Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビューキン・シオタニ(Rooftop2012年6月号)

“旅”するイラストレーター

2012.05.28

職業:旅人kinsio_tabi.jpg

──ゼロから1にするために模索していた「無気力爆発時代」を経て、今は1を10や100にするっていう過程に達してると思うんですけど、それに対してはどのように取り組んでます?

キン 基本的にぼくは今日まで、自分から知らないのに「これやらしてください」っていう営業を一回もしたことないんだよね。お願いされたらここぞとばかりにどんどん行く。逆に言うと頼まれてなんぼな仕事をしてる訳だから、頼まれるように持っていきたいし、頼まれた仕事は断らないよ。あとは、安請け合いをして期待以上に返したいっていう目標はある。自分のイメージが湧かなくても、例えば『描き語り』なんてめちゃめちゃそうだったけど、もともと井の頭公園で1人とか2人を相手に“描き語り”をしてた訳でしょ。100円売るのに30分とか喋ってたわけ。
 で、そこから『描き語り』に行くにはいくつか段階があるんだけど、まず(劇団)第14帝國の楠本柊生帝國元帥っていう友達と急にユニットを組むことになって、新宿ロフトの死ね死ね団企画に2回出たのが大きかった。で、今から4年くらい前に、ドローイングシアターっていう、ぼくが机の上で絵を描くのをカメラを通して中継するっていう手法を、思いついたわけ。それで青山 月見ル君想フっていうライブハウスでバンドとバンドの転換のときに15分ずつくらいパフォーマンスをしてたら、すごくいろんな方面から好評を獲て、いくつかのバンドから「ぼくらのバンドの前にもそのパフォーマンスをやってくれませんか」って言われるようになって、このパフォーマンスはぼくにとっても結構得意だなと。もともと井の頭公園でお客さんの空気を読んで笑わせたりするのも好きだったし絵を描くのも早いっていうのが、使えるなと。で、途中から文字を絵に発展させるっていう技も思いついて、井の頭公園でやったらみんなからワーッってなったから、いろんな人にも見せたのね。そうしたら、これをもっとパフォーマンスとしてしっかりやった方が良いよって言ってくれた人が2人いて。それが、ラーメンズの片桐(仁)さんとが〜まるちょばのケッチ!だった。
 そんなときに、ロフトプラスワンで(楠本)元帥のイベントに出たのがきっかけで前川さん(ロフトの『描き語り』担当)に声をかけられて『描き語り』に繋がったんだけど、最初は1人で1時間も1時間半もできるとは思ってなかったんだよね。前から落語家の立川志の吉くんと一緒にやっていた『キンシノ』っていうイベントがあるんだけど、それも志の吉くんの落語ありきでやってたし。だから『描き語り』で独りでやるっていうのは、本当にイメージが見えなかったし自信なかったんだけど、やろうって言ってくれてるんだったらこれはチャンスだと。
 こういうのって、演劇やってる人とか芸人さんとかは全く逆だよね。完全にイメージができないとやらないでしょ。でもそもそもぼくは、すごく旅をしてたわけ。例えば北海道に一ヶ月行ってみようと思ったけど、大丈夫かな? 危険じゃないかな? じゃあとりあえず仙台に行ってみよう、って感じで始まって、一ヶ月旅をして気が付いたら北海道に行かずに島根にいた、なんてこともあったんだけど(笑)。行き当たりばったりの旅っていうのは、とりあえずその辺まで行ってみようってところから始まるわけ。ヒッチハイクなんて特にそう。中学生くらいからそういう旅をずっとしてたのね。絵を描いたときもそうで、とりあえず描いてみようと思って、出来上がったら自分が思っていたのと全然違うことになってた。それはライブも一緒だよ。とりあえずやってみて、そのうえでどんなことになるか。だからぼくはいつからか敢えて100点満点をイメージしなくなって、とりあえず50点くらいしか用意しなくなった。そうするとね、絵でも旅でもライブでも何でもそうだけど、本番で100点を超えることが出てくるんだよね。あ、今日120点いった、みたいな。それがぼくには何物にも代え難い充実感で。もし100点満点を目指して稽古してたら100点超えないなって。でも敢えて50点しか用意しないで臨むと、120点のときもあるけど60点のときもあるのね。そういう手探りをしながらやっている。120点いくのは良いけど、ダメでも60点じゃなくて80点くらいにしたいっていうのが今のテーマかもしれないね。『描き語り』も最初は60点くらいだったけど、10回とかやるようになって100点を超えることがボンボンあるようになって、またグダグダな手探りなことをしたいなと思って最近別なライブハウスから頼まれて本当にグダグダなライブをやったんだけど(笑)。1時間半で頼まれたのに1時間で終わっちゃって、残り30分で「何か訊きたいことある?」とか「今から10分くらいみんなで写真撮ろう!」とかね(笑)。

──そういう行き当たりばったりな感じがキンさんの魅力なんですよ。

キン 旅っぽいよね。アーティストとかそういうこと以前に旅があると思う。かと言って職業欄に「旅人」とは書けないんだよ(笑)。かっこつけ過ぎでしょ、それじゃあ。

すべては8:2kinsio_tensi.jpg

──てことは今後のビジョンも特にない?

