ライブの盛り上がりを想定した曲作りの変化
──確かに「LITTLE GARDEN」は穏健なパートと荒くれたパートが追いつ追われつ入り乱れる複雑な曲ですが、よく練られた構成ですよね。この曲も、今のKAGEROはこんなこともできるのかという振り幅の広さを感じました。
白水:やっぱりね、常に聴く人をびっくりさせたいっていうのは変わらないよ。「LITTLE GARDEN」が出来た時、4人全員格好いいのが出来た手応えがあったんだけど、レーベルのスタッフとかは「KAGEROはこの先どこへ行くんだ!?」って思ったみたいで(笑)。そう思わせられるだけのプログレッシヴな曲を作れたから、その次は敢えて「flower」みたいなストレートなのを投下したくなったんだわ。
──「flower」は、清涼感溢れるイントロのピアノの旋律からして名曲の予感しかしませんよね(笑)。
菊池智恵子(piano):レーベルのスタッフさんには「やたら“アンセム感”がある」って言われました(笑)。
白水:でもこのバンドで音楽を作る上で、やっぱり常に“アンセム感”は大事かなって。KAGEROは全曲ライブでやるから。捨て曲が許されない。
──その「flower」やピアノのリフレインがクセになる「HONEY BEE」のような曲を聴くと、菊池さんの正式加入が如何に重要なことだったのかが分かりますね。
白水:同等にハギが入ったことも凄く大きなことだよね。
菊池:サポートの頃からKAGEROは純粋に楽しかったし、正式にメンバーになってもいいのかなって。1年経ったくらいで加入したんです。
萩原:サポート期間が1年もあったんだ?
白水:うん。まぁ最初から正式加入が前提みたいな感じだったけどね。
菊池:ちなみにあのピアノのフレーズは、デモにあったフレーズをけっこうそのままパクったんですよ(笑)。
──KAGEROはジャム・セッションの延長線上で曲が出来ることが多いのかなと勝手に思っていたんですが、そういう感じでもないんですか。
白水:今はジャムから曲を作ることは少なくなった。だいたいどの曲も僕が曲作ってる時から頭のなかで全部の音が鳴ってて。だから全員のパートのフレーズもかなり指定する。この3人にできないことはないと思ってるから。自分の頭のなかで鳴ってる音とフレーズを、まずは3人にそのまま形にしてもらう。昔はベース・ラインとサビのメロディだけ指定して、あとはみんなに好き勝手にやってもらったりしてて。あの時のKAGEROはそのやり方が合ってた。ファーストとかセカンドはそういう成り立ちの曲が多かったね。
──自由奔放に聴こえるRuppaさんのサックスにも綿密な設計図が用意されているとは意外でした。
佐々木:まぁ、こっそり変えることもありますけどね。白水が自分の演奏に集中してる時は気づかれないので(笑)。
白水:変えたほうがいい具合なら、気づいてももちろん何も言わない。それは他の2人に対しても同じ。メンバーが変われば曲の作り方も当たり前に変わってくるし、たとえば「CRY BABY」みたいな曲は、僕がやりたいって言っても前のメンバーなら100%やってくれなかっただろうし(笑)。ただ、どうやらKAGEROの音楽って世界中を探しても他にないみたいだし、「格好いいですね」って褒められれば「当たり前だろ」って今も昔もずっと思ってるけど、でも僕らが今以上の音を出すためには現場のリアクションがもっと必要なとこまで来たんだと思う。今はね。それを想定した、今のKAGEROのライブに合ってる曲を今回は作ったって感じだわ。
萩原:アメリカ・ツアー以降の活動を経て、ライブをやるにあたってはお客さんとしっかりと向き合う方向へシフトしていったんですよ。去年の5月に『FUZZ'Em All』という自主企画をシェルターで始めて、お客さんも自分たちも等しく楽しめるゲストを呼ぶことにしたんです。最初のバンドから最後のバンドまで全体のパッケージが楽しいのが理想だし、そうなればお客さんもずっと居心地がいいじゃないですか。だから目当てがKAGEROだけという人でも最初から最後まで楽しめる面子を頑張って選んだし、そんな意識で臨んでいると、曲作りも自ずとライブを想定したものになるんです。どんな曲なら喜んでもらえるかっていう。
掛け持ちでバンドをやることの必然性
