目標に向けて合理的に進めていくことの重要性
大江:普段の生活では制約がたくさんありますよ(笑)。でも、ライブでは割と自由にやらせてもらっていますね。名古屋のライブを呼んでくれた方も、「何から何まで大江さんのやりたいようにやって下さい」と言ってくれたんですよ。そこまで言われると、逆に自分の中で制約を作っちゃいますよね。アーティストにとっては何でも自由にやれるのが一番なんだろうけど、肝心なのは目標が何なのかなんです。さっきも言ったように、一番の目標はお客さんに楽しんでもらうこと。そこへ向かうためにはいろんなことを合理的に進める必要があるわけです。それは音楽に限らずどんなビジネスでもそうだし、政治の世界でもそうだと思うんですけど、躍起になって人の上に立とうとしたり、私利私欲のためだけに突き進もうとするから失敗するんですよ。僕はビル・ゲイツやオバマ大統領、スティーブン・スピルバーグみたいな人たちを尊敬しているんですが、彼らはちゃんとマナーを守った上で自由な発想ができるし、何かの目標を定めたら合理的に物事を進めていくところに共通点があると思うんです。彼らの行動には凄く説得力があるし、説得するには短時間で人を納得させなくちゃいけない。要するにライブみたいなものですよね。ミュージック・ビジネスの世界でも、1時間以上の会議は必要ないと僕は思う。世界のトップ・エリートのCEOはとにかく話が早くて、何事も瞬時に決断するらしいんですよ。人間って、1日のうちに大小含めてたくさんの決断をしているじゃないですか。
──たとえば「昼食は何にするか」という小さな決断から、「社運を賭けたビジネス・プランの概算を決める」みたいな大きな決断に至るまで。
大江:そうですね。その決断する量は時代を経るに従って増えてきているから、納得の行く決断をするために自分なりのペースが重要になってくる。その辺のバランス感覚が難しいけれど、他人と争うことなく、明確な目標に向けて短時間で合理的に決断していくことの重要性を僕は力説したいんです。
──なるほど。そう言えば、ミシェル・オバマが主催したホワイトハウスでのブルース・コンサート(2012年2月)を大江さんがYouTubeのお勧め動画としてブログの中で紹介していましたが、オバマ大統領がB.B.キングを紹介する前にこんなことを話していましたよね。「音楽は全世界共通のものです。人はみな人生で、喜びと悲しみ、成功と失敗を経験します。ブルースにはそのすべてが唄われています」と。
大江:あれは素晴らしい映像でしたね。ブルースはずっと僕の心根にあるものだし、多感な青春期をブルースとともに過ごしてきたから、一生自分の中に在り続けるものですね。3コードでシンプルの極みみたいな音楽だけど、そこから派生した音楽がたくさんあるじゃないですか。モータウンやリズム&ブルース、チャック・ベリーみたいなロックンロールに至るまで、すべての起源はブルースなわけですから。テンプテーションズやスタイリスティックスなんかもそうですよね。
──ブルースをアップ・デートしてソリッドかつハイ・テンションなロックンロールを生み出したという点では、ルースターズもまた然りですよね。
大江:普通にやっていただけですよ。その筋の先駆者とか言われるとちょっと重いですね。それよりも今のルースターズを是非見て頂きたい。宮古島はちょっと離れた場所だったので来られない方がたくさんいらっしゃったと思うけど、今度は福岡ですから。まぁ、福岡だって遠いという方もいらっしゃるかもしれないけど、こっちは美味しいものがたくさんありますしね。魚は玄界灘で獲れる新鮮なものだし、肉は鹿児島牛や佐賀牛の上質なものだし。ライブが終わって歓楽街の中洲に繰り出すのも良し、呑んだ後にはシメのラーメンもあるし、ふくやの明太子もあるし。個人的には椒房庵のほうが好きですけどね(笑)。東京に出てきてルイードで初めてライブをやった時、お客さんが来ないものだから「明太子を出すから来て下さい」って関係者に募ったことがあるんですよ。僕はそれまで明太子を食べたことがなかったんですけど(笑)。
──ところで、新宿ロフトにはどんなイメージを持たれていますか。
大江:凄くやりやすい所ですよ。花田も前に「やっぱりここだね」って言っていたし。西新宿にあった頃のロフトでもよくお世話になっていたし、歌舞伎町に移ってからのロフトはフジロックの前、『THE GREATEST MUSIC』を出した後、“Z”(THE ROOSTERZ)の再結成の時と3回出ているし、4月にもソロ・ライブでまたお世話になるし、まさに切っても切れない…イヤな縁ですねぇ(笑)。
──ここまで来たら、この先もずっと腐れ縁を続けさせて頂きたいですね(笑)。では最後に、大江さんが今抱いている夢を聞かせて下さい。
大江:どんな形であれ、常にお客さんを楽しませること。それがやっぱり一番の夢ですね。それと、精神障害者のためのファウンデーションを作りたいです。まだ差別もあるし、障害基礎年金だけでは絶対に生活していけませんから。生活保護を受けることでいろんな制約も出てくるし、そうなると施設とかで働くしかないんですよ。何十年先になるか分からないけど、そういう困っている人たちに寄付ができるような団体を作りたい。あと、僕は割と置かれた環境に影響されやすいから、どれだけ良い環境を作れるかをいつも考えていますね。日本は資源が乏しいがゆえに加工貿易で経済成長を遂げてきましたけど、イギリスみたいにブルーカラー、ホワイトカラーといった階級社会が根強くあるわけじゃないし、アメリカみたいに独立した民主社会でもない。妙な中流意識だけがあって、潰しだけは効くわけです。階級社会と民主社会のどっちにも寄らず、何とか安定したいという気持ちだけが一人前にある。自分では何ひとつ責任を取らずに批判ばかりしていてね。日本にはそういう人たちがあまりに多すぎるんです。この狭い島国で、誰も彼もが争い合って天下を取ることに躍起になっているから歪んだ社会になるんですよ。政治でもそうじゃないですか。与党と野党が足を引っ張り合うように批判の応酬を繰り返すだけで、具体策が全然出てこない。明確な方針を打ち出して、「それに向けてみんな頑張ってくれないか?」と毅然とした姿勢で立ち向かうのが政治家の本来の在り方のはずだし、それはビジネスの世界でも同じだと思うんですよ。さっきも話したように、具体的な目標に向けて短期間のうちに合理的な順序をたどっていくことが大切なんです。以上です。本日の講演はこれぐらいにしたいと思います。ご静聴ありがとうございました(笑)。
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