留萌へ帰省した時に浮かんだ「センボウノゴウ」のフレーズ
──刻まれるリズムは箱庭的なバスドラだけでも充分だと思っていましたが、途中でパンキッシュなアプローチも見られるアグレッシブな「Gyaspi」にはダイナミックで重厚な小松さんのドラムがやはり合いますよね。
射守矢:こうして最小限の編成でやってはいるけど、もともとバンドのイメージで曲を書いてるからね。
──「Mrs.JASCO」でフィーチャーされている裕子さんの流麗なバイオリンも素晴らしいですね。
射守矢:最高だよね。「Mrs.JASCO」はパッと聴いた時、昼ドラっぽいメロウなイメージがちょっとしたんだけど(笑)。ゲストの音は鳴るだけでハマるだろうと妄想してたから、曲を渡して特に注文することはなかったし、本人たちにお任せだったね。
──「small world」と「センボウノゴウ」と「Robin popinica」は軸となるフレーズが兄弟みたいな印象を受けたんですが。情感豊かな表情も似ていますし。
射守矢:どれもアルペジオで弾いてるしね。それが自分の手癖なのか、本来の嗜好なのかは分からないけど。特に「センボウノゴウ」はあのアルペジオがメインだったから学に弾いてもらったんだけど、それを聴いて自分でもいい曲だなと思った。そこから先に自分が何をやろう? っていうのが、この曲に限らず全般的に大変だったけどね。今まではベースのフレーズだけで作業が終わってたからさ。
──「センボウノゴウ」は初めてライブで聴いた時から完膚無きまでの名曲だと思ったんですよ。間違いなくふたりの代表曲になると。
射守矢:ライブでやったのは3回目の下北沢スリー(2014年4月6日、『LessThanTV presents「畳ノ下ニ UNDERGROUNDヲ!!! #25」』)が最初だったかな。手応えはあったね。
平松:ありましたね。ホントに名曲だなと思ったし。
──アルバムのタイトルにもするくらいだから、ご自身でも自信作だったんですよね。
射守矢:まぁ当然そうなんだろうけど、曲のタイトルは全部後付けなんだよね。何かテーマを設けて曲を作るわけじゃないし、フレーズからイメージしたものを後でタイトルにするって言うか。ただ「センボウノゴウ」っていうタイトルは割と早くに決まってた。って言うのは、ちょうど俺が留萌に帰省してた時に思いついたフレーズだったから。
──留萌市内にある丘陵地帯「千望台」がモチーフなんですよね。
射守矢:うん。故郷への思いみたいなものを分かりづらい感じでタイトルに散りばめてみたかったんだよね。
──故郷の情景に呼ばれたフレーズということなんでしょうか。
射守矢:どうなんだろう。まぁ、帰省中に口ずさんでたりしてたからね。何かが降りてきたのかもしれない。
──『kocorono』の監督も務めた川口 潤さんが手がけたMVは、そんな射守矢さんの意図を汲んだ見事な出来栄えですよね。
射守矢:『kocorono』の時に川口君が撮り溜めていた留萌の映像をつなぎ合わせれば、何とか形になるんじゃないかと思ってさ。俺の無茶振りによく応えてくれたよね(笑)。
──学さんが持ってきたフレーズから発展していった曲もあるんですか。
射守矢:「Octopus」は学が最初から最後まで全部構成を考えたんだよ。それだけで充分いい出来だったので、俺はどうしようかなと思って。でもあまり奇をてらったことをしてもしょうがないし、そのままシンプルに行くことにした。ただひとつ、スケールのフレーズをユニゾンでやろうと思って、それが出来た時はやった! と思ったね(笑)。この曲のタイトルはさ、ユニゾンでも弾くことだし、オクターバー(元音にオクターブ下の音を加えるエフェクター)を使おうと思っていたから「Octopus」にしたんだよ(笑)。
── 一事が万事、そんな調子なんですか(笑)。
射守矢:そうだね(笑)。あまりこういうインタビューでネタばらしするのも良くないとは思うんだけどさ。
──確かに、先入観なしに聴いて頂きたいですからね。とは言え、タイトルに関して訊いてみたいことがいくつもあるので、その中でひとつだけ。“どさんこ”ならぬ“ドサンポ”とはどういう意味なんですか?
射守矢:自分の中では割と楽しい気分で散歩してるようなテンポ感と雰囲気の曲だったんだけど、「散歩って言うよりはストーカーみたいな感じ」って誰かに言われたんだよね。で、“怒りの散歩”ってイメージで「ドサンポ」にしたと(笑)。
──はははは。ちょっと不穏なムードのある曲ですからね。じゃあ、もうひとつだけ。「B-teamのテーマ」の“B-team”っていうのは?
