ブラッドサースティ・ブッチャーズとファウルの手練ベーシストふたりが、ベース+ベース+バスドラという骨格だけのユニークなフォーマットで彩り豊かな低音インストを奏でる「射守矢 雄と平松 学」。その編成こそ前衛的に見えるが、体現される音楽は極めて普遍的だ。
2013年10月のデビュー・ライブからわずか1年あまりで発表される彼らの初の作品集『センボウノゴウ』は、最小限の編成で楽曲の世界観を最大限まで引き出す彼らの手腕を如実に感じさせる傑作である。硬軟・緩急を織り交ぜた楽曲はいずれも彼ららしい流麗なフレーズの組み合わせで構成されており、アルペジオを駆使した演奏と相まって奥深い情緒と余韻が伴う。また、これまでバンドの屋台骨を支える役回りだったふたりのパーソナリティ、とりわけ射守矢のそれが音にもパッケージにも色濃く反映されているのが実に興味深い。彼らの出自である北国の厳しくも美しい雪景色を想起させる音の滴と残響は郷愁の念を呼び覚まし、心の琴線に触れる。情趣に富んだその音楽性の源泉を探ってみた。(interview:椎名宗之/photo:大参久人)
射守矢のベースはフレーズ自体が唄っている
──そもそもベース2本にバスドラという着想はどこから得たんですか。
射守矢:最初からその3点でやる発想はなかったんだけど、学とベース2本で演奏し始めたら、やっぱりリズムが欲しくなったんだよね。頭の中でリズムをイメージしながら曲を書いてたんだけど、そういう時はだいたい打ち込みを使ったりするじゃない? でも俺は使い方がよく分からないし、それならいっそバスドラを踏んでみようかなと思って。自分たちがバスドラを間に挟んで踏んでる絵づらを想像したら、何だか笑けてきちゃってさ(笑)。
──最初から学さんとふたりでやるのが大前提だったんですよね。
射守矢:うん。まずは学ありきで考えていて、ふたりともベースしか弾けないから自然とこうなった。学が引き受けてくれたから成立してる。
──「ファウル以外にやりたいバンドはないですよ」と言っていた学さんがまた定期的にベースを弾くようになったのが個人的に凄く嬉しかったんです。それはやはり、他ならぬ射守矢さんからの誘いだったからですか。
平松:そうですね。射守矢さんから話を聞いて、「是非やらせて下さい」と即答でした。「考えさせて下さい」って選択肢はなかったですね。
射守矢:逆に恐縮されちゃって、「僕でいいんですか?」って感じだったんだけど、「いやいや、俺は学がいいんだ」ってことでさ。
──お互いのベース・スタイルのどんな部分に強く惹かれていましたか。
射守矢:言葉で説明するのは難しいけど、学のベースはなんせ面白い。シリアスとコミカルが融合してるし、そのどっちの部分も好きだし、俺にはそういう要素がないから憧れるよね。格好いいんだけど笑えちゃうフレーズも多いし。ベーシストで学のベースが嫌いな人はいないと思う。
平松:俺はまず、射守矢さんがベースを弾く風貌が(笑)。
射守矢:それは俺もあるよ。学の弾く佇まいはいいなと思うから。
平松:16くらいの頃、札幌で初めて射守矢さんを見た時から凄い衝撃的だったし、フガジのジョー(・ラリー)よりも誰よりも、一番影響を受けたベーシストですね。
──最初にブッチャーズを見たのはベッシーホールですか。
平松:だったと思います。兄貴がよく見に行ってたので、一緒にくっついて見てました。それからエジソンでバンドのメンバー募集の張り紙をしてたら接点が持てて、USインディー/ハードコアの英才教育を受けるようになって(笑)。
射守矢:学は超英才教育で育ってるからね(笑)。周りにいた人間が凄いのばっかりだったから。
平松:「Tシャツはポケット付きが基本だろ?」とか(笑)。
──射守矢さんが学さんを認識するようになったのは?
射守矢:札幌で暮らしてた頃は俺が20代前半で、学はまだ高校生でね。レスザンTVの谷ぐち(順)を始めとするUSコアの流れの中に学がいてさ。スピットファイヤーのナオキと学が始めたシークレット・サマーのライブは見たことがなかったんだけど、確かカセットを1本作ったよね?
平松:はい。
射守矢:ディスコードの中でもライツ・オブ・スプリングみたいなハードコアって言うか、音はしょぼいけどシンプルで面白いサウンドで、「なんだこれ!?」と思った記憶がある。ただ、4、5歳離れてるから札幌時代は接点が少なかった。本格的に交流し始めたのは東京に出てきてからだね。学がファウルを始めてから。
──ブッチャーズとファウルは相思相愛の仲でしたよね。
射守矢:まぁね。(谷口)健ちゃんとの出会いがまず大きかったから。初期のビヨンズが凄い衝撃的だったしね。
──ギター+ベース+ドラムの基本編成のバンドではなく、ベース2本でやるのが射守矢さんの中では自然な流れだったんですか。
射守矢:ブッチャーズの活動ができなくなって、新しく普通の編成のバンドを組もうとか、どっかのバンドに混ぜてもらおうとか、そういう発想は全くなかったね。それは別にこだわりでもなかったんだけど、俺のベースなんて他じゃ使い物にならないし、ブッチャーズだからこそバンドでやってこれたと思ってるわけ。それがなくなって、また音楽をやるならベースを弾くしかないって流れの中で、今の形態に行き着いた。
──ちなみに、ボーカルをやってみようという発想は?
射守矢:俺に限っては全くなかった。(平松に)どう?(笑)
平松:いやぁ…ムリですね(笑)。
射守矢:なんせ歌は大変だよ。俺ね、弾きながら唄えないんだよ。コーラスすらできない。もともとそんな上手なベース弾きじゃないし、どうしても演奏に集中しちゃうからさ。
平松:でも、射守矢さんのベースはフレーズ自体がすでに唄ってますよね。