バンド結成30年目に突入する11月14日に発売されたブラッドサースティ・ブッチャーズの初期ライブ映像&音源集、『bloodthirsty butchers live 1986-1990』。1986年11月14日のキャンパス21での初ライブから1990年までの5年間、札幌時代のライブ映像および音源を発掘収録した本作は、ブッチャーズ史上初のライブ・パッケージ作品だ。CDに収録の音源は、リーダーの吉村秀樹(g, vo)が2013年発表の『youth(青春)』レコーディング時に自身で所有していたライブ音源収録のカセットテープをスタジオでデジタル化していたものから抜粋、射守矢雄(b)と小松正宏(ds)の監修のもと、テイクの選別とマスタリングが施されている。長らくベールに包まれていた揺籃期のライブを通じて、ブッチャーズをブッチャーズたらしめる真髄や原石の輝きを感じ取れる意味でも意義深い作品と言えるだろう。この歴史的映像&音源のアーカイブ集の制作秘話と知られざる札幌時代のエピソード、そしてブッチャーズの今後について、射守矢と小松に話を聞いた。(interview:椎名宗之)
キャリア初の故郷・留萌凱旋ライブ
──本題に入る前に、先日の「射守矢雄と平松学」と「SOSITE」(かくら美慧&小松正宏)の留萌凱旋ライブ(10月12日、留萌NEW PORT)の感想から聞かせてください。
射守矢:ある程度想像はしてたけど、その想像を超えるくらいのヘンな緊張感があったね。なんせ「センボウノゴウ」の演奏中に頭の中が一瞬真っ白になったくらいだから(笑)。「あれッ? なんだっけ、これ!?」って。
小松:なんで頭が真っ白になったんですか? 他のことに気を取られて、とか?
射守矢:よく分からない。演奏に集中してるつもりではいたんだけど、ちょっと「あれ?」ってなった瞬間にバーンと全部飛んじゃった。
小松:僕の場合、緊張って言うよりも、ライブそのものに集中できないところがありましたね。地元の同級生や先輩もいれば、札幌から来てくれた友達もいて、いろんなことが注意散漫になっちゃって。東京のお客さんがいてくれれば逆に安心するんだけど、「地元の人たちはホントにライブを見たくて来てくれたのかな?」とか気になったりもして(笑)。
──冷やかしに来たんじゃないか? とか(笑)。
小松:そういうのがいろいろと気になったんですよ。地元だからゆるい感じでMCを挟みながら進めようかなと最初は思ってたんだけど、途中からちょっとアウェイな感じがしたから、ピリッとした雰囲気に切り替えようと思って。そういうヘンなテンションがありましたね。ちょっと気をゆるめると流されちゃいそうだったので、ギュッと手綱を締めたと言うか。
射守矢:小松は端っから考えがブレてるもんね(笑)。俺はいつも通りのライブをやって、スパッと終わらせようと思ってたんだけど、まぁそれどころじゃなかったね(笑)。
小松:もちろん僕も最初は普段通りのライブをやるつもりだったんですよ。でも、移動で札幌から留萌に近づくにつれて自分のテンションが違ってくるのを感じたので、これは普段通りやろうと思ってもできないなと思って。それでゆるい感じでいこうとしたんですけど、狙いが外れたっていう(笑)。
──SOSITEが最後に披露した「9月/september」は射守矢さんが客演するスペシャル・バージョンで、あれはいいものが見れました。
射守矢:小松が一緒にやりたい、やりたいって言うからさ(笑)。
小松:美慧ちゃんが1番を、僕が2番を唄うっていうのをSOSITEでやってて、僕が唄った時点で射守矢さんはイヤがるだろうなぁって思ってたんですよ。リハで録った「9月」の音源を送ったんだけど、「やっぱりあれはないわ」って一緒にやるのは断られるかな? って。でも話を引き受けてくれたので、良かったなと思って。
射守矢:小松が唄ってるっていうのは聞いてたし、誰が唄ってても別に気にならない。だいたい、ライブではいつもボーカルは聴いてないから(笑)。
小松:それ、まさにこのインタビューで言おうと思ってたんですよ。射守矢さんって、基本的に歌じゃなくてギターを聴きながら弾いてるんですよね。実際のところは分からないけど、僕が見る限りはあまり歌を聴いてない。たとえば「7月/july」とかで今どこをやってるのか分からなくなる時があるんだけど、射守矢さんはギターのフレーズでどう展開するかを確認するんです。でも、吉村さんが歌に入りそびれた時を意外と気づいてなかったりする(笑)。僕は歌を基準に聴いてるんですけど。
射守矢:「あれ? 今どこを唄ってる?」って思ったら、それからボーカルに耳を傾ける感じだから。それまでは全体の演奏の中でもギターを軸に聴いてるね。
──それが今回の「9月」でも同じだったと。キャリア初となる故郷での凱旋ライブはやはり感慨深いものがあったのでは?
射守矢:いい経験をさせてもらったし、やれて良かったと思うよ。ライブをやる上でもう怖いものはないと言うか、あれ以上の緊張はもうないだろうしさ(笑)。
──ブッチャーズとして留萌でライブをやろうという話はこれまで一度もなかったんですよね。
小松:話はちょっとくらい出たような気もするんですけど、吉村さんが「それは絶対にない」ってことだったんで。
──吉村さんはなぜ頑なに留萌でのライブを拒否していたんでしょう?
射守矢:今となっては推測の域を出ないけど、もし彼が生きていた時点で『ソレダケ / that's it』を留萌で上映するって話が出たら、「しょうがねぇなぁ…やるか?」ってことになってたかもしれない。きっかけ次第って言うか、本音の部分ではそんな特別に拒絶していたわけじゃないと思うんだよね。ただほら、すぐに意地を張っちゃう人だから(笑)。
小松:自分からは「やりたい」とは言わないけど、他の人から「やりましょうよ」ってオファーを受けたら渋々承諾するような感じだったと思いますよ。でもそれで実際に留萌でライブをやったら、「やっぱりやらなきゃ良かった!」って絶対に言うと思う(笑)。
射守矢:「二度と来ねぇ!」とかね(笑)。