Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューKAGERO(Rooftop2014年10月号)

狭義のジャズとパンクを蹴散らす異端児が体現する世界最先鋭のオルタナティヴ・ミュージック

2014.10.01

 通算4作目となるKAGEROのオリジナル・アルバム『IV』は、聴き手と刺し違える気迫と覚悟で打ち鳴らされる従来の爆裂ジャズ・パンクを基調としながらも、高いポピュラリティを有した新境地の楽曲もバランス良く取り揃えた現時点での最高傑作と言っていいだろう。
 躍動的と言うよりは暴動的なベースとドラム、火を吹くような狂乱のサックス、その隙間を縫うように容赦なく叩きつけられるピアノが繰り出すアンサンブルは現編成になったことで一体感と自由度が増し、それによって音楽性の幅が格段と広がった。まるで悪魔と天使が混在するかのように、剃刀のように鋭い切れ味を持ちつつ、真綿で包まれるような柔らかさや甘美さもある。だがそれは、彼らが丸くなったということでは決してない。真綿は引っ張れば千切れないほど強い繊維であり、真綿で首を締めるという言葉もあるではないか。
 変幻自在な表現の術を会得した彼らは用意周到に聴き手を惹き付け、虜にする。狭義のジャズやスタイルだけをなぞらえたパンクに辟易した人こそ是非聴いて欲しい。各パートの極めてスリリングな攻防の果てに生まれる得も言われぬダイナミズムに、あなたは胸の高鳴りを抑えられるだろうか。(interview:椎名宗之)

決め込むことによってやれる幅が広がった

── 一昨年は新録のベスト・アルバム『KAGERO ZERO』、昨年はカバー・アルバム『Beast Meets West』というリリースがそれぞれあったものの、オリジナル・アルバムの制作にはだいぶ間が空きましたね。

白水悠(bass):オリジナルは2年9ヶ月ぶりになるのかな。その合間にライブ会場限定のシングルを自主みたいな感じで何枚か出してて。『III』を出してから回ったツアーの最後にオリジナルのドラムの(鈴木)貴之が抜けて、ハギ(萩原)が入って今の4人になったんで、それまでの曲を新しく録ったベストを出したいってなって。で、去年の9月に初めてアメリカ東海岸をツアーで回って、カバー・アルバムを11月に出して。だから間が空いた感覚はあまりないんだよね。ずっとなんか作ってる。今回のアルバムも、今年の3月末から4月の頭でもう全部録り終わってたし。カバーを作ってた頃から新曲の構想は僕の頭のなかでだいぶ固まってたから、全体の作業は割とスムーズだったかな。独りで苦しい時もあったけど。

──カバー・アルバムをリリースしたのはどんな理由で?

白水:ガキの頃から聴いてたガンズ・アンド・ローゼズとかメタリカとかもカバー・アルバムを出してたから、なんか自分のなかではカバーでアルバム作るのが別に当たり前って言うか。カバーをやると、そのバンドの武器みたいなものが如実に出るし、自分たちの持ち味を自分たち自身で整理できるし。オリジナルを作る前にあのカバー・アルバムを挟んだことで、この4人でのKAGEROは何ができるのか、何をやるべきなのかの整理がついたね。

──ベスト・アルバムとカバー・アルバムを作ることで、現編成の地固めをする意味合いもありましたか。

白水:地固めをする目的でアルバムを作ったわけじゃないけど(笑)、結果的にはそうなったのかもしれない。でもやっぱりそれ以上に大きいのは、格段に増えたライブの本数かな。あと、アメリカへ行けたのは凄い大きかった。でっかいステージに立つことも増えたし。

──今回発表される『IV』は従来のKAGEROの特性であるラウド&ヘヴィな側面がさらに際立つ一方で、ポピュラリティに富んだナンバーの数々が強い存在感を放っていますよね。メロウかつエレガントな雰囲気が漂う「13 -Thirteen-」や静謐で流麗なアンサンブルを聴かせる「The Spring Landscape」みたいな楽曲は新機軸だと思うし。今までは剃刀みたいに鋭利な爆音一辺倒だったKAGEROが、実は真綿のように柔らかく優しい、洗練された音色を奏でることにも秀でていたのを知らしめる作品なのではないかと。

白水:KAGEROを始めてかれこれ9年経って、そりゃ作りたい曲の発想や技術的にできることの引き出しが増えるよね。個人的には一昨年からI love you Aloneって名前で独りで音楽を作り始めたり、今年の頭からI love you Orchestraっていうサイド・バンドを始めたのはかなり大きかった。音楽の“質”の面で。でも「13 -Thirteen-」に関して言えば、曲の構想は自分のなかにあったけど、実際の音のパーツを作ったのは智恵子とハギで。僕は佐村河内さんみたいに指示を出すだけだったから(笑)。

kagero_main_photo_web.jpg──菊池さんと萩原さんが正式加入して以降、やれる曲の振り幅がかなり広くなったんじゃないですか。

白水:それは当たり前に凄く大きいよね。できることが増えた。まぁ、できないことも増えたけどね。

──たとえば?

