絶対にヘタなものは作れないと思ったブッチャーズのPV
──『魔女の卵』は札幌の雑貨屋「魔女卵(まじょらん)」が舞台で店主の鎌田理絵さんが出演しているし、『カスタネットちゃんの眠れない夜』も同じく札幌の雑貨屋「カスタネット」の人気キャラクターが主役だし、小磯さんと身近な人脈から作品として実を結んだケースが多いですね。
小磯:そういうのはこれからも続けていきたいんですよ。私の周りにはまだまだ面白い人たちがいっぱいいるから。本物の役者ではなく、役者じゃない人を使いたいんですよね。役者じゃない人が醸し出す何とも言えない味わい深さがあるので。
──味わい深さと言えば、『カスタネットちゃんの眠れない夜』に出てくる怪物も不気味さとユーモラスがない交ぜになったキャラクターで、いわく言いがたい魅力がありますよね。
小磯:『カスタネットちゃんの眠れない夜』はナスちゃん(ナスジュンコ/「カスタネット」店主)にDVDに入れるのを断られると思っていたんですよ。何せ「駒撮りは魔法である」なんて物騒なキャッチコピーが付いたDVDだから(笑)。そもそも『カスタネットちゃんの眠れない夜』はカスタネットのオープン14周年記念に作ったもので、最初は「『ocean』と『curve』を上映したい」とナスちゃんが言ってきてくれたんですよ。それが嬉しくて、たまたま時間もあったから、お祝いに短編を作ってプレゼントしたんです。だから本来はナスちゃんにあげたものなんだけど、今回こうして使わせてもらって良かった。
──『ocean』は今見てもやはり心が打ち震えるし、ReguReguの手掛けた作品の中でも傑出した出来ですね。2人の兄弟が小さな船で大海原を往く物語で、兄弟が巨大な黒いタコと格闘するシーンは何度見ても圧巻です。
小磯:ブッチャーズの曲だからこそヘタなものは絶対に作れないと思ったんです。『ocean』は特に弟の演技が信じられないほど素晴らしい。今も家にあの兄弟の人形を飾っているんだけど、不思議なことにPVを作った頃と顔が全く違うんですよ。自分たちで作ったのにさっぱり理由が判らないんだけど。
──「あのPVがあることで『ocean』の世界観も広がった」と吉村さんも言っていましたね。
小磯:ああ、そうだったらとても嬉しい。
──小磯さんも出演していたブッチャーズのドキュメンタリー映画『kocorono』でも、ReguReguが作った黒いタコの巨大風船が場内を舞う『ocean』のライヴ・シーン(ライジング・サン・ロックフェスティバル)がハイライトになっていましたよね。
小磯:あれも凄く嬉しかったですね。ヨウちゃんに「何かやってよ」って言われて、本番前に2メートルくらいのタコの風船を膨らませて飛ばすことにしたんです。でも、自転車の空気入れじゃ全然膨らまなくてね(笑)。そしたらエガちゃん(江河達也/ディスチャーミング・マン、デザート)がゴムボートを膨らませる機具を貸してくれて、それで何とか膨らんだんですよ。パーン!とタコが飛んだ時はホントに感動したし、凄く嬉しかった...。まぁ、1体は結びが弱くてすぐにバラバラになっちゃったんだけど(笑)。
──先ほど初期の作品は「カクカクにも程がある」と話していましたけど、『まりめろつうしん』の時計から現れる少年と少女の動きは驚くくらいに動きが滑らかじゃないですか?
小磯:それでも、ちゃんとした駒撮りアニメに比べれば恐ろしくカクカクしていますよ(笑)。でも、あまりに滑らかな動きの駒撮りはCGみたいで全然魅力を感じないんです。駒撮りはある程度カクカクしていなくちゃ面白くない。何と言うか、不思議な現象が起きた時って脳が認識できないから、目に映る景色が駒撮りのように見える気がするんですよ。スムーズな動きじゃなくて、時間の感覚が狂ったように見えると言うか。そういうところが好きなんですよね。
良質な酷い目に遭ったほうがいい
──夢か現か曖昧模糊な世界観もReguRegu作品の大きな特徴のひとつですよね。
小磯:どの作品にもやたらと夢が出てきますね。今回DVDに収録した作品もほとんどがそう。『むねのことり』のオチは、実際に私が夢で見たものなんですよ。ずっとオチが決まらなくて、カヨが私にオチを考えて欲しいと言うので何日も悩んでいたんだけど、夢で見たオチを採用することにしたんです。
──また随分とダークな夢を見ましたね(笑)。夢と現の狭間を自由に行き来する、歪ながらも美しい世界が描かれているのはReguReguのどの作品にも通底しているように思えます。
小磯:シュルレアリストですからね(笑)。だから『ゆめとあくま』というタイトルそのままなんですよ。こういう作品を生み出すに至ったのは、決して神様の力ではない。縁起の悪いものが映っているから、あくまの力なんだと思う。漢字の"悪魔"じゃなくて、ひらがなの"あくま"という感じ。『あくまとゆめ』でもなくて、やっぱり『ゆめとあくま』っていう感じ。
──あと、小磯さんの呪術的な思考と嗜好が作品に反映していることが多いように感じますね。
小磯:オカルトは好きなんだけど何ひとつ信じていなくて、だけど信じたいという気持ちがずっとある。私は『ムー』が大好きで何度も繰り返し読んでいるんだけど、書かれてあることを全然信じていないんです。でも、そういうのが凄く好きなんですね。そして、不可思議な現象が実際に起こればいいと思っている。それならもう自分で起こすしかないのかなと。人形の表情が変わるっていうのも自分では説明できないから、それもあくまの仕業なのかもしれない。
──シュルレアリストとして今後はどのような活動をしてきたいですか。
小磯:私たちの夢は長編映画を作ることなんです。アレハンドロ・ホドトフスキーの『エル・トポ』やジョン・ウォーターズの『ピンク・フラミンゴ』といったカルト・ムーヴィーの古典のように、ずっと見えてもらえる作品を1本でもいいから残したい。私たちが生きた証として。商業映画を何本も作って、監督として食べていこうなんて全然思わない。1本でいいから、「あのヘンな映画見た?」ってずっと語り継がれるような作品を作りたいし、そのためにはどうすればいいのかを考えています。短編だとちょっと弱いから、ある程度の長さの集大成的なものをいずれ作りたい。いずれって言っても、あまりのんびりしているといつ死んじゃうか分からないから呑気に構えていられないんだけど。
──その長編というのは、特に人形にこだわらず?
小磯:駒撮りと実写を合わせた感じで。人形の駒撮りで2時間の長編を作ろうとしたら何年も掛かってしまうし(笑)。
──でも、4年でこうしてDVDの発表まで漕ぎ着けたわけですから、かなり理想的なペースなのでは?
小磯:ただ、この2年間は凄くハードでしたよ。いつも何かしら作っている状況だったので。
──短編、長編に関わらず、ReguReguの作品を大きなスクリーンで見たいと個人的には思うんですけれど。
小磯:私も映画館が好きだから、そんな所で上映できたら嬉しいですね。それとさっきも話したけど、大人はもちろん子供にも見て欲しい。誤解を恐れずに言えば、傷つけてやりたい(笑)。目一杯傷ついたほうがいいし、どこかで酷い目に遭ったほうがいいと思うから。良質な酷い目って言うか、悪意じゃない酷い目。悪意のある酷い目はホントに傷になっちゃうけど、良質な酷い目は何かに変わっていくはずだから。傷つくことで人生が豊かになることもあるし、少しは負荷を掛けたほうがいいんですよ。