撮影は儀式、駒撮りは魔法
──初めてカヨさんとお会いした時、ReguReguの作る人形にそっくりだなと思ったんですよね。
小磯:よく言われるよね?
カヨ:不思議なもので...似せてるつもりはないんですけど。
小磯:やっぱり似るものなんでしょうね。黒いタコやうさぎ、シルクハットの紳士は私が作ったんですよ。
──魔物みたいなキャラクターは小磯さんの手によるものだと(笑)。それにしても、無表情なはずの人形が駒撮りで動き出した途端に表情豊かに喜怒哀楽を体現するのが何度見ても不思議ですね。
小磯:作っている私たちも不思議なんですよ。どうしてなのか全く分からない。顔は変えてないんだけど、どういうわけか表情がよく変わる。ただ、DVDのフライヤーにもあるように、「撮影は儀式、駒撮りは魔法」なんですよ。撮影はカヨのいないところで私1人でやっているんです。ホントに儀式を執り行うような感じで撮影している。部屋を暗くして、体を清めて...みたいな感じで。駒撮りって凄く大変で、同時に2つのものを動かすとわけが分からなくなってくるんですよ。人形1体につき1人が付くのが通常の駒撮りなんだけど、それをやると魔法が起こらないような気がして。だから撮影を手伝ってあげるよっていう人もいっぱいいるんだけど、全部自分1人でやることにしているんです。
──駒撮りは尋常ならざる労力と時間を費やすでしょうし、1日のうちに撮れる時間も限られていますよね。
小磯:今日は頑張って撮ったなと思っても3秒とか(笑)。でも、私の本業はReguReguだから、1日8時間撮るのを毎日続けていれば15分くらいの作品は1ヶ月くらいで出来ますよ。根詰めてやりますからね。
──当初から人形の素材には羊毛がいいとこだわっていたんですか。
カヨ:たまたまですね。
小磯:たまたまなんだけど、やっぱり有機物がいいなと思って。(フライヤーのうさぎの写真を指さしながら)このうさぎの人形には本物のうさぎの骨が入っているんですよ。こういう素材は映像を撮るために集めたわけじゃなくて、何年もかけて集めたものが自分の部屋にあって、それを人形作りに使っているんです。動物の骨とか義眼とか、わけの分からないものがいっぱい家にあったんですね。十蘭堂をやっている頃に「縁起の悪いものがあったら持ってきて」とお客さんに言っていて、何かイヤなものが家に溜まっていったんですよ。
──十蘭堂の店内にもシカの頭の剥製、人骨、耳のオブジェ、義眼等々、おどろおどろしいものがたくさんありましたけど(笑)。
小磯:バランスが崩れた時に悪いことって起こるもので、身の周りにあるもの全部が縁起の悪いものや呪われるようなものならバランスが取れるから、全然危険じゃないんですよ。『魔女の卵』で割れた卵の中から出てくるちっちゃいヘビは本物だしね。それも十蘭堂のお客さんでヘビを飼っていた人がいて、そのヘビが死んだというのでもらって、お酒に漬けていたんですよ。ホルマリン漬けやアルコール漬けも集めていて、私の宝物なんです。地震が起きたら一番最初に持っていくのはホルマリン漬けだと思う。もう二度と手に入らないものだから。
──物語のあらすじは2人で考えるものなんですか。
小磯:作品によって担当が変わるんですよ。カヨが監督をやる時もあるし、私が監督をやる時もある。
──純真でかわいらしい人形たちに気を取られていると、物語の結末がぎょっとするような展開になることがReguReguの作品には多いですよね。小気味良いブラックユーモアが散りばめられていると言うか。その志向性は2人とも似ているんでしょうね。
カヨ:似ているのかも...(笑)。
