バンドが今やれる究極の形になった作品
──そういうやり取りを含めて、6人のフルマック編成だからこそ今の良好なバンドの状態が保てているのを特典DVDからも感じますね。
K:今回に関してはまさしくそうで、曲作りの段階から6人で一緒にアルバムを作ることを前提としていたからね。その編成じゃないと理想とするサウンドにはならないと思ったし、実際にその通りだった。この先もっとシンプルにやろうとすることもあるだろうし、1人1人の良さをもっと引き出そうとすることもあるかもしれないけど、今回のアルバムは自分たちが今やれる究極の形にはなったと思う。
──今やれる究極の形をカリフォルニアで敢行する醍醐味もありましたよね。
K:「なんでそんなに大風呂敷を広げるんだ!?」っていうね(笑)。それは10年やってきたバンドにとって慰安旅行的な側面もあるし、次の10年があるなら、そこに向けて最良のスタートを切りたいと思うところもあってさ。ちょっとしたご褒美みたいな部分もあるね。最初はウチのキッチンで録ったところから始まって、ガレージで録って、ボロいスタジオで録って、ツアー先のホテルで打ち上げを待たせたまま録って(笑)。そんな変遷を経てカリフォルニアまで辿り着いたという意味でも究極の形なんだよ。この10年間で野音でのライヴとかエポックな出来事がいろいろとあったけど、今回のカリフォルニアでのレコーディングも間違いなくその中のひとつに入るよね。
──英詞で唄われる「グリース・ミー」(CALIFORNIA JAM VER.)が通常盤に収録されているのは、やはり結成10周年を意識してのことですか。
K:ファースト・アルバム(『BEAT THE MACKSHOW!』)の1曲目に入ってた曲だし、アメリカへ行ってもやっぱりやっておきたいなと思ってさ。「日本語でももちろん構わないけど、本音を言えば英語で聴いてみたい」とディレクターのエリック(・ゴーフェン)に言われて、彼と一緒に英語の歌詞を作ってみたんだよ。エリックは「ん? CAROL?」って言ってたけどね(笑)。
──サンセット・サウンドを薦めたのもエリックさんなんですよね?
K:うん。エリックとはもう14、5年の付き合いで、去年彼が日本に来た時も俺たちのラフォーレミュージアム原宿のライヴを見に来てくれてね。そのちょっと前に「アメリカでレコーディングしたいんだけど」ってエリックに言ったら、「それはサンセット・サウンドしかないね。あそこが一番マックショウには合うよ」って言われてさ。エリックも使ってたスタジオみたいでね。彼はああ見えてけっこう有名な人なんだよ。
──海外ではジミー・ペイジ&ロバート・プラントやエリック・クラプトン、クリスティーナ・アギレラ、日本では世良公則さんといった著名なミュージシャンとの共演歴があるヴァイオリニストなんですよね。
K:そうそう。世良さんとはよくライヴをやってるから、日本へ来ることも多いわけ。俺たちはサンセット・サウンドのスタジオ2という部屋を使ったんだけど、エリックによると後日同じ部屋でエアロスミスがレコーディングしたらしいよ。俺たちがランチをした同じ所でスティーヴン・タイラーが食事をしている写メが彼から届いたからね(笑)。
──ということは、スティーヴン・タイラーもバスケットボールに興じていたんですかね?(笑)[註:スタジオの外にはバスケットのゴールが設置されている]
K:やってたかもしれないね、ジョー・ペリーと一緒に(笑)。
──アルバム・タイトルに“ROCKA-ROLLA”という言葉を使わず、『GREASY!』と命名したのは、前2作の手法を汲み取りながらも新たな到達点に至ったというニュアンスを込めたかったからですか。
K:そんなところだね。流れは一緒で、ジャケットも“ROCKA-ROLLA”の2作と似てるんだけどさ。最初は続編っぽく『ROCKA-ROLLA ○○』とかにしようと考えてたんだけど、ウチのおふくろみたいに年輩の人はどれも同じアルバムだと勘違いするかもしれないと思って(笑)。まぁそれはともかくとして、“GREASY”っていうのはエリックが言った言葉なんだよ。何かの曲をエリックに聴かせて「どう?」って訊いたら、彼が「GREASY!」って答えたわけ。「どういう意味?」「高速道路で売ってるまずい焼きそばみたいな感じ。でも、みんな好きでしょ?」っていうやり取りがあってさ。向こうのスタッフにマックショウがどんなバンドかを説明する時に「ロックンロールで“GREASY”な感じ」ってエリックが言っていたので、それをタイトルとして頂くことにしたんだよね。
自分のやれることを最大限やるのが仕事
