フットワークが軽い、小規模組織ならではの着想が生きるインディーゲーム
―印象に残っているタイトルはありますか?
LayerQ:今年ですと『Hollow Knight』ですかね。虫が主人公のゲームで、虫って聞くと、ちょっと気持ち悪そうって思うかもしれませんが、ビジュアライズされていて、ひじょうに愛らしいキャラクター造形をしていて、動きも軽やかでかわいい。
▲Hollow Knight
―世界観がしっかりしていますよね。
LayerQ:完成度も高い。僕はなんだかんだ言っても、ゲームらしいゲームが好きだったりするので(笑)。ちょっと、プレイヤーにチャレンジングなステージが用意されているとか、ゲーマー心をくすぐるようなところもしっかりあって。
―キャラはかわいらしいけれど、なかなか骨太でしたよね。クリアするのは、難易度が高そうだなと思いました。
LayerQ:よっしゃ、クリアしてやるぜ! という気持ちでやり込みたくなる。あと、ストーリーもミステリアスで。最初、主人公のカブトムシみたいなキャラが知らない街に降りて、そこから物語がはじまる。主人公が何なのか、何を考えているのか一切、語られない。何が目的なのかもわからない中で、他のキャラクターの話を聞いたり、敵キャラと戦うことでこの世界がなんなのか、自分は何者かなのかが徐々にわかってくる。
―ゲームでしか、できない表現ですよね。
LayerQ:何の説明もしないままでも、ゲームは成り立つことができる。『Hollow Knight』は舞台設定、世界観が一貫していた。グラフィックが手描きなのも良かったです。バトルの難易度が高かったことで、ゲームらしくありたいという気持ちも伝わってきて。単なるアクションゲームでは終わらせないぜ、という開発者の気概を感じました。
―インディーゲームはアイデア勝負のものも多いけれど、独特の世界観を有した完成度が高いゲームもある。
LayerQ:僕はゲームをやらない人に、ゲームの楽しさを伝えるときによく言うことがあるんですが、「あなたは映画を観たり、小説を読んだりしますか?」って聞くんです。「うん」って言ってくれたら、それだけでもうれしいんですけれど、ゲームはね、その映画や小説の主人公を「自分で動かせるものなんだよ」って、伝えるんですよね。そうすると、「あ、面白いかも」とちょっと思ってくれる。誰もが、主人公の物語を自分の手で最後まで送ってあげることができるんです。それはゲームでしかできない体験です。
―自分が関わることで、物語が完成する。自分が参加することではじめて物語が終わる。プレイヤーがいなければ、この物語は生まれなかった。
LayerQ:だから、泣ける映画があるように、泣けるゲームってのも、あるんですよ。泣くためにプレイするゲームっていうとなんか、嫌な感じもしますが、それも一つの要素として。
―ある、と。
LayerQ:『That Dragon, Cancer』というゲームは、タイトルのまま「そのドラゴンの名は、癌」という意味です。開発したのは夫婦なんですが、彼らの息子が1歳のときに悪性の癌が発見されて、家族が癌と向き合う姿をゲーム化したものです。残念ながら(この言い方が正しいとは思ってはいない。ただ、その事実だけは知っている)開発中に息子さんは亡くなってしまうのですが、その出来事がゲームの内容に反映される。本来なら、経験することができない他人の体験や人生がゲームになることで、プレイヤーがゲームを通して、その人生に関わることになる。
▲That Dragon, Cancer
―超個人的な体験をゲームで追体験する。たしかに、ゲームにしかできない表現ですよね。またゲームの開発を通して、息子との別れを客観視し、受け入れていこうとしたのだろうと想像できますよね。開発者の夫婦のことを思うと、暴力的に感情移入させられてしまう。それはずるいけれど、仕方がないとも同時に感じる。この沸き起こる感情に名前の付け方がわからない。
LayerQ:こういうゲームも世の中にはあるってことを知ってもらいたいな、と思います。売れるかどうかはきっと関係なくて、ゲームが自分の人生を詰め込める一番のいいツールだった。大切な存在が自分に与えてくれた感情や愛のような、目に見えないものを形にしたい。そんな切実な気持ちがプレイすると伝わる。インディーの人たちは、そういうことにもチャレンジし続けてくれている。そういう開発者の気持ちも、できるだけ紹介していきたい。もちろん、ゲームは映像や音楽作品としても楽しめる。グラフィックのすごさだけが評価されるゲームもありますし。ゲームとは、映像、音楽、演出、グラフィック、プログラムとすべての芸術が詰まった総合芸術って言い切っていいかな、くらいには肩入れしています。
―うれしい。豊かな、多種多様な表現が集まるプラットフォームなんですね。
LayerQ:個人の体験がすごく強く、反映されるんです。例えば『Super Meat Boy』みたいな、子どもの頃に熱中したゲームを作りたいという気持ちを持って開発されたゲームもあります。友達同士で、あのステージのあそこに隠しステージあったぜって話したり、自由帳にキャラクターの絵を描いたりとか。そんなことを思い出させるように、かつて、わくわくしたことをそのままの気持ちのままに、大人になって作っちゃったみたいな。そういう感性がすごく好きです。