今は1枚目を作った時と一緒の気持ち
──健人さんが一番リスナーの感覚に近いということでもありますよね。
洋志:そうですね。ふるいにかけた曲を聴いてもらって、善し悪しを判断してもらうという意味では一番最初のリスナーなんです。
健人:「後悔処刑」は最初、“有フィルター”に引っかかって落ちてこない保留の曲だったんです(笑)。でも俺は絶対にいいと思ったから、勝手に家でベースを付けたり、コーラスもちゃんと考えたり、温めまくっていたんですよ。アレンジを変えてでもやりたい曲だったので。で、レコーディングの1週間前にスタジオで音を合わせていた時に「これはこれでいいね」ってことになって、見事に昇格したんです。
洋志:落選した曲もあるし、次の作品に回そうって曲もあったんですよ。
──メジャーとの契約が切れて一時はバンドの存続が危ぶまれていたHalf-Lifeにとって、本作は背水の陣で臨んだアルバムだと思うんですが、次の作品を視野に入れる余裕もあったんですか。
健人:思われるほど追い込まれてはいなかったですね。考えすぎるとダメになるし、開き直ったと言えば語弊があるかもしれないですけど、まずは自分たちがやりたいことをやらないと誰にも伝わらないじゃないですか。やりたい音楽をいいと感じてくれた人たちがついてきてくれるのが音楽の本来あるべき姿だと思うし、やりたいことを蔑ろにして、お客さんが求めているような音楽を洋志に作らせても絶対にいい曲はできませんよ。だから今回は洋志が書いた歌詞の手直しはほぼしてないし、曲も有君がやりたいのを基準に選んだし、それが今のHalf-Lifeにとって必要なものなんだと考えながら作ったのが今回のアルバムなんです。純粋な思いから生まれた作品だし、今は1枚目を作った時と一緒の気持ちなんですよ。
──セールスを意識して試行錯誤してきたからこそたどり着けた境地と言えますね。
洋志:売れ線の音楽と同じことをやっても意味がないと思ったんです。まず何より自分自身が感動しないので。僕と同じ感情や感覚を持った人たちが少なからずいるはずだし、その人たちは売れ線の音楽だけじゃ満足できないと思うんです。僕が10代の頃に竹原ピストルさんの音楽を聴いて救われたように、今度はHalf-Lifeの音楽で誰かを救いたいとおこがましくも考えているんですよね。
──ちょっと話が逸れますけど、解散の危機を乗り越えられたのはどんなことがきっかけだったんですか。
健人:解散って、バンドにとって一番ラクな選択肢だと思うんです。続けるほうがずっと大変だから。でも、俺はどうしてもHalf-Lifeを続けたかったんですよ。長く続ければ続けるほど愛情が湧いてしまうタイプなんで。もうね、俺がどれだけ粘ってHalf-Lifeが続くことになったかをここで伝えたいですよ!(笑)
──どうぞ存分に語って下さい(笑)。
健人:俺が洋志をずっと説得し続けたんです。ただ彼は当時就職していたので、1年間泳がせたんですよ。でも、スタッフにはこう話していたんです。「あいつは1年くらいでまたバンドをやりたがるはずだから、今はちょっとだけ辛抱してくれ」って。そしたら俺が描いていたシナリオ通りにまんまとバンドに帰ってきたんです(笑)。
──洋志さんは当時、どんなことに一番煮詰まっていたんですか。
洋志:メジャーで2年間お世話になって、音楽を通じて自分をどう出せばいいのか勉強にもなったんですけど、生活の糧として音楽をやるのが重荷になってしまったんです。自分が作る曲を元に健人も有君も生活していくわけで、その自信がなくなってしまったんですよ。音楽を商売にするのが自分は向いてないんじゃないかと思ったんですね。それならHalf-Lifeを始めた頃のように、週に1回スタジオに集まって、月に1回ライブをやるペースで楽しめれば充分じゃないかと。で、シェルターのスタッフやARAYA JAPANがHalf-Lifeの音楽をまた広めていこうと言ってくれた時に、僕としては「ちょっと待ってくれよ」って感じだったんです。
──それじゃまた同じことの繰り返しになるぞ、と。
洋志:また音楽業界のなかでランク付けされることになるし、自分が純粋にいいと思った音楽に対する評価を気にするあまり挫折を味わったり、音楽を嫌いになるのがもうイヤだったんです。でも、3枚のEPを周りのスタッフが認めてくれたのがとても励みになったし、『○』ep.のツアーファイナルをクアトロでやった時にお客さんが温かく迎え入れてくれたのを見て、まだここでやめるわけにはいかないと実感したんですよね。
