ワタナベマモルは言行一致のロックンローラーである。有史以来脈々と受け継ぐロックンロールのDNAを身に宿し、ダルでルーズでいてソリッドで真に迫るギターを掻き鳴らす。そして"くだらないレッテルをはがそう""つまらない常識を変えよう"と老若男女問わず平易な日本語を心地好いメロディに乗せて唄う。小難しいことは何一つ唄わない。ありふれた日常を蹴飛ばすようにありふれた言葉で今の気分をありのまま唄い上げる。
"MAMORU & The DAViES"名義の音源としては新録ベスト・アルバム以来2年振りとなる『MEXiCO MONK〈メキシコ・モンク〉』でも、彼の気負わず背負わず柳に風とばかりの飾らぬ佇まいは変わらない。そこに在るのは、何も足さない、何も引かない、純真な男が奏でる純度120%の純正ロックンロール。時には"バクダンよりオレにはたくあん"という思わず脱力してしまうようなフレーズが織り込まれたりとユーモアも忘れないし、時にはぶっきらぼうな男が照れくさそうに囁く愛の言葉や無垢な少年時代の追憶が綴られるなどロマンティシズムにも溢れている。
ロックンロールしかできない、ロックンロールしかやりたくない男が唄うロックンロールは一切のブレがないから分厚い鉄のような世の中の欺瞞も虚偽も偏見も容赦なくデタラメに射抜く。さぁ、ゴキゲンなヘイル!ヘイル!ロックンロールを聴いてつまらない常識を変えよう。(interview:椎名宗之)
いつも物事に理由なんてない
──ここ数年はDAViES名義だったりソロだったり、コンスタントに作品を発表する好調なペースが続いていますね。
ワタナベマモル(以下、M):一年に一枚アルバムを作るのが一番の目標ですからね。そういうふうに設定すると、決まった時期までに曲を作らなくちゃいけないじゃないですか。そうするとね、ちゃんとできちゃうんですよ。期限がないと多分ずっとできない。ただ、ぼちぼち曲のストックもなくなってきたから、次のアルバムを作る時は早い段階から曲作りに入らないと年一は大変かもしれない。
──今回、DAViESとしてアルバム作りをしたのは、去年ソロ名義で『SESSiONS〈セッションズ〉』を発表したことの揺り戻しからですか。
M:いや、去年ソロで出したのも別に大した理由はないんですよ。いつも物事に理由なんてないから、“このアルバムはひとりでやろう”とか“今年はバンドでやろう”とかいうのはない。今回はたまたまバンドでやるような曲がいっぱい残ってたぞ、っていうだけで。
──バンド向きの曲とソロ向きの曲という区分けはあるものなんですか。
M:特に意識してるわけじゃないけど、明らかにバンドではやりにくい曲はありますよね。『SESSiONS〈セッションズ〉』には何曲かそういうのがあった。僕はひとりで弾き語りのツアーもやってるから、“これは弾き語りでやったほうがいいな”って曲がある一方で“これはいくら何でも弾き語りじゃムリだろ”って曲もある。両方行ける曲もあるんですけどね。まぁ要するに、弾き語り向きの曲が増えたらソロで一枚作ろうかな、っていう程度の話ですよ。基本的に何も考えてないんで(笑)。
──今回のレコーディングはほぼ一発録りに近い形だったんですか。
M:そんなこともないです。いろいろと試行錯誤しましたよ。
──バンドならではの掛け声やコーラスが随所に散りばめられていて、『ハードレイン』にせよ『ロマンス』にせよ『星空ブレイクダウン』にせよ、どの曲にも流麗なコーラス・ワークが組み入れられているのが本作の大きな特徴のひとつなのかなと思いまして。
M:うん、そこは結構頑張りました。コーラスを頑張ろうっていうのが今回のアルバムを作る上で大きな目標で、そこをどこまでできるかが課題だったんですよね。実際、コーラスが一番時間が掛かって、途中でイヤになりました(笑)。3人で一緒にコーラスをやると、誰かひとりがズレてたりとかしてね。でもそこはしっかりやるつもりだったから、夜中にみんなで集まって5、6時間連続でやったりもしました。
──コーラス以外にも課題点はあったんですか。
M:うーん、他は特に。いつもと同じですね。コーラスだけは頑張ろうと思いましたけど。
──音の重ねが過不足なく、とても丹念だなと思ったんですよ。たとえばアコースティック・ギターを基調とした『野球場へ行こう』は緻密にエレキ・ギターが重ねてあったりして。
M:まぁ、曲によってはね。それもダビングしていく時の思い付きなんですけど。
──その辺は後からマモルさんがプライヴェート・スタジオで適宜に音を付けていくんですか。
M:うん。最初は入ってたリズム・ギターを捨てて、上手く弾けるわけじゃないけど僕が弾いたピアノをメインにした曲とかもあるんですよ。そっちのほうが良かったんで。
──ビートルズの『Strawberry Fields Forever』のイントロっぽいフレーズが頭に入っている『少年ロック』ですね。
M:そうそう。あれは最初エレキでコードを弾いてあったんだけど、どうなるか判らないけどやってみようと思って。僕のヘタな演奏も、MIDI録音なら生っぽい音で上手に演奏してるように直せるんですよ(笑)。ああいう『Strawberry Fields〜』っぽいメロトロンのソフトがあるんですよね。
──エレキ・ギターからメロトロンになったというのは、曲自体劇的な変化ですよね。
M:ちょっと面白かったです。最初の『少年ロック』はギターがメインだったから、他の曲とトーンが割と似てたんですよ。そのギターを抜いてワウのギターだけにしちゃったら面白いことになった。
──この『少年ロック』だけサイケな味付けになっていますしね。
M:そうなんです。そういうふうにしたかったんだけど、何せピアノで曲を作らないですから。最初はどうしてもギターが入ってるからサイケのイメージとは程遠かったんですよね。だから、ピアノをメインにしてみるのもいいなと思って。ライヴじゃできないけどね、誰もピアノを弾けないから(笑)。
──『少年ロック』は少年時代に出会った魔法のレコードに胸をときめかせながら不安と夢を抱いて旅立っていくという歌詞がとてもロマンティックで、あの幻想的な音色にぴったりですよね。
M:そうすかね(笑)。
──ちょっとストーンズの『She's A Rainbow』っぽいニュアンスもあって。
M:うんうん、確かに。