今、インディーゲームが面白い! フットワークの軽い小規模組織だからこそ斬新な着想が生まれる
―インディーゲームの魅力について教えてください。
LayerQ:実のところ、インディーゲームというのに明確な定義はないんですが、一般的には個人や少人数のチームが開発しているゲームのことを指します。Steamという全世界にゲームを販売できる場所があって、ゲーム開発のツールも手軽で扱いやすいものが多くなってきていることを背景に、少人数でもユニークなアイデアや信念を詰め込んだゲームを形にするハードルが低くなってきています。
―大手と違って少人数で作るところが特徴ですよね。絵も話もシステムも演出も音楽もプログラムも全部、少人数で作るから、自ずと作家性の強い個性的な作品が生まれている。
LayerQ:インディーゲームって、一つのゲームの制作に7年くらいかかっているものも普通にあって、その間の生活が辛かったという話もよく聞きます。通常、ゲームの制作は2、3年は費やすものなので。その間の資金はどうするのとか、完成しなかったらどうなるのか。そういう不安の中で手探りで作品を作っている。そういうことを知ると、開発者を応援したい、開発者が思い描く作品が自由に作れるように支援したいという気持ちが強くなります。自ずと彼らへの尊敬の念も抱きます。
―好きを貫く。自分と重ね合わせることもありますよね。
LayerQ:ゲームはルールさえわかれば、世界中どこでも誰にでもプレイできる。ルールがわかれば、言語が違う人とも遊ぶことができる。これってすごいことだと思いませんか?
―ゲームは世界共通言語!
LayerQ:自分ができることは動画を通して、他言語のルールをわかりやすく丁寧に説明していくことだとも思っています。そのゲームを遊ぶ人が増えれば、きっとゲームへの恩返しにもなるかなと思って。
―作り手と受け手の間の送り手という、立場ですよね。どちらの気持ちもよく理解している稀有な存在です。
LayerQ:ゲームで遊べるのは、当然それを作った人がいるってこと。そういうことを案外忘れちゃってる人もいるのかなって時々思います。特にスマートフォンのアプリは無料のものがすごく多くて、とても気軽に遊べますよね。それが当たり前になっちゃって、ゲームが自分の窺い知れないところで、勝手にぽこぽこ生まれているって錯覚することもあると思います。でも、その裏には開発者がいて、生活やお金、莫大な時間を費やして生まれているゲームもあるっていうこと。ちゃんと、ちゃんと。ちゃんとがある。もちろん、無料のアプリが悪いという話ではないです。それは多くの世代の人にゲームを身近にしてくれた素晴らしいものだと考えてます。ただ、映画でも文学でも、作者は必ずいる。その人たちが時間や労力をかけて生み出しているということを忘れないで、リスペクトしたいとか、感謝したいとか。僕と同じような気持ちを持ってくれる人が、少しだけでも増えたらうれしい。こんな人たちが、こんな思いで作っているんだよということ、生身の人間がこれを作り上げているということはどんなに大変だったのか、僕はそれをもっと多くの人に伝えて、知ってもらいたいって思ってしまうんです。もちろん、みんながみんな、ゲームをそんな風に考える必要はないんですけれどね!
―インディーゲームの魅力はなんだと思いますか?
LayerQ:棘があると言ったら、あれなんですけど。まろやかでないところが好きですね。おっきいゲームが丸で、インディーゲームはトゲトゲみたいなイメージ。刺激的だということ。
―うんうん。作者の精神世界をゲーム化した『Neverending Nightmares』というホラーゲームがありましたが、あれは前作の『Retro/Grade』の売上が芳しくなかったため、持病の強迫性障害と鬱病を悪化させてしまったことから生まれた作品だと開発者が語っていましたね。エドワード・ゴーリーの絵本のようなタッチのキャラクターデザインと姿かたちを変えて何度も殺される妹が出てくる悪夢のようなゲーム。開発者の患った精神病の状態をプレイヤーが追体験できるという。こういう超個人的な内容のゲームはインディーゲームならではだと思いました。
▲Neverending Nightmares
LayerQ:斬新なんですよ。今までにない世界観を表現しようとすると、操作方法やルールも今までにないものになってくる。誰も知らない方法だから、今までのルールやマナー、ゲームのことをよく知らなくてもいい。
―斬新だからこそ、初心者向きでもある。ゲームのお約束を知らない初心者のほうが素直にプレイできる。
LayerQ:え? これどうやって遊ぶの? みたいに戸惑うようなゲームが多い。そういうのって、いわゆる大手はほとんど出さない。売れるか売れないかハッキリ見通しが立たないっていうのが一番の理由だと思いますが。基本的に大手の作るゲームは、みんなができて、みんなが楽しめる、みんなが同じようにクリアできなければならないというのがある。でも、インディーゲームは極端に売らなくても良い! って思ってはいないかもしれないけど(笑)、これはやれる人だけやってくれればいい。わかってくれる人がちょっとでもいればいい、みたいな、純粋な気持ちで作っている人もたくさんいるんです。きっと、自己実現の場でもある。
―みんな、ではなく。その作品を心から愛してくれる一人に向けて作られている。大量生産ではないもの。
LayerQ:誰も知らない斬新なアイデア、ルール。奇抜なシステムのゲームって、紹介しがいがある。ここが今までにないポイントなんだって、面白がれるんですよね。
―最近、Qさんが実況されたものだと『Bouncing Duck Simulator』とか……。
Q:ゲームを始めると密室にいて、ボタンを押すとおもちゃのアヒルが出てくる。それをを投げると、部屋にある大きなカウンターの数字が増えていくんですが、それが何を意味するのかまったく説明もなく、意味がわからないままプレイすることになる。わからない中で、とにかくアヒルを壁に投げ続けていたら、ある条件によって、新しいアヒルが出てくる。そのアヒルとアヒルをぶつけると、交配して、赤ちゃんアヒルが生まれて……。
―言葉にして、説明すればするほど謎が深まる(笑)。
LayerQ:でも、プレイすればそれがなんなのかはわかりますよね。アヒルと僕との関係。それに意味があるかは別として。
―意味はないですよね。
LayerQ:意味がなくても成立する。こういうアイデア一発勝負みたいな、クレイジーなゲームが生まれてくるのもインディゲームならでは。思いついてから形にするまでのサイクルが早いから。個人制作、小規模チームでしか作ることができない。
―大手なら企画の段階で却下されますよね。アヒルを壁にぶつけるゲーム? おまえ、頭おかしいんじゃないかって。
LayerQ:インディーゲームは、こうした柔軟な発想から今までにない新しいゲームが生まれやすい土壌ができていると思います。それがビジネスとしても成立している。だからゲームは面白いんです。新しい主流を生む可能性に満ちている。世界的にヒットした『マインクラフト』も、もともとインディーから生まれたゲームですし。『マインクラフト』は、サンドボックス、いわゆる砂場遊びゲームって言われますけれど、そういうジャンルを確立して、後発するゲームに大きな影響を与えた。わからない市場に対しては、大手はなかなか気軽にアクセスできないので、インディーがチャレンジしたら思わぬ市場を開拓! じゃあ、うちでも作っていくかという風に取り入れていくという構造は面白いです。