大切なことは全部ゲームが教えてくれたから、ゲームのために人生を使いたいと思えた。
LayerQ:今でも落ち着いてなくって、まだ開けていない段ボールとか家に結構あって……。あ、でも、ゲーム実況するために壁の防音はいちばん最初にしましたね。
―ホラーゲームとか、つい大声で叫んじゃいますからね。防音、大切ですよね。近所迷惑になりますから。
LayerQ:せっかくの東京暮らしなのですが、家と会社を行ったり来たりしているだけで。休みの日はあいかわらず一日中、家から一歩も出ずにゲームしている。あんまり地元にいたときと生活ペースは変わっていないかも知れない。そういえば僕、今日、はじめて新宿に来たんですけど、お祭りがあるんじゃないの? ってくらい人がいっぱいいて。スーツを着ているおじさんと、制服を着た女子高生が歩いているの見ちゃって、「親子であれ!」って心の中で声を上げてました(笑)。なんか、日本じゃないみたい。新宿すごすぎるだろ、ここ……って思いました。新宿から歌舞伎町を抜けて来たんですけれど、『ブレードランナー』の世界みたいだなって。
―興奮が伝わりました。今までゲーム以外のリアルをあまり経験してきてないですもんね。一つ一つの経験がきらきらしてますね。眩しい。これまで生活のほとんどをゲームに費やす、修行僧みたいな暮らしを何年もされていらっしゃったから。
LayerQ:その代わりに、ゲームでいろんな経験を積んでいますから。
―無人島でサバイバル生活を送ったり、人食い人種やゾンビと戦ったり、死体の処理をしたり、お隣さんを執拗にストーキングしたり、密室でアヒルのおもちゃを投げ続けたり……ね?
LayerQ:ふつうの人がなかなかできない経験をさせてもらっています(笑)。会社は吉祥寺周辺にあるんですが、ぜんぜん出歩いていなくて。
―若者が暮らしたい街、No.1の吉祥寺になのに……。
LayerQ:街を横目で通り過ぎるだけの日々です……(遠い目)。とにかくすぐに帰ってゲームしなきゃ!って。
―ストイック! 実況者の鑑ですよね。ところで、ゲーム実況をはじめたきっかけは?
LayerQ:最初は友達に観せるためだけに身内で流行ってたフリーゲームの配信を喋りながらやっていて。まだYouTubeとかニコニコ動画とかないときで。多分、高校生くらいからやってたはずです。メッセンジャーを使って、友達と同じゲーム画面をインターネットを通してリアルタイムに観ながら会話していました。僕自身、ゲーム実況という文化の成り立ちは正確にはわかってはいないのですが、知っている限りでは、2ちゃんねるの「なんでも実況板」やPeerCast(ストリーミング配信ツール)が始まりになっていて、僕もそこから知ったと思います。それではじめは、内輪だけで配信していたんですけれど、学生で夏休み暇だったから、「そうだ、知らない人に向けてゲーム実況やってみよう」ってなって。2ちゃんねるの「なんでも実況ゲームスレ」みたいなところで本当に全く知らない人に向けてはじめて配信しました。扱ったタイトルは『I Wanna Be the Guy』というアクションゲームでした。
―ゲーム実況っていうと、よゐこの有野晋哉が『ゲームセンターCX』(2003年11月4日放送開始)で一般に広まったイメージがありますが、それよりも前からあったジャンルなんですね。
LayerQ:そういう番組がはじまる前からゲーム実況はありましたね。
―配信も今は、YouTubeライブやニコニコ生放送が台頭にはなってますが、当時は雨後の竹の子のようにいろんなサービスが生まれては消えていくという過渡期。
LayerQ:当時はゲーム実況というと、PeerCastのコミュニティが盛り上がってた印象がありますね。
―QさんはTwitch(Amazon.com が提供するライブストリーミング配信プラットフォームでゲームに特化)でも生配信したりされてましたよね。
LayerQ:そうですね。見てる人が一番見やすい配信ツールをいつも探しているので、いろいろなサービスを試してますね。
―今やゲーム実況はYouTubeの主要コンテンツみたいなところありますもんね。HIKAKINとかトップYouTuberと言われるような人もゲームのチャンネルを持っていますし、兄者弟者さんや、PockySweetsさん、キヨさん、レトルトさんとか、もはや、アイドルとかタレントに近いのような人気のゲーム実況者もいますしね。ゲームの面白さを紹介するというよりは、その人の喋りや声、プレイに注目が集まるような。まさに有野課長のスタイル。それもまたゲーム実況の醍醐味の一つでもあるんですが、Qさんはインディーゲームに特化して実況していて、チャンネルでも「インディーゲームをどこよりもディープに」と掲げているのが特徴的ですよね。まだローカライズされていなかったり、テスト版で安定しないバグだらけのオンラインゲームとか、他の人が手を出さない、日本にほとんど情報が入ってこないコアなインディーゲームを紹介されているのは何故でしょうか。
LayerQ:「ゲームの名前 実況」で日本語で検索したときに日本の動画がまだ出ていないゲームを取り扱おうと、割と最初は戦略的に考えてゲームを選んでいたようなところもあります。そうやって選んでいくと、どうしてもメジャーなゲームは外れてしまう。みんながやってて、知っているゲームは実況する人の数も多くて比べられてしまうし、競争率が高いというのもありますが(笑)。なんでもそうだと思うんですが、同じものがいっぱいあるよりはバリエーションがあるほうが面白いじゃないですか。もちろん、ゲーム実況っていう世界の中で個性を出さなくてはならないっていうのもありますが。ただ、単に僕がやって面白いなと思ったゲームで日本人がやっていないなら、僕が動画にして出す意味もあると思えたんですよね。
―ゲーム神に命を捧げたゲーム戦士の使命のようなものですね。Qさんのゲーム熱に当てられて、わたしも何言ってるのかわかんなくなってきましたが。
LayerQ:(笑)。インディーゲームの伝道師になろうとか、本当にそんなに大袈裟なことは考えてはないんですが、あえてその……。
―修羅の道を選ばれたのですね。
LayerQ:いや、ほんとそんな大袈裟な話じゃ、本当になくって、似たスタイルの実況者ばかりになっちゃうと面白みが減っちゃうだろうなって。やっぱり、ゲームをやってない人にも楽しんでもらえるように紹介して、実際に面白いなって言ってくれたりするとすごく、うれしいですね。このスタイルでいいんだなって思えます。
―そうですよね。Qさんの実況はマニアックなネタとか下ネタとか絶対言わないから、ふだんゲームをやらないような人や女性にも安心して観せられますし、実際、ウケますよね。タイトルにも現れているんですが「ふつうに」実況することを心がけていらっしゃる。
LayerQ:自分自身はコアゲーマーなんですが、動画ではマニアックなゲーム用語とか極力使わないように注意しています。使うときも用語の説明は丁寧にするように心がけていますね。あとは、暴力的な言葉や下ネタは言わないとか。
―ゲーム実況は「わー」とか「ぎゃー」とか大声で反応していれば盛り上がるというところもあって、語彙力がなくても成立するようなところがあるんですけど、たしかに元気いっぱいなキッズはそれで楽しいかもしれないですけど、わたしくらいの年代になると疲れるんですよね。寝入りばなにウトウトしながら静かに観ていたいんですよ! Qさんはわたしにとって、最高の睡眠導入剤ですよ。
LayerQ:ありがとうございます(笑)。これからもお茶の間でも楽しめるようなゲーム実況を目指していきます。