この4人でできることがとりあえずこれ
──リハーサルはかなり長い時間を取らないと練習にならなさそうですね(笑)。
宍戸:同じ所を何度も繰り返して、全然先に進まないことが多いんですよ。延々同じことばかりやってるんです。
──メンバー揃ってドMなんでしょうか?(笑)
山際:いや、基本はドSなんだと思いますよ。その場によって使い分けてる感じですね。
──割礼サウンドの構築って、修練を積む行為に近いものを感じますけど。
宍戸:そういう要素が一番ないバンドかもしれませんね。
山際:テンポが遅いぶん、いつもスピード感に気を掛けてはいますけどね。
──リハーサルのセッションから曲が生まれることはないんですか。
宍戸:作詞・作曲は全部僕がやっていて、作ってきたのをスタジオで合わせる感じですね。
──『INスト』はセッションから派生した曲なのかな? と思ったりしたんですが。
宍戸:最初はインストだったんですけど、歌を乗せることにしたんですよ。エレベーターに閉じ込められた時みたいな感じの曲を書こうと思ったんですよね。
──宍戸さん以外のメンバーが曲を作ることはないんですか。
宍戸:昔、山ちゃんが持ってきたけど、メロディ的に唄えなかったんですよ。僕がメロディを覚えられなかったんです。
山際:ギターのリフで共作したことはありましたけど、それくらいですね。ヴォーカルは自分のメロディじゃないと唄えないと思いますよ。
──『マリブ』は文字通りカリフォルニアの都市をイメージして作ったんですか。
宍戸:いや、武蔵関にあるホテルの名前なんですよ。それを取ったっていうだけで、そのホテルに思い入れがあるわけでも何でもないです。
──『革命』は大仰なタイトルの割に穏やかな表情のナンバーですね。
宍戸:確かに、言葉の解釈が間違ってますよね(笑)。
──ちょっと大きなことを言ってみたかったとか?(笑)
宍戸:何だろう? 自分でもよく判りません(笑)。
鎌田:最初の頃と歌詞が変わっていったじゃない?
宍戸:そうだ、変わったよね。何と言うか、螺旋があればいいかなっていう。それがあればいいと思った曲なんですよ。
──割礼の音楽は聴き手の感受性を覚醒させると思うし、その意味では個々人の脳内で"革命"が起こっていると言えなくもないですよね。
宍戸:聴き手の意識を変えさせるみたいなことは全然考えてないんですよ。この4人でできることはとりあえずこれだ、っていう感じでやってますね。僕が曲を持ってきて、4人がアレンジしたらこんな曲が出来たっていう。音楽的な意味では、特にこうしようとか目的を持ってはやってないかもしれません。
──タイトル・トラックの『星を見る』は、展開するに従ってノイジーなギターが幻想性を加速させていく構成も見事な曲ですね。
宍戸:『星を見る』も古い曲で、'90年代に入ってから書いた曲なんですよ。
──そういうタイム感も割礼らしいですね(笑)。と言うことは、今回のアルバムに真っ新な新曲は少ないんですか。
宍戸:このアルバム用に書き下ろした曲はないんですよ。...あ、そうでもないのか。アルバムを出す話は前から出てたから、『マリブ』と『INスト』は入るといいなとは思ってたのかな。『ルシアル』も割と古くて、『星を見る』はそれと一緒の時期に出来ました。その次に『革命』が出来て、『INスト』と『マリブ』が出来たんですよ。『INスト』と『マリブ』はここ3、4年の間の曲ですね。
──普段から貪欲に新曲を作る感じでもないんですか。
宍戸:新曲は出来てないですね。作る気がないわけじゃないんですけど。
──創作のペースまでスローコアであると(笑)。
宍戸:創作の意欲がここのところずっと湧いてこないんですよ、悲しいことに。
山際:昔からそれほどなかったんじゃない? ガツガツはしてないでしょ。
宍戸:してないね。ずっと作ろう作ろうと思って、ひとつの場所に座ってるんだけどね。
──新曲を作るよりも演奏する楽しさのほうが勝っているとか?
宍戸:まぁ、何とかバンドをやれてるって感じなのかな。ライヴをやって、お酒を呑めるのが楽しいですね。それが正直なところかもしれない。基本的に優しく生きられればいいと思ってるので。
──曲を通じて伝えたいことも特にありませんか。
宍戸:特にないですけど、"愛"って言葉は多いと思います。でも、愛を訴えたいわけじゃない。言葉としての愛が何なのか、自分でもよく判らないですからね。
今は音楽的なことよりも人間関係が大事
──宍戸さんの描く歌詞は浮遊感のある抽象画のようですけど、いつもどんなことにインスパイアされて言葉を紡いでいくんですか。
宍戸:どうだろう...。ただ待ってるだけですかね。
──雨乞いのように、言葉が降りてくるのをただひたすら待つと?
