共鳴は超凡人で、引っ込み思案なところがいい
──何が何でも音楽を続けていくんだ! みたいなガツガツした感じが谷ぐちさんにはないから、意気込んでいるようには見えないと思うんですよ。あくまで飄々と、自然体で音楽と向き合っているので。でもそこが谷ぐちさんのいいところでもあるんじゃないですかね。
谷ぐち:自然体でいるのは自分が表現したいパンクの基本なんですよ。十代で「こんな生き方があるんだ!」と足を踏み入れたパンクに俺はもの凄く感謝してるんです。パンクを通じていろいろと考え方も変わったし、介助の仕事もパンクの友達に誘ってもらったし、そういう仕事に関わることで社会が少しでも良い方向に変わっていけばいいなと思うようにもなった。それもすべてパンクのおかげなんですよ。それって、メタルとかだったら違ってたんですかね?(笑)
──社会性と密接なメタルって聞いたことないですからね(笑)。
谷ぐち:そうですよね。やっぱりパンクって凄いな。パンクって、「こんなのでもいいんだ!?」みたいなところがあるじゃないですか。こんなにだらしのない、バカなヤツらでも楽しいことがやれるんだ! と思えば人生が軽くなるし、「よし、俺もやってやろう!」って気になる。少しでもそんなふうになればいいなと思いながら音楽をやっているので、同じことがこの映画でもできたら最高ですよね。
──映画のハイライトと言うべきチーターズマニアのライブで共鳴くんが唄う「楽しいことが起こればいい、続いていきたい、お前もこっちへ来い!!」「楽しいことだけ、ことだけ、作るよー!!」というのが谷ぐち家のモットーであり、この映画で一番伝えたいメッセージなのかもしれませんね。
谷ぐち:映画のキャッチコピーを「楽しい、ことだけ!! ぶちかませ!!」にして良かったですね。他にもいろいろと考えたんですけど。
──映画に記録された共鳴くんの姿を観て、どう感じましたか。
谷ぐち:自分のこともそうだけど、なかなか客観視できないですね。YUKARIは共鳴のことが異常に好きなんですよ。だから俺はYUKARIよりも客観視できてると思うんだけど、子どもの成長を実感するほど客観視はできてないですね。一つ言えるのは、これでもし共鳴が光るセンスを持ってる子どもだったら、ウチの家族を映画にしてくれとは言わなかったでしょうね。共鳴はイケイケじゃない、モジモジした性格だったのが良かったんですよ。珍道中じゃなかったらLess Than TVらしくないし、共鳴がサラブレッドみたいな才能があったら映画として成立してなかったと思います。超凡人で、引っ込み思案の共鳴が思いきってパンク・バンドをやるから面白いんですよ。
──チーターズマニアの初ライブ当日、共鳴くんに「気を抜いたら負け、ぶちかませ!!!」と置き手紙を残す父親って凄く格好いいなと思いましたけど。
谷ぐち:俺は仕事で先に出なくちゃいけなかったんで、手紙でも置いとくかと思ったんですよ。
──高円寺サウンドスタジオドムへの道すがら、共鳴くんが「間違えてもいいから、やるしかない」と自分に言い聞かすように力強く話していたのは、谷ぐち家の情操教育の賜物じゃないですか?
谷ぐち:共鳴がああいうことを言ってたのは、映画の撮影をしてたから知れたんですよ。俺やYUKARIの前では「親の前の共鳴」なんです。共鳴がチーターズマニアを始めるにあたって凄く気をつけたのは、親がなるべく干渉しないことだったんですよ。あくまで友達と結成したバンドだし、俺たちがステージママやステージパパになっちゃいけないと思って。ましてやバンドをやるなんて、まるで親が押しつけたようにも見えちゃうし。それに、友達と遊んでるところに親が行ったら嫌がられるし、友達には友達との世界がありますからね。まぁ、ホントは凄く気になってたので、バレないようにリハを覗いたりもしたんですけど(笑)。
──干渉せずとも、映画の密着撮影でその経緯が知れたわけですね。
谷ぐち:そう、だからびっくりしたんですよ。「やるしかない」なんて言ってたんだ!? と思って。でも俺の前ではああはならないし、映画の中でしかああいう共鳴は見れないですけどね。
──谷ぐちさんとYUKARIさんが共鳴くんのバンド活動に干渉しないのは、同じ板の上に立つ人間同士のマナーと言うか、ステージに立つ以上は親も子も関係ないという考えもあったからじゃないですか。
谷ぐち:それもありますね。でもその前に、共鳴が自分一人でスタジオへ行けないって問題があるんですよ(笑)。結局は親がスタジオまで連れていかなくちゃいけないので、完全に干渉しないわけにもいかない。それと、これはレーベルをやってる人間の性なんですけど、俺は好きなバンドがライブをやってると「なんでこういうアプローチをするのかな? 俺ならもっとこうするのに」みたいな凄いお節介なことを考えてしまうんです。それでレーベルをやってるようなもんなんで、ライブ中にアイディアがバンバン湧いてくる。それがチーターズマニアには一切言えないわけですよ。言うと干渉しちゃうことになるので、俺は入り込めないんです。そんなバンドはチーターズマニアだけですね。
──谷ぐちさんが口を挟めない唯一のバンドであると(笑)。
谷ぐち:でも、こないだライブの曲順を共鳴が任されて、「タニさんと一緒に考えたらいいんじゃない?」ってメンバーに言われたみたいなんですよ。それもYUKARIに早く決めろと怒られて渋々二人で考えたんですけど(笑)、共鳴がほぼ全部決めたんです。こいつ、パンクのことを何も分かってねぇくせにヤツなりの考えがあるんだなって思って、凄いびっくりしたんですよね。一箇所だけ、イントロが近い曲があったから順番を入れ替えるアイディアを俺が出したら「そっちのほうがいいね」ってことになったんですけど。