──なるほど。初回限定盤のジャケットなんですが、バイクボーイさんがスティックの代わりにお好み焼きのヘラ(起こし金)を握り締めているのがツボだったんですよね(笑)。
B:あれ、実際は何も持ってなかったんですよ。知らない間に持たされてたんです。「ポスター見た?」って周りの人に言われて初めて気づいたんですから(笑)。
──そのヘラ然り、初回限定盤のジャケットはコージーさんとトミーさんの出身地である広島への郷土愛に溢れた趣向になっていますね。3人の背後に佇むのはマツダの赤いコスモAP。マツダと言えば安芸郡府中町に本社を置く広島を代表する企業だし、“赤”の車体にナンバープレートが“8”と言えば、言わずと知れたミスター赤ヘルこと山本浩二選手(広島東洋カープ)を想起させます。そもそもこの赤いコスモAPは、山本選手が日本シリーズのMVPの副賞でもらった車だそうですね。
K:うん。子供の頃に“8”のナンバーの赤いコスモAPを見つけて、走って追いかけたもんだよ。それでもちゃんと車を停めてサインしてくれたんだから嬉しかったよね。ちなみに通常盤のほうはダッジ・コロネットにして、国産車とアメ車を対比させてみた。やっぱりね、アメリカに対して夢見てるところが俺は未だにあるんだよ。カリフォルニアへ行くことになって、アメリカが凄く好きな友達に「一緒に行くか?」って誘ってみたんだけど、考え込んだ挙げ句に「やっぱり行かない」って返事が来てね。「ここで自分の夢が叶っちゃったら、これからの人生をどう生きていけばいいのか分からない」って。その気持ちはよく分かるんだよね。「夢のカリフォルニア」って歌があるくらいでさ、憧れのカリフォルニアで音楽をやれることがどれだけ素晴らしいことか。スタジオの中でゴールド・ディスクやプラチナ・ディスクの山を見つけて、その写メを兄貴に送ったくらいの自慢だったからね(笑)。
──しかも、あのグリン・ジョンズ(イギリスの名エンジニア/プロデューサー)にも会うこともできて。
K:何かの打ち合わせでスタジオに立ち寄ったみたいなんだけど、俺は緊張しちゃって口が利けなかったね。ミッキーは凄くフレンドリーに接していて羨ましかったけど。トミーなんて「最初の挨拶は“Hello!”でいいんだっけ?」ってどぎまぎしてたしさ(笑)。
T:グリン・ジョンズの奥さんが俺に一生懸命話しかけてくれたんだけど、「すいません、英語分からないです」って言うしかなかった(笑)。
K:事前にYouTubeでマックショウの映像を見てくれたらしくて、トミーのパフォーマンスが凄くインパクトがあったみたいなことを言ってたね。ホントはグリン・ジョンズにエンジニアをお願いしたかったんだけど都合が合わなくて、会うなり「日程が合わなくてごめんね」って言われたよ。イギリス人だし、とても紳士な人だった。
──いつかグリン・ジョンズとタッグを組んだアルバムを聴いてみたいですね。
K:是非やりたいね。そのために予算を立てなくちゃという健全な意識が芽生えるし、CDをしっかり売りたいという気持ちにもなる。ただ、今の日本の音楽業界はあまりにも志の低いCDばかりを乱発して、スピリットがまるで感じられないものばかりだよね。どれもこれも似たようなCDばかり作って金太郎飴みたいだし、それじゃCDが売れなくなるわけだよ。昔は良かったなんて言うつもりは微塵もないけど、俺たちが10代の頃のレコードにはちょっと背伸びしてでも買いたくなるような何かがあった。作る側も聴く側も今とは比べものにならないくらいの情熱があったし、ピュアな憧れを抱かせてくれる魂のこもった作品が多かったんだよね。たとえばジョージ・ハリスンの『ALL THINGS MUST PASS』。箱に入った3枚組のLPだし、箱を開けるのが畏れ多いみたいなところがあったじゃない? 「俺みたいなのが聴いていいのかな? 俺にも良さが分かるのかな?」っていうハードルの高さがあってさ。ビートルズの中でずっと虐げられてきて、曲を書いても全然陽の目を浴びてこなかったジョージがその才能を一気に爆発させたアルバムなんだっていう語れるところもたくさんあったしね。
──そうやって聴き手の過剰な思いを投影できる作品が確かに少なくなってきているのかもしれませんね。
K:今はそういう聴き方をみんなに求めるのが難しい時代だけどね。でも、CDを作って売る生業をしている以上、俺はその作品に対して責任を持つ以外に方法がないんだよ。盤よりもクジやオマケを重視するようなCDをさばくようなことはしたくないし、そんなことをするくらいなら、別にCDにこだわって商売をしなくてもいいんじゃないのかなと思うよね。まぁ、みんなが純然たるCDを作らなくなっても俺はずっと作り続けるつもりだし、1枚のCDの中で自分のやれることを最大限やるのが俺の仕事だと思ってるから。