メンフィスで現地のエンジニアから音楽を純粋に楽しんでいるキースの話を聞いた時も「自分はこれでいいんだ」と素直に思えたんです。俺はただ音楽が好きだからやっている。それ以外の理由はないんです。
花田:俺もそう。音楽が好きだからやってるだけ。こんな言いかたをしたら失礼かもしれないけど、この感覚はストーンズに近い感じがするんだよ。音楽をやってる時がいちばんリアリティがあるしね。だから最近はソロもバンドもたくさんライブを入れてる。むかしはそれほどやってなかったけど、いまみたいなライブのしかたをずっとやりたかったし。
佐々木:文字通り《流れ》なんでしょうね。自分が今年ソロ・アルバムを作ったのも流れだし、バンドでは開けてなかった引き出しをソロだと開けられる楽しさがあるし、バンドもソロもそれぞれ違った面白さがあるんです。きっとキースにもそういう実感があるんじゃないかな。
──この先、ストーンズに望むことは?
花田:解散とか言わないでほしい。今さらそういうのはもうなしにしてほしいね。
佐々木:本気のアルバムを一枚でもいいから聴きたいですね。『ブルー&ロンサム』はブルースの本気カバーだったけど、サウンドと演奏はすごくフレッシュだったじゃないですか。
花田:『ブルー&ロンサム』は勢いがあって荒々しくて良かったよね。オリジナルが聴きたくなった。
佐々木:そうなんですよね。とても楽しそうな、ポジティブな印象を受けたので、その勢いでぜひ新作を作ってほしい。ただ音楽が好きで続けている大先輩として、これからもずっと刺激を与え続けてほしいですね。
■花田裕之が選ぶ『ルースターズ初期にバリバリ練習したストーンズ・ナンバー』プレイリスト&コメントはこちら。
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