キン そうだね、特にないかな。簡単にいうと、楽しいことをしたいっていうのがとにかく一番なんだよね。で、二番目が、楽なことをしたい。「楽しい」と「楽」って違う意味なのに同じ漢字になってるのが自分の中ですごい不思議なんだけど。あと、楽じゃないけど楽しいことってあるじゃん。大変だけど楽しいっていう。それもやり甲斐があったらやるかな。あとは自分の絵なり自分が、こんなところに!? っていうところに出たいっていうのがあるのね。それは例えば吉祥寺だったらブックス ルーエだし、厚木にある花屋さんのラッピングの絵もぼくだし、阿佐ヶ谷のヴィレッジヴァンガード ダイナーの看板もぼくだし。っていうような、こんなところにもぼくの絵がっていう。それがどこにでもあったら気持ち悪いんだけどね。でも、自分の絵をいろんな人に観てもらいたいっていう願望はやっぱあるから、それはこれからも続けるんじゃないかな。

──3年ほど前からキンさんのイラストではなく、キンさん自身が前面に出たテレビ番組『キンシオ』(TVK)が始まりました。それによって何か変わったことは?

キン 一番違ったのは、ただ街歩いてるだけで声かけられるようになったことかな。でもね、何事も8:2だと思うよ。8は楽しいことで、2はそれ以外。例えばぼくがヨドバシカメラでマッサージチェアを30分くらい試してたときに、通りすがりの人から「いつも観てます!」「……あ、どうも」みたいな恥ずかしい思いもしたし、あとはなんか、普通に鼻くそとかほじってるときに声かけられることだってある訳じゃん。でもそれは「2」で、あとは楽しいことのほうが多い。おまけに、それによって表現手段が変わるわけじゃないし、なによりラッキーなのは、ぼくの描く絵が、みんなが好きになってくれるタイプの絵で良かったなっていうことかな。
 最初にした詩人の話じゃないけど、みんなに理解されるようじゃダメだよっていうのもすごい分かるわけよ。ぼくは昔からたくさん音楽を聴いているんだけど、特に好きだったイギリスのインディーズのバンドなんかは、トップ40に入るような音楽ではまったくないんだけど成功してるわけじゃん。そういうのにずっと憧れがあったから、どメジャーだとちょっと恥ずかしい、みたいなのがあったんだよね。かと言って、どマニアックだとだめなわけで。だからぼくが描く絵がこういうタイプの絵で良かったしラッキーだったなって。とくに媚びてるわけじゃなくて、自然にそうなったわけだから。
 0.1だったころと比べて今が10になってるとしても、そのために何かをしてる訳じゃなくて、0.1から10になる間も楽しかったし、今も楽しいし、やってるだけ反応がくるっていう今の状態ももちろん嬉しいことだけど、結局は何も変わってないのかな。敢えて言えばマッサージチェアに座りにくくなったのと、街頭でやってる試飲とかのアンケートに答えにくくなったことくらい(笑)。井の頭公園で「こないだこんなことがあってさ」とか「こんな写真撮ったんだよ」って話していたのと全く変わらない。あとはこれから、知らない人たちをもっと知っていきたいっていうのはあるかな。いろんなところでいろんなことをしたいし、いろんな人に会いたいし、いろんな世界を知りたい。それはこれからもやっていきたいし、そういうのがどんどん広がっていけば良いなって思うよ。

 

『キンシオ』公式サイト
tvk(毎週月曜23:00〜)ほか全国ネットで放送中
http://www.tvk-yokohama.com/kin/

 

『描き語り』ヒストリー
@阿佐ヶ谷ロフトA

2009年
11月4日(月)

キン・シオタニpresents「空中ヒッチハイク」〜旅とアートとお喋りと〜
【ゲスト】山崎ナオコーラ

2010年
1月27日(水)

キン・シオタニpresents「空中ナイトサファリ」
【ゲスト】坂本頼光

3月22日(金)
キン・シオタニpresents「空中森林浴」
【ゲスト】岩崎慧(セカイイチ)

6月15日(火)
キン・シオタニpresents「描き語りFOUR」
【ゲスト】工藤裕之(写真家)
※この回から「描き語り」というタイトルに。由来は「弾き語り」。

2011年
1月20日(木)

キン・シオタニpresents「描き語り5」
【ゲスト】中尾諭介

6月1日(水)
キン・シオタニpresents「描き語り6」
【ゲスト】コミックカット

8月1日(月)
キン・シオタニpresents「描き語り7」
【ゲスト】坂本頼光

11月2日(水)
キン・シオタニpresents「描き語り8」
【ゲスト】寒空はだか

2012年
3月2日(金)

キン・シオタニpresents「描き語り9」
【ゲスト】最鋭輝

 

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LIVE INFOライブ情報

『描き語り』10回記念2デイズ!

6/28(木)
キン・シオタニpresents
「描き語り10〜音楽の夜〜」
【出演】キン・シオタニ
【ゲスト】中尾諭介
会場:阿佐ヶ谷ロフトA
OPEN 18:30 / START 19:30

6/29(金)
キン・シオタニpresents
「描き語り10〜笑いの夜〜」
【出演】キン・シオタニ
【ゲスト】THE GEESE尾関高文
会場:阿佐ヶ谷ロフトA
OPEN 18:30 / START 19:30

※両日共に前売ソールドアウト。当日未定。

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