誰もついて来れないことをやるのが面白い
──最後に放つ痛烈で痛快な一言を含め、映画もまた谷ぐち家同様に共鳴くんを中心に回っていますよね。
谷ぐち:あれは大石さんが最後に使うのを決めてたみたいですね。大石さんはずっとあんな感じで俺たちを密着して撮り続けていたので、もの凄く入り込んでたんですよ。だから全体的にエモくなりすぎないようにってみんなで注意したんです。その辺のバランスは難しかったと思いますけど。
──あれだけ濃い家族、濃い仲間たちと日常的に密着したら嫌でも引き込まれてしまうでしょうね。
谷ぐち:ホントの家族みたいな感じになってましたからね。俺たち家族やバンド仲間のことを追った内容ではあるけど、『MOTHER FUCKER』はまさに大石さんの作品って感じがにじみ出てると思うんですよ。大石さんの人間性が凄く出てると思うし、俺たち家族や自分たちがやってることに対して彼女が抱いた感情がダイレクトに出てるからああいう作りになったんじゃないですかね。自分たちの家族がウォーミーな感じって言うよりも、大石さんの雰囲気や人柄がそのまま出てるんじゃないかな。実際の俺たちはもっとふざけてますから(笑)。ふざけてるって言うか、くだらない。深みも全然ないし、もっと薄っぺらいので。あれは大石さんのマジックで、何か深みがあるように見えてるだけなんです。
──初めて携わった映画というメディアに対して、どんなことを感じましたか。
谷ぐち:CDを作った時と感覚は一緒ですね。「いいのができたぞ!」っていう気持ちもあるし。CDの場合、できた時に嬉しくて何回も何回も聴くけど、サンプルが仕上がると封を開けて一度だけ聴いて、その後はもうしばらく聴かないんですよ。だから今回の映画も、封切りになった瞬間にもう飽きちゃうんですかね?(笑) 初めてのことなので、どのタイミングで飽きるのか分かりませんけど。
──飽きっぽい谷ぐちさんのことだから、今日のインタビューもすでに映画のことは飽きているのかな? と思っていたんですけどね(笑)。
谷ぐち:明日やる試写会は仕事で行けないんですけど、あの独特の雰囲気の中で映画を観たかったなと思うから、まだ飽きてないんでしょうね。映画はまた別なのかもしれない。一人で観てるわけじゃないですし。映画って凄いですよね、みんなで一緒に観るわけだから。……あ、ライブもそうか(笑)。
──映画もライブみたいなものですよね。その場の雰囲気、一緒に観る人はその都度違いますから。
谷ぐち:確かに。自分で言うのもナンですけど、今回の映画はけっこういいのができたと思ってるんですよ。当初の想像を超えたものになったとも思うし。CDもそうですけど、最初のイメージとは違うものができるじゃないですか。その違いが大事なんですよ。たまたまこうなってしまったとか、たまたま出た音とか、そういう想像外のものや偶発的なものをなるべく取り入れたほうが面白いんです。CDだと制作の方法論がある程度分かっちゃってるから、偶発的なものすらも予想できちゃうんだけど、映画は未知の世界だったので面白かったですね。
──谷ぐちさんのカウンター的発想でいくと、「こういう感じにはしたくない」というドキュメンタリー映画はサンプルとしてあったんですか。
谷ぐち:今まで観てきたパンク・ドキュメンタリー全部です。それがあるから、じゃあ自分はどうするか? って感じになりますよね。そういう発想で何でもやってるし、そうじゃないと面白くないですよ。Less Than TVだってSSTやディスコードにどうやって一泡吹かせるか? みたいなことしか考えてないので。昔、河南さん(河南有治/ex.U.G MAN)が「俺たちが評価されるのなんて10年後ですよ。誰もついて来れませんよ」ってよく言ってたんですけど、誰もついて来れないようなことをやらなくちゃいけないって常に思ってるんです。25年もレーベルをやってるのに10年後に評価されるなんておかしいなぁ…とか思いますけど(笑)。でも、そういう気持ちが今も根底にはありますね。あと、「50歳以上になってもゴリゴリの音を出してるバンドは違うよね」ってことも河南さんが言ってたんですけど、来年俺も50歳になるんで、超ゴリゴリのハードコア・バンドを新しく結成するかもしれないですね。そしたらまたYUKARIに怒られるんでしょうけど(笑)。
──懲りないですね(笑)。この映画に出てくる人たちはみんなそうやってやりたいことをやり続けているわけですが、さまざまな障害を乗り越えていかなくちゃいけない時もありますよね。その乗り越え方だったり、そもそも好きなことをやっているんだからこれしきのことは屁でもないといったスタンスがこの『MOTHER FUCKER』という映画には刻み込まれているんじゃないですかね。
谷ぐち:俺、全然好きでもないバンドのインタビューを読むのが好きなんですよ(笑)。凄い衝撃的だったのが、あるバンドの解散理由が「このまま続けていくと取り返しがつかなくなる」っていうヤツで。
──取り返しのつかない人生になると?
谷ぐち:そうそう。だけど、そもそもバンドをやることを選択した時点で取り返しがつかないんじゃないの!? って思って、凄い違和感を覚えたんです。ロックをやるなんて社会のはみだし者と直結だし、バンドが好きって時点で人の道からはみだしてるじゃないですか。でも、はみだしたって楽しいことはいくらでもできるし、この映画を観た人が「なんだ、人生楽勝じゃん!」って思ってくれたら嬉しいですね。そこがパンクのいいところだし、パンクって気持ち一つでいけるものだし、そこは絶対こだわってるつもりだし、そういうのがこの映画で伝わるといいですよね。