──そう考えると、去年アメリカで培った経験はKAGEROにとって大きなターニング・ポイントのひとつだったと言えそうですね。
白水:今思えば、ファーストやセカンドの時はもっとヒリヒリするような曲が欲しかったんだろうし、ライブでもそういう曲しかやりたくなかったんだろうし。
佐々木:自由に遊びたかったんだろうね。
白水:それが『III』で音がまとまり出した。個人的には『II』から『III』が一番変わったと思う。その間に貴之がドラム修行で渡米して、『III』を作る頃にはドラムが3人体制で。ライブとか曲によってドラマーが違うっていう。その状態だとメンバーにぶん投げってやり方はもうできないなって思ったから、僕独りで楽曲を完成させるようになった。自分自身が納得するものを作りたいって思うようになった。これはもう、自分がケツを持とうって。
佐々木:ドラマーが増えると聞いて、その時々で演奏が変わってもいいんじゃないかとあたしは思ってたんですよ。でも、ある程度の地盤を固めておかないと、そのドラマーの自由さもなくなっちゃうし、ふわふわしたこっちの演奏に合わせるだけで終わっちゃうじゃないですか。だからメロディなりフレーズなりを、もっと分かりやすいものに変えていく必要があったんです。
──ちゃんとした“型”がなければ“型破り”なことはできませんからね。
佐々木:そうですね。ちょうどその頃、SOIL & "PIMP" SESSIONSのタブゾンビさんとよく会う時期で、「突飛なことやアドリブを無理にやらなくても強い音が出せるはずだよね」って考え始めてたんです。決め事がないって格好つけ方に逃げるのは割とラクなことだし、決め事を作って格好つけてみるのも悪くないかなと思ったのが『III』の頃なんですよ。
白水:そこからドラムがハギになったのが凄くいい流れだったね。ハギはもともと型のあるガレージとかストレートなロックンロールをやってたから、“決め”られるようになった。
佐々木:KAGEROにしては珍しく同じモードが継続してるよね(笑)。
白水:僕もRuppaさんも凄く飽きっぽい性格なのに(笑)。
佐々木:別のバンドで気楽なことをやってバランスを保ってるのかも。
白水:それはでかいね。4人ともいろんな引き出しとか理想のミュージシャン像があるだろうし、それを全員がKAGEROに注ぎ込むと窮屈なことになると思う。
──今は4人ともKAGEROとは違うバンドを掛け持ちしているんですか。
白水:みんな別の形態でそれぞれ遊んでるね。
佐々木:もともとKAGEROって別のバンドがある人たち同士で組んだんですよ。あたしもKAGEROをやる前から続いてるバンドが今もあるし。
──いろんなバンドを掛け持ちするなかで、KAGEROは帰るべき母船みたいな存在?
白水:僕はソロとかやってても、ある意味KAGEROがすべてなんで、母船も何もないわ。
佐々木:あたしは若干外側を向いてるんですよね。KAGEROはそもそも白水とズッキー(鈴木)が始めたバンドだし、あたしも当時は他のバンドのほうが忙しかったんですよ。それからKAGEROの比重が高まっていくんだけど、あたしの役割は他のバンドで培った経験やいろんな音楽をやってきた成果をKAGEROに持ち帰ることなんです。それを白水が出してくるものに乗っける感覚がある。だからKAGEROを母船や実家だと思わないようにしている節はありますね。敢えて言うなら空母って言うか。あまりここで寄り添っちゃうと、何と言うか……不吉。
白水:不吉!?(笑)
佐々木:今の適度な距離感が心地好いんですよ。白水が個人で活動するのを面白がれるのも、あたしがいろんな活動してるからだろうなと思うし。
白水:I love you Orchestraは真剣な遊びであり心の洗濯だから。ヘンな話、KAGEROではヘタを打てない。どうしてもいろんな事情が絡み合うから、誘われたライブを何でもかんでも受けるわけにもいかない。でも、できることなら毎晩でもステージに立ちたいじゃん。きっと4人ともそうなんだと思う。
佐々木:そうだね。正直、ライブの本数は足りないと思ってる。
白水:ひとつのバンドだけじゃ、このステージに立ちたい欲なんて埋まらないよ。今は埋めるべきでもない。面白いイベントはよっぽどのことがない限り個人的には出たいし、そういう面でスタンスを軽くするためにも別のバンドが必要なんだよ。