白水:ファーストやセカンドの頃みたいなジャジーな感じ、スイング・ビートの要素はだいぶ減ったよね。あれは貴之の力に負うところが大きかった。でも、個人的な音楽の幅で言えば、減った音楽性よりも増えた音楽性のほうが遥かにおもろいと思ってる。

佐々木“Ruppa”瑠(sax):いろんなことをやるようにはなったよね。あたし自身は広い意味でのジャズをやってる意識がまだあるんだけど、ぶっつけ本番で演奏してハプニングが起こるのを楽しむよりも、ある程度作り込んだ曲を演奏するほうが今は合うんです。とは言え、出来合いのものをそのまま演奏するつもりはさらさらないですけどね。ただ、ここ数年のKAGEROは決め込むことによってやれる幅が広がった部分もあるし、何も決まっていない状態だからって偶発的なことが起こるとは限らないんですよ。ドラムがハギに変わって、意図的にいろんなことを組みやすくなったのは確かですね。

 

アメリカのツアーで得た大きな手応え

──跳ねたシャッフル・リズムが心地好い「MY SLEEPING BEAUTY」は、タイトでシャープな萩原さんのドラムが各パートのドライブ感を引っ張っているように聴こえますね。

白水:貴之の時はレコーディングでも敢えてクリックとか使わなかったし。あの時はそれが良かった。それでいい面ももちろんあったけど、どうしても偶発的な部分に身を委ねることが多くて。誰も責任が取れないと言うか。同じ曲をやっても日によって全然違う演奏になったし。良さでもあり、悪さでもあり。そういう意味で、前は前でKAGEROは生粋のライブ・バンドだと僕は思ってた。でも、今この4人が求めてるのは、僕のなかのいろんな“型”に一度ハメ込んで、そこからそれを飛び超える音楽なんだと思う。それに昔のライブはステージだけで完結する感じだったしね。

佐々木:「こっちで遊んでるのを見て下さい」みたいなね。「どう? 面白いでしょ?」くらいの。

白水:極論を言えば、自分たちの表現ができればお客さんのリアクションはどうでも良かった。でも去年、アメリカでライブをやって“次の領域”のライブができて。ボストンでサークルモッシュが起きたり、リアクションがもの凄くて。「俺がやりたかったのはこういうことなんだ」って感じたし、現地のお客さんが暴れまくってるのを見て、こっちも負けてられっかよ! って。それが“次の領域”だったんだなって。

──いい相乗効果を生んだと。

白水:うん。僕らは普段と変わらないテンションで臨んだし、ライブ自体の質は日本でやってるのと多分同じだったんだけどね。アメリカではそれで凄く盛り上がった。でも日本へ帰ってきてライブをやっても、そういう感じにならなかった。“固まらせちゃう”みたいな。僕らは歌もないし、ずっと同じビートが鳴り続ける音楽でもないから、日本では反応しづらいのかもしれないって思って。

DSC_8934_web.jpg──でも今度のアルバムには、「sister」や「ill」のように歌が入ってもおかしくないくらいにメロディの良さが抜きん出た曲もありますよね。

白水:うん。歌詞がついてもおかしくない曲は前からあったと思うんだけど、今回はそれが際立ってる。それでもやっぱり歌モノにはなり得ない。アメリカでのライブの、あの感覚は日本じゃ再現できなくて。KAGEROはよく日本でも“狂乱のライブ”みたいな言われ方をするけど、フロアは割と冷静な時も多いじゃん。

佐々木:狂乱なのはこっち側だけでね(笑)。

白水:だからアメリカ・ツアーから帰ってきてから、日本でもフロアを爆発させるにはどうしたらいいのか? を真剣に考えるようになった。それから少しずつだけど、日本でやるライブが変わってきた。まだ変わってきてる最中だし、まだまだ変えていきたい。

──日本のオーディエンスが固まって見えるのは、爆音の洪水と迫真のパフォーマンスにただただ圧倒されているからじゃないですか?

白水:かもね。多分、“ただ圧倒させるだけのライブ”は正直もう僕ら自身が飽きたんだわ(笑)。それでも、圧倒させるっていうKAGEROの音楽自体はこれからも変わらない。オリジナルを4枚作って、緩やかな変化はしてきたけど、今回の『IV』がKAGEROの表現の根本からざっくり変わったようなことまではしてないもん。

──とは言え、「flower」には従来にないポップなエッセンスが詰め込まれているし、最初に聴いた時からKAGEROが一段上のステップに駆け上がったのを実感しましたけどね。

萩原朋学(drums):「flower」は僕が入ってから出来た2曲目の曲なんですよ。

白水:ハギが入って最初に作ったのは「LITTLE GARDEN」だね。もう思いっきりノリにくい曲にしてやろうって思って智恵子と一緒に作ったんだけど、最初は作った自分たちも覚えられなくて(笑)。

 

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KAGERO IV

RAGC-007/価格:2,000円+税
2014年10月15日(水)発売
発売:Ragged Jam Records
販売:株式会社KADOKAWA メディアファクトリー

amazonで購入

【収録曲】
01. OVERDRIVE
02. flower
03. Pile Bunker
04. sister
05. THE FOREST
06. HONEY BEE
07. 13 -Thirteen-
08. MY SLEEPING BEAUTY
09. LITTLE GARDEN
10. ill
11. The Spring Landscape
12. CRY BABY

LIVE INFOライブ情報

KAGERO『Ⅳ』リリースツアー「The Winter Landscape」
11月7日(金)東京:下北沢SHELTER (ワンマン)
11月16日(日)大阪:心斎橋FANJ
11月23日(日)北海道:札幌SPIRITUAL LOUNGE(KAGERO vs Jake stone garage)
11月30日(日)宮城:仙台PARK SQUARE(with GEEKSTREEKS and more!)
1月10日(土)愛知:名古屋CLUB ROCK'n'ROLL(KAGERO vs ???)
1月17日(土)静岡:静岡Freaky Show(KAGERO vs ADAM at)
【ツアーファイナル】
2月1日(日)東京:新宿LOFT

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