──そんな話を伺うと、自身を含めた敗北者に向けて「亡霊と化した魂を取り返せ」と唄う「ghost」に強い説得力がある理由がよく分かりますね。
洋志:自分は今、人生の敗北者だなと感じている人たちに向けて、如何にケツを叩けるかが今回のアルバムを作る上で意識していたところなんです。
最後は必ず希望へと導きたい
──今回のアルバムはヘヴィな歌詞に目が行きがちですけど、緩急のついた3人のアンサンブルもまた見事ですよね。怒りをモチーフにした曲は特に、一体感のある音の塊が歌詞の世界観を補完していると言うか。
洋志:今までは「Half-Lifeってどんなバンド?」って訊かれると上手く答えることができなかったんですけど、このアルバムが出来たことで「こういうバンドだよ!」って自信を持って言えるようになったんですよね。
──1曲目の「ghost」と最後の「SCORE」は七転八倒しながらも明日を超えていこう、前を向いて行進していこうという決意を主題にした曲ですが、以前のHalf-Lifeならこうしたスケールの大きな曲を表現しきれなかったんじゃないかと思うんですが。
健人:Half-Lifeは凄く運のいいバンドだと思うんです。かと言って、今まではその運を上手く活かせなかった。俺らより努力してるバンドはめっちゃいるし、売れるためにやるべきことが山ほどあるじゃないですか。こうして俺が酒を呑んでる時でも必死に練習に励むバンドマンがいるわけで。でも、だからと言ってその努力が必ず報われるわけじゃないですよね。光が当たらずにずっと埋もれたままのバンドはたくさんいるし。それに比べると俺たちは大した努力もせず、割と運が良かったんですよ。インディーズで『sympathy』というシングルを出して、それが引っかかって2年間メジャーで活動できるようにもなって。だけど結局は活動が行き詰まって、特に洋志は「もう音楽なんかやりたくない」と思うほど打ちのめされてしまったんです。
──その境地から這い上がってきたのが、今回のアルバム完成に至るプロセスだったと。
健人:それまで死ぬ気で努力をしてこなかったし、バンドとしてまだまだやれてないことがいっぱいあると思えたんですね。1から10までやれることがあったとしたら、1しかできていなかった。周囲の力を借りながらバンドをやっている気になっていたけど、全然やれていなかったんです。それが『○』ep.と『△』ep.で分かって、『□』ep.から今回の『〆』に至る過程で「Half-Lifeのことをどうにか知ってもらいたい、知ってもらえたら必ずHalf-Lifeを好きになってくれるはずだ」と考えるようになったんです。今までは人から与えてもらうことに慣れすぎていたんですね。
──なるほど。気だるいムードから一転、サビでキャッチーに突き抜ける「FAINT」は今のHalf-Lifeの真骨頂みたいな曲だと思うんですが、如何ですか。
洋志:歌詞は言いたい放題だし、ここまで言って大丈夫か? くらいのことも唄ってるんですけど、最後は必ず希望へと導きたいんですよ。そこへいざなうためにもサビの突き抜けた感じは大事だと思ってます。
──「tiddler」はバンド内でも問題作と呼ばれるような、かつてないタイプの曲として仕上がりましたが、今までと毛色の違う曲を作ることはどの程度意識していたんですか。
洋志:結果的に毛色の違う曲が生まれたという感じですね。有君の「これはHalf-Lifeらしい曲か否か」というふるいをかけるセンスは確かだし、一見、自分たちらしくないかな? と思うような曲でも、最後はやっぱりHalf-Lifeらしい音になるんですよ。それと今回は、同じバンドが演奏しているとは思えないほどバラエティに富んだ曲が揃っていると思うし。
──「BORDER」みたいにキレッキレの疾風怒濤ソングを唄うバンドが、「Anny(AL ver.)」のようなアコギを基調とした洗練されたラブソングを唄うとは思えませんからね(笑)。その振り幅の広さもHalf-Lifeの魅力ですけど。
洋志:振り幅は広くありたいですね。作品を出すごとに変化をしたいし、違うアプローチを試したいんです。こんなこともできるんだ、あんなこともできるんだっていうアプローチを常にしたいんですよ。