去年の夏以降、『○』、『△』、『□』とEP 3部作を矢継ぎ早に発表してきたHalf-Lifeが、『replay』以来2年半ぶりとなるフル・アルバム『〆』(シメ)を我が下北沢シェルターのレーベル"SHELTER UNITED"からリリースする。メジャー契約の解除という挫折、バンド解散の危機を乗り越えて制作に臨んだ本作は、あまりに赤裸々な歌詞と極上のアンサンブルが絶妙なバランスで昇華した会心の作だ。硬軟織り交ぜたバラエティに富んだ楽曲の完成度はどれも凄まじく高く、全体の構成も素晴らしく、バンドの著しい進化の跡、彼らが辛酸を舐めた経験を決して無駄にしなかったことが十二分に窺える。
本稿は、さる7月8日に阿佐ヶ谷ロフトAで行なわれたHalf-Life初のファンミーティングでの公開インタビューをまとめたものだ。彼らにとって"二度目のファースト・アルバム"と言っても過言ではない『〆』の制作に至る背景を紐解くことで、本作の魅力がより一層伝わると自負している。この先もずっと行進の更新を続けると高らかに宣言したHalf-Lifeの新章はここから始まるのだ。(interview:椎名宗之)
自分の思いの丈を全部ぶちまけたかった
──今回は、秩父のネバーランドというスタジオで曲作りの合宿をされたんですよね。
上里洋志(vo, g):デビュー前にたくさん曲を作ろうってことで2回くらい合宿をしたことがあったんですけど、今回の合宿はそれ以来でしたね。ある程度イメージを固めていた曲が弾き語りの状態で数曲あって、それを詰める作業をするべく合宿に行ったんです。
岡村健人(b, vo):合宿の費用を出してくれる人がいたんですよ。
──レーベル元のシェルターじゃないですよね?
健人:違います。シェルターは1円も出してくれませんでした(笑)。
洋志:僕らがやってるラジオ番組(FM TARO/『Half-Lifeの“こっぱええ感じ”』)でスポンサーを募ったら手を挙げてくれた人がいて、行けることになったんです。
──3日間で約11曲を作ったそうですが、合宿中に形にする目標の5曲があったとか。
洋志:「ghost」、「BORDER」、「シロップ」、「kiss me」、「水槽」ですね。
健人:「SCORE」もそうじゃなかった?
洋志:そうだね。今回のアルバムの肝になっている曲を合宿中に仕上げた感じです。静かな森に囲まれた環境も良かったし、合宿の前半は割といい雰囲気で作業を進めていたんですけど、後半になるにつれて険悪な雰囲気にもなりましたね(笑)。
健人:「METRO.」を作ってる時に俺と有君が揉めたりして(笑)。
洋志:健人がやりたいリズム感を上手く口で説明できなかったんですよ。「こんな感じにしたい」っていうサンプルが見つからなくて、「もう見つからないからいいや」って健人が投げやりになったのが有君は気に喰わなかったみたいで(笑)。「ホントにやりたいんだったら探せ!」「いやいや、探すったって見つからないんやもん!」って言い合いになったんですよ(笑)。
健人:もう殺伐とした雰囲気で(笑)。
──バーベキューどころじゃなかったわけですね(笑)。
健人:楽しかったバーベキューの翌日でした(笑)。まぁそんなこともありつつ、上手いこと仕上げられた手応えはありましたけど。
──最初に出来た曲は、アルバムの大団円を飾る「SCORE」だったんですよね。「助走も序章もいらない」、「いつだって更新して行く 行進して行く」と唄われる希望に満ちた曲で。
健人:3枚のEP(『○』ep.、『△』ep.、『□』ep.)を作っていた段階でアルバムを作る構想がすでにあったので、EPとアルバムがつながるような曲を作ってくれと俺が洋志に頼んだんですよ。「SCORE」の歌詞は3枚のEPに収録した曲と関連しているんです。
──EPとして先行発表されていた「げきおこぷんぷんまる」が顕著な例ですが、今回のアルバムは怒りがモチーフになった曲が多いですよね。「げきおこぷんぷんまる」は平和ボケした今の日本に対する痛烈な批判が込められているし、「BORDER」は日常生活を生きる煮え切らない自分自身へ喝を入れるような曲だし、「後悔処刑」は死んだように生きる人間に対して辛辣な皮肉を浴びせた曲じゃないですか。
洋志:確かに今回、歌詞の部分で一番打ち出したかったのは怒りの感情でしたね。聴く人たちのことを意識する部分は曲作りをする上で当たり前のようにあるんですけど、今まではちょっと意識しすぎていたのかなと思って。今回のアルバムでは自分の思いの丈を全部ぶちまけたかったし、それをコンセプトにしたかったんです。
──『drama』では3人全員で歌詞を練り上げていくスタイルでしたが、今回は?
洋志:僕が中心になって書きましたね。
健人:「kiss me」や「tiddler」、「BORDER」とか何曲かは歌詞がない状態だったんで、「俺も書くよ」って言ったんですけど、「イヤだ」って却下されたんですよ(笑)。
洋志:それぞれの曲で言いたいことがすでにあったんです。できるだけ自分の言葉で歌詞を書きたかったんですよね。
──「kiss me」で健人さんのウィスパー・ボイスが掛け合いのように入りますけど、あの英詞は?
健人:ああいうのは俺が考えてます。コーラスは全部自分で考えて、洋志の許可が下りたところだけ使ってもらってますので(笑)。
──リーダーなのにジャッジ権がないと?(笑)
健人:ジャッジ権は有君が全部握ってるんですよ。洋志が作ってきた曲をバンドでやるかどうかのジャッジはまず有君がするんです。有君が「これは違う」と判断したら、俺のところまでは届いてこないんですよ。俺はリーダーなのに一番後回しなんです(笑)。でも、俺のところに届いた曲はどれも厳選されたものだから間違いないんですよ。