ブルースという原点、帰るべき場所
──ジプシーズのライブで披露されたロバート・ジョンソンの「SWEET HOME CHICAGO」はとても凄味がありましたね。
大江:あれはやれて嬉しかった。僕はホントにブルースが好きだし、ああいう曲が大好きなんですよ。ブルースってやるのが純粋に楽しいし、3コードなのを感じさせませんよね。ジプシーズのゲストに出て嬉しかったのは、「SWEET HOME CHICAGO」や「I'M READY」といったブルースをやっていた時に、前のほうにいた年輩のお客さんが楽しそうにしているのが見えたことなんです。ブルースはやるほうも見るほうも楽しくなれる音楽なんですよね。だからソロでもルースターズでもブルースを必ず1曲は入れることにしているんですよ。ルースターズはデビューする前からブルースを基調とした音楽をやっていたし、ブルースに根差したリアルな音楽を今もちゃんとやれることをライブで見せたいという気持ちが常にあるし、新曲を作ってもブルースから抜け出せないんですね。僕にはブルースという帰る場所が常にあると言うか、リズム&ブルースやロックンロールが一貫して僕の原点なんです。
──ちなみに、ジプシーズのゲスト出演はどんな経緯で決まったんですか。
大江:東京で用事もあったし、スタッフの方から「出てみませんか?」とお誘いを受けたので。お客さんも楽しんでくれたみたいで良かったですよ。ただ、前日のリハーサルへ行く前に凄く緊張しちゃったんですよね。もう緊張しちゃってどうしようかと思って、前に住んでいたこともある下北沢で一度降りたんですけど、仕方なく喫茶店に入ったんです。そこでチーズケーキとヘーゼルナッツのカフェラテを頼んで気を静めようとしたら、とてつもなく甘かった(笑)。
──それにしても、ジプシーズのライブで大江さんの歌が6曲も聴けるとは思いませんでした。事前に3曲ぐらいジプシーズと一緒にやるとマネージャーの方から聞いていたので。
大江:リハーサルの時に「実はこういうのもやりたいんだけど…」って「SWEET HOME CHICAGO」や「I'M READY」をやってみたら、みんなが合わせてくれたんですよ。ああいうブルースを家で弾くと楽しくて好きなんです。自分で弾いていて、たまに感極まることもありますね(笑)。
──家で弾くと言えば、自宅や車の中で弾き語りをする映像を“SHORT MOVIE”としてオフィシャル・サイトで頻繁にアップしていますよね。まさに今の時代ならではの手法と言うか。
大江:全部自分で撮影してアップしなくちゃいけないから大変ですけどね。最初の頃、「GOOD DREAMS」を新しく買ったアコースティック・ギターで弾き語りしているのを撮ったら、口元から上が全然映っていなかったんですよ。サングラスをかけて、髪型もちゃんと整えたっていうのに(笑)。
──ああいった映像を公開するのも、お客さんとのコミュニケーションの一環として捉えているんですか。
大江:と言うか、やっぱり発表したいじゃないですか。新しくアコースティック・ギターを買ったら子どもみたいに嬉しいし、演奏すれば純粋に楽しいし。だったらそれをYouTubeにアップしてみんなにも楽しんでもらいたいんです。
──ブログも頻繁に更新されていますし、大江さんがインターネットの世界に積極的にコミットしているのがちょっと意外だったんですよね。
大江:もともとネットは好きなんですよ。使うのはヘタなんですけどね。コピー&ペーストも最近やっと覚えたぐらいなので。ブログに関しては、自分の中では“イメージダウン・ブログ”と思っているんですけど(笑)。別に書かなくていいことまで思いのままに書いちゃうんですよ。
──サービス精神旺盛と言うか何と言うか…(笑)。
大江:だって、ミュージック・ビジネスって要するにエンターテイメントじゃないですか。ブルースでもパンク・ミュージックでもロックンロールでもエレクトロ・ポップでも何でもそうですけど、最終的にはお客さんをどれだけ楽しませるかなんですよ。そのためには、その時の自分ができることをすべてやらなくちゃいけない。それがアーティストの仕事だし、それでお金を頂いているわけですからね。その目標がズレちゃったら何にもならないと思いますよ。
──ソロ・ライブのセットリストもエンターテイメント性が高いですよね。ルースターズのレパートリー以外にも大江さんのルーツが窺える興味深いカバーも披露されていて。
大江:けっこうやっていますよ。ストーンズの「DEAD FLOWERS」とか、ボブ・ディランの「LIKE A ROLLING STONE」のサビだけとか(笑)。あと、パティ・スミスの「BECAUSE THE NIGHT」、キングスメンの「LOUIE LOUIE」やトロッグスの「WILD THING」。これも全部サビだけ(笑)。時間もなかったし、コードの繋がりでやれそうなのをパパッとやってみたんです。
──福岡のライブでMCのスマイリー原島さんが「大江慎也のプライベート・スタジオに迷い込んだようなライブ」と言っていましたが、まさにそんな感じだったんですね(笑)。
大江:普通はそう取るのかもしれないけど、僕としては面白いことを新しく始めているような感覚なんです。リズムマシンを使った弾き語りで、やりたい曲をやりたいようにやるっていう。