3年ぶりに福岡で対面した大江慎也はすこぶる元気だった。
昨年6月にザ・ルースターズ[大江慎也(vo, g)、花田裕之(g)、井上富雄(b)、池畑潤二(ds)]として『宮古島ロックフェスティバル』に出演して以降、『SOAL』(ただひとつの、たった一人の、単独の)と題された初のソロ・ライブを福岡と名古屋で敢行し、年末にはロックンロール・ジプシーズのワンマン・ライブにゲスト出演するなど、いつになく精力的な活動を続けている大江。時折ユーモアを交えつつ自身の近況を饒舌に語るその姿は完全復調を強く印象づけるものであり、今月16日に福岡サンパレス ホテル&ホールで行なわれるルースターズのライブ『STILL OK 〜ROOSTERS BEST SONGS PARADE ここから始まる新たな歴史〜』への期待をつのらせるには充分すぎる意欲を言葉の行間からも感じた。
自分の言いたいことを言う、やりたいことをやる。それをごく自然な形で体現できるようになった今の大江慎也。彼が憧憬し続けてきたブルースを分母に置いた瑞々しく純真なロックンロールは、喜びと悲しみ、明と暗、長調と短調といったさまざまな二項対立を包含している。紆余曲折を経て今また表舞台に立った彼だからこそ醸し出せる風格と説得力もある。尊敬してやまない3人の盟友とともにステージに立つ『STILL OK』で、大江はピリオドを超えたロック・バンドの持つ凄味と深み、34年間続く物語の次なる一頁を軽やかに見せつけてくれるはずだ。(interview:椎名宗之)
やっとやりたいことをやれるようになった
──去年の6月にルースターズとして『宮古島ロックフェスティバル』に出演して、てっきり大江さんの活動がまた小休止するのかと思っていたんですが…。
大江:今までのパターンだとそうだったんですけど、今は止まらない、止まれない、気持ち裏腹、っていう感じなんです(笑)。やりたいことがいっぱいあったし、やっとやる気も出てきたし、だったら続けて自分でライブを組んでいこうと考えたんですよ。
──それが10月に福岡レソラNTT夢天神ホールで行なわれた初のソロ・ライブ『SOAL』で、演奏はもちろんのこと、ブッキングからグッズの手配まですべてをご自身で手がけたのは初めてだったんですよね?
大江:初めてです。もうとにかく忙しくて、ギターを弾く暇もろくにないんですよ。ローディーの発注、チケットやTシャツのデザイン、ギャラの精算、会場のゴミ拾いに至るまで(笑)全部自分でやりましたからね。その合間にホームページの更新もやらなくちゃいけないし。やめられない、止まらない、まさにかっぱえびせんですよ(笑)。
──活動を本格化させるきっかけが何かあったんですか。
大江:僕はもう54歳なんですけど、ある程度の年齢になると、今まで言えなかったりやれなかったことが自然と言えるようになったりできるようになったりするんですよね。ホントはもっと早い時期に言いたいことややりたいことがあったんだけど、病気とかいろんなことに規制をかけられていたんです。でも、もういいかなと思って。自分の言いたいことを言う、やりたいことをやる。ただそれだけのことなんですよ。やりたいことをやる以上、僕にはルースターズの存在が不可欠なんですね。もともとルースターズというバンドがあるからこそ大江慎也としての活動ができるわけで、それを踏まえた上でライブをやっていきたい。ソロの時もリズムマシンを使いながらルースターズの曲をやっていますしね。福岡のレソラでやった時はレスポールのスタジオっていう赤いギターを使ったり、年末にロックンロール・ジプシーズのゲストで出た時はセミアコを使ったり、自分なりに工夫を凝らしているつもりなんですけど、やっぱり何か新しいことをやりたいんですよ。ルースターズの曲をそのままやったんじゃ面白くないし、あの3人がいれば自由にやれる部分がたくさんありますからね。
──ソロでライブをやるにあたって、バンド形態よりも弾き語りのほうがしっくり来たんですか。
大江:最初はアコースティック・ギターだけでやろうとしていたんですけど、アンプを通してリズムマシンを使えばバンドっぽくやれるんじゃないかと思ったんですよ。ライブをやることになって、後先のことを考えずにギターを3本も買っちゃったんですけどね(笑)。今度、ローランドがフェンダーとコラボレートしたストラトキャスターを発売するんですけど、それも買って。つまみを回すだけでストラトキャスターなのにテレキャスターの音が出たり、12弦アコースティック・ギターやシタールの音が出たり、変則チューニングまでできるという優れモノなんですよ。それは今度のルースターズのライブで使おうと思っています。
──福岡の『SOAL』ではしっかりと張りのある歌声を披露されていて、調子の良さが窺えましたが。
大江:普段、摂生しているからでしょうね。この頃はあまり酒も呑まなくなったし、呑んでも少しの量ですから。
──そう言えば、『SOAL』ではスプマンテというイタリアのスパークリング・ワインが大江さんによるセレクト・ドリンクとして提供されていましたよね。
大江:レソラのホールはビルの入口にルイ・ヴィトンとバーニーズ・ニューヨークがあって、「大江はなんでこんな所でライブをやるんだ!?」ってお客さんが思うような場所なんです(笑)。そういう洗練された空間で、せっかくの土曜の夜だし、ライブの前に軽く一杯呑んでリラックスして欲しかったんですよね。
──『SOAL』は11月にも名古屋のTIGHT ROPEで行なわれましたが、2回のソロ・ライブをやって強い手応えを感じたのでは?
大江:うん、感じましたね。みんな思い思いに楽しんでくれていたし、静かな曲でもじっくり聴き込んでくれたし、新しいお客さんも多かったんですよ。ソロのライブなのにみんな盛り上がってくれたし、やっぱりアコースティック・ギターだけじゃなくてレスポールやセミアコを使って良かったですね。