ミュージシャン自身が奏でる音がすべて
──ドラムテックの方が「バスドラムが鳴りすぎるならこいつを使えばいい」と丸めたタオルを入れてミュートするのをバイクボーイさんに薦めていましたけど、そういう現地のスタッフからのアドバイスはけっこうあったんですか。
T:バイクボーイが言われていたのは凄く基本的なことなんだけど、向こうのスタッフは優しいからそういうことも丁寧に教えてくれるんだよね。
K:そんなこと今さら言われなくても…って感じだけどね(笑)。ただひとつ言えるのは、向こうのエンジニアはマイクの細かい位置を全然気にしないってこと。日本でやるレコーディングはギターのアンプとかのマイクの位置を何度も細かく変えるものだし、確かにそれで音が格段に変わったりするからね。
B:その辺、向こうは大雑把でしたよ。ドラムはマイクが上からぶら下がってるだけで、「タムは思いっきり引っぱたいてくれ」って言われたんです。それで今までこんなに強く叩いたことはないってくらい強く叩いたんですけど、「バイクボーイ、もっと強くね!」って言われましたからね(笑)。
K:「フレーズの中でタムが小さい」ってね。
B:あと、「この曲はバラードだからタムは強くね!」とか。
T:要はバランスを取れってことなんだろうね。
K:もちろんバックアップ用にプロ・ツールスも横で回ってたし、その画面もあるんだけど、エンジニアはそれを全く見てなかったからね。アシスタントがちゃんとマイクを立てているかなんて後回しで、出ている音ですべてを判断する。
──床にもマイクがいくつか設置されていたそうですね。
K:地面の空気の揺れを録りたかったんだろうね。それか、天井が高いから床の辺りで反響する音が意外と良かったのかもしれない。でも、そのお陰で歩いてる音まで全部入ってたからね(笑)。日本みたいにドラムも仕切られていなかったし、それどころかドラムの両脇にギター・アンプが積まれていたくらいだったしさ。リスナーは音の完成型を聴くわけだけど、ミックスを手がける自分としてはその過程でマルチを聴ける楽しみがあるんだよ。部屋鳴りを録ったアンビエンス・マイクを聴いても、全部ベースの音だったりしてさ。それをどうやってEQ(イコライザー)で補正するんだ!? っていう(笑)。
──エンジニアのスティーヴン・ローズさんのコメントを聞くと、マックショウが『HERE COMES THE ROCKA-ROLLA 〜情熱のロカ・ローラ〜』から始めた千本ノック級レコーディングが間違っていなかったんだと思えて嬉しくなりますよね。「レコーディングにおけるトリックや録音テクニック、便利な道具もたくさんあるけど、このレコーディングにそんなものは一切通用しない。すべてはあの部屋で起こっている。ミュージシャン自身が奏でる音がすべてさ」という。
K:ギターとベースのアンプもスティーヴンが貸してくれたんだけど、凄く喜んでたよ。「これが本来の音なんだ! 長く持ってるけど、こんなエキサイティングな音は出たことがない!」ってね。彼らも凄く楽しみながら作業をしていたんじゃないかな。
──“ROCKA-ROLLA”2部作とも違った本作の音の鳴りとは、結局のところどんなところに起因していると思いますか。
K:自分たちの気持ちが昂揚していたのもあるけど、やっぱりあの場の空気感が大きいんだろうね。あらゆる音が良く鳴るように工夫された部屋だったし、ヒューマンな良さを感じさせる空間だったからさ。
T:不思議なことに、ああいう場所にいるとミラクルが起こるんだよね。「ここなら絶対にいい音で録れる、間違いない!」っていう気持ちになれる。実際に録った音を聴いてみたら「やっぱりいい音だ!」って感激したし、あとは気持ち的に上がっていく一方だったね。DVDのドキュメンタリーですら音がいいんだから凄いよ。
K:そうだね。究極のプロはああいう所で録るものなんだと知れただけでもいい経験になった。日本でのレコーディングは音を良くするためにいろいろと試行錯誤するけど、今回はその努力をしなくても済んだんだよ。その辺はスティーヴンたちに委ねられたし、そのぶん俺たちは演奏に集中できたのが良かった。
──“ROCKA-ROLLA”2部作の時と比べて、今回は割とリラックスしてレコーディングに臨めたのでは?
K:6人のフルマックで向こうに行けたことが大きいよね。これが3人だけだったら、けっこう心細かったかもしれない(笑)。
──今回はパーカッションのピロゥさんも含めたフルマック編成だったんですよね。
K:ピロゥさんはムードメーカーなんだよ。盛り上げ好きだし、運転も好きだしさ。生活においても、演奏においても、いいリズム感を出してくれる。
T:とにかく延々と喋り続けてるからね(笑)。
K:バイクボーイがいいタイコを叩くためには、ドンカマよりもピロゥさんがいてくれたほうがよっぽど効果がある(笑)。でも今回、バイクボーイのドラムがとにかく評判良くてさ。向こうのエンジニアも、持ち帰ったテープを聴かせたヤツも、みんな「バイクボーイのドラムが凄い!」って評価が高かった。俺はこいつのドラムを評価したことなんて一度もないんだけど(笑)。
B:チューニングまでやってくれたドラムテックのお陰ですね。お任せでドラムキットを組んでもらったんですけど、自分でもびっくりするくらいに鳴りが良くて。今まで叩いてきた中で間違いなく一番いい音ですね。
T:これからもずっとあそこで叩けよ(笑)。
K:日本だとバイクボーイの評価は常に15点だからな(笑)。
B:それがサンセット・サウンドなら感覚的には2万点なんですけどね。僕じゃなく、ドラムセットが(笑)。