宍戸:降りてくるなんて、そんな大層なものじゃないですよ。"何かこれかな?"っていう感じですね。書きたいことはあるけど、書ける言葉はいっぱいないし、その辺は無理のない感じで書いてますね。文法的にも間違ってるけど、国語力がないからそれを直すのも無理なんですよ。
──サウンドが雄弁だから、取り立てて難解な言葉を選ぶ必要もないと思いますけどね。『革命』の"何もかもが腐った"というフレーズも相当な破壊力があるじゃないですか(笑)。
宍戸:あれね。何で"腐った"なんでしょうね? その時に気に入ってたのかな。
山際:シンプルな言葉でいいと思うんですよ。一行あれば曲のイメージが広がるし、そのほうが刺激的ですからね。
──割礼のギター・フレーズは絵画的と言うか、映像喚起能力に長けていると思うんですよ。視覚的なインスパイアを受けてフレーズを考えるようなことはありますか。
宍戸:僕はないですね。手癖の延長もあるし、"何かいいな"って思ったフレーズを弾いてます。
山際:僕の場合は、自分の気持ちのいいところを見つける感じですね。
──おふたりの"気持ちのいいところ"は割と近いんですか。
山際:共通する部分は多いと思いますよ。
宍戸:そうだね。お互い、"ちょっとここは違うな"とか"これいいな"っていうのが一音一音ちゃんと見えてると思うし。
山際:敢えて言わなくても何となく理解し合ってるんですよね。同じところで落ち着く感じはいつもありますから。
宍戸:楽器を持って一緒にいる時間も長いしね。弾いてないけど持ってるだけの時間も込みで長いよね。ギターを持ってるだけで2週間一緒にいたこともあったし。
山際:さすがにそれはないでしょ(笑)。
宍戸:ほら、大昔にふたりで合宿したことがあったじゃない?
山際:ああ、行ったね、山中湖。
宍戸:あと、金沢とかさ。山ちゃんとは『ネイルフラン』からの付き合いだから、もう20年以上経つんだね。長いなぁ...。
──こうして話を伺っていると、リリースのターム然り、楽曲の成り立ち然り、皆さんの人柄や時間の感覚然り、音楽同様に茫洋としているのがよく判りました(笑)。
宍戸:リリースに関して言えば、僕にはこれが精一杯なんですよ(笑)。でも、これからはちょっと活発にやっていきたいですね。せっかくの機会ですから。
──僕は若いリスナーに今回の新作を是非聴いて欲しいですね。ちなみに、『PARADAISE・K』のリイシューに対する若いリスナーからの反応はありましたか。
宍戸:どうですかね。僕は基本的に人からどう見られているかは全然関心がないんですよ。でも、今回のアルバムも含めて、若い人にもそうじゃない人にも聴いて欲しいですね。
──キャリアの長いバンドだし、今の編成で過去のレパートリーを録り直したアルバムをビギナーズに向けて作るのはとても有意義なことじゃないかと思うんですが。
宍戸:それも考えてるんですよ。曲が長いから1枚の中にそんなに入らないかもしれないけど(笑)。
──『リボンの騎士(B song judge)』も20年以上前の曲なのにまるで古さを感じないし、割礼の曲は時空を超越したところがありますよね。
山際:曲自体がシンプルだからでしょうね。だから今のアレンジでもちゃんと成り立つんですよ。
宍戸:確かにシンプルだよね。まぁ、こんな感じでしかできないだけなんだけど(笑)。
──"こんな感じ"で充分なので、これからも1本でも多くライヴをやって頂きたいですね。これほどオリジナリティの塊みたいなバンドはそうはいないので。
宍戸:このメンバーで長くやりたいとは思ってますね。それが今の目標だし、それさえ達成できればOKなんですよ。この4人でやっていけばいいことが起こると思うし。
──これまでのメンバーと何が決定的に違うんですか。
山際:やりやすさが格段に違いますよね。あと、今は何でも言い合える仲っていうのが大きいのかもしれません。
鎌田:割礼は、音楽的なことよりも人間関係がベースにあるバンドですからね。
宍戸:そうなんだよね。そっちを重視していきたいかな、これからの目標としては。何事も無理のないように、波風立てずに行きたいですね(笑)。