射守矢:ベースの“B”でもいいんだけど、“B級”とか“二軍”ってことだね。
平松:Aクラスじゃないっていう。
射守矢:ふたりともバンドマンだけど、決してメインじゃない部分で演奏してる存在って言うか。でもBクラスで充分ですよ、と。そういうちょっと自虐的な感じかな(笑)。
学に恥ずかしい思いをさせちゃいけない
──射守矢さんの古くからの愛称がタイトルになった、穏やかで夢見心地な音色の「Robin popinica」ですが、これは全編射守矢さんの独奏ですよね?
射守矢:うん。俺が弾いたものだけで結構出来上がっちゃってたので、ある時からこの曲は独奏でやることにしたの。で、これは自分一人で全部背負っちゃおうと思って、あえて自分のニックネームをタイトルにしてみたんだよね。
──その「Robin popinica」然り、「センボウノゴウ」というタイトルトラック然り、ブッチャーズ時代は寡黙なイメージだった射守矢さんのパーソナルな部分がこれだけ前面に出たのは初めてですよね。ジャケットもご自身で描かれているし。
射守矢:今は責任感もあるし、そこまで気張ってやってるわけじゃないけど、背負うところは背負っていこうって意識があるんだよね。曲を作ったりライブをする上で、学に恥ずかしい思いをさせちゃいけないとも思ってるし。
──逆に学さんは射守矢さんの足を引っ張っちゃいけないというプレッシャーもありますよね。
平松:もちろん。ファウルの後はゴッツ・ガッツのヘルプを一度やっただけでブランクもあるし、自分の思うように弾けないジレンマもあるので。最初の頃は、「Gyaspi」をずっと弾いてると指の水ぶくれが酷かったんですよ(笑)。
射守矢:でも、ちゃんと俺の期待に応えてくれるからね。実際、学は大変だったと思うよ。個人練習もたくさんしてくれたんだろうし、俺の弾けないフレーズをお願いしちゃってるしさ(笑)。
──「Gyaspi」って造語ですか?
射守矢:留萌の「太子祭」っていう夏祭りがあってさ、坂道の両脇に夜店が並ぶわけ。小学校6年生の時の友達がその坂道をくだって歩いてたら、金魚すくいの店から逃げたデメキンが足元に転がってたんだって。気づいた時にはもう遅くて、坂道で勢いづいてたからデメキンを踏んづけちゃったらしいの。で、そのデメキンが「ギャスピ!」って鳴いたって友達が言い張るんだよ(笑)。金魚がそんなふうに鳴くわけがないんだけど、小学校6年生のセンスで「ギャスピ!」って言葉が出たのが面白くて、それをずっと覚えてたんだよね。
──金魚の断末魔であると(笑)。アルバムの最後を飾る「Men who work alternately」はライブでも最後に披露されることが多いですよね。
射守矢:自分たちがやってて盛り上がる曲なんだよね。最初の段階で出来た曲だし、思い入れもあるし。“alternately”は“交互に”って意味で、一生懸命代わりばんこにお仕事してます、みたいなニュアンスなんだよ。そのタイトルが決まった時点で、我々のスタイルを象徴した曲だなと思って。フレーズを交互に弾き合ったり、交互にバスドラを踏んだり、代わりばんこに仕事をしてるっていうさ。
──初のレコーディング作業は全般的に順調だったんですか。
射守矢:3日で12曲を録ることになって、俺は余裕だろうと思って楽観視してたの。ベース2本だけだし、3日もあればベーシックは楽勝でしょうって。でも全然そんなことなかったね(笑)。ギリギリの進行で、最終日は朝方までやってたから。
平松:夜中に録ってたら、スタジオに警察が来ちゃって(笑)。
射守矢:そうそう。スタジオでやってるのに「音がうるさい」って注意されて。レコーディング中に警察が来たのは初めてだよ(笑)。
──重低音の振動が倍だったからでしょうか(笑)。作業に時間がかかったのはどんな理由で?
射守矢:具体的に言うと、「small world」の自分で弾いた鍵盤に手間取った。今までやったことがないことをやってみようと思ったんだけど、音選びも演奏も初めての経験だったから時間がかかってね。頭の中で和音が鳴ってたので、それを何とか表現できないかなと思って弾いてみたんだけど。
──音のこだわりとしてはどんなところに気を留めたんですか。
射守矢:言ってもベースだからさ、音像でいろいろなことができるわけじゃないんだよ。それよりもフレーズの組み合わせでいろんなタイプの曲を揃えたかった。音色がどうこうっていうのは、俺はあまりこだわらないんだよね。そこまで音のことがよく分かる耳じゃないし、それよりも弾いてるフレーズや曲のほうが大事かな。
平松:レコーディングの細かい部分はエンジニアの(植木)清志君にお任せでしたね。アンプのつまみもほとんどいじらなかったし、それも清志君がちょっといじるくらいで。
射守矢:ミックスはいつかまた一緒にやりたいと思ってた日下(貴世志)君に頼んで、清志は録音だけだったんだけど、ふたりとも凄くよくやってくれたね。ゲストのミュージシャン選びでもそうだけど、俺はやっぱり知ってる人とやりたいのさ(笑)。