小磯:もう10年近く一緒にものを作っているし、同じ音楽を聴いて、同じ映像を見て、同じものを食べているから、似ている部分は相当似ていますね。あとやっぱり、十蘭堂での経験を共有しているのは大きいと思う。あの店は学校みたいな所で、私が校長なわけじゃなくて、私もカヨも生徒で、来てくれるお客さんやミュージシャンが先生だった。角煮(前田碧衣と尾崎由美の2人から成るバンド。2011年4月に解散)は十蘭堂の卒業生って感じがする。
イヤな感じを与えるものをあえて作りたい
──『むねのことり』は青年に恋をした少女の話ですけど、これも悲恋の果てにとんでもないオチが付くじゃないですか。少女の口から赤い小鳥が出てくるという発想も凄いですけど(笑)。
小磯:途中で何羽も出過ぎちゃったりね(笑)。確かに奇妙なオチかもしれないし、子供向きではないかもしれない。でも、子供にも見てもらいたい。私たちが子供の頃に読んだ童話もちょっとイヤな感じの終わり方だったりして、そこが絵本の好きなところだった。今はそういうイヤな感じを与えるものって少なくなってきているから、あえてそういったものを作りたいんですよ。私は子供の頃に読んでいた妖怪図鑑も集めているんだけど、今の妖怪図鑑は全然怖くないんですよね。昔の妖怪図鑑は本格的な資料画だからホントに気味が悪い。だから今の子供はかわいそう。
──ああ、確かに。今の特撮ヒーローの怪人もちっとも怖くないですしね。昔のウルトラマンや仮面ライダーに出てくる怪獣や怪人は本当に不気味でおっかなかったですから。
小磯:そうですよね。ウルトラマンやウルトラセブンは子供向けだからって全然手加減していなくて、本気でSFを作ろうとしていたからね。
──小磯さんの日記を読むと、羊毛の消費量が半端じゃないですよね。短期間で2キロも買ってみたりとか。
小磯:今は個展に向けて大きい作品ばかり作っているので。今まで小さい人形ばかり作っていた反動なのか、ホントにどれも大きい。個展なんてそんなにしょっちゅうやれることじゃないから、もの凄く気合いが入っているんです。今まで持っていた剥製を全部壊して、それらを合体させた人形にしているんですよ。ホントにイヤな感じでいいんです(笑)。
──映像に特化することなく、そうしたオブジェとして完結する作品もあるということなんですね。
小磯:映像のいいところって、人形を作っても売らなくて済むことなんです。今回の個展も売ろうかなとか思ったんだけど、やっぱり売りたくなくて。売ると手加減しちゃいそうだったから。
──以前、ブッチャーズの『official bootleg vol.20』(2010年2月)でReguRegu展があって、そこで黒いタコを売っていたくらいですよね。
小磯:タコはいくらでも作れるんですよ。あの時は100匹くらい作ったのかな。いっときはタコを作って暮らしていこうかなと思ったくらいで(笑)。ホントに作れば売れるしね。でも、タコを作って生活するのもどうなのかなぁ...と思って(笑)。
──2人がたっぷりと愛情を注いで生み落とした子供たちだから、売るには忍びないですよね。
小磯:うん。だから映像だと売らないで済む。でも、そうなるとどんどんどんどん人形が増えていって、人形に囲まれた中で生活をすることになる。まぁ、それもいいなと思っているんだけど。
──『魔女の卵』や『まりめろつうしん』のように実写とアニメを融合させた作品もありますね。
小磯:特にフル・アニメにこだわっているわけでもないんですよ。私たちはヤン・シュヴァンクマイエル(チェコスロバキア・プラハ生まれのアニメーション作家・映画監督)に影響を受けているところが凄くあって、「自分はアニメーターではなくシュルレアリストだ」と彼は語っているんです。とても畏れ多いけど、私たちにもそういう気持ちがある。だからアニメーターではないし、人形ばかり作っているわけでもないし、あえて言うなら私たちReguReguはシュルレアリストなんです。自分たちで言うのはちょっと照れくさいですけどね。