Dirty Old Menが放つメジャー・デビュー・アルバム『Time Machine』。インディーズ時代に作られた5曲のニューレコーディングと、音楽を通じて多くの人に出会い、たくさんの刺激をもらったという経験を元に、音楽について書いたという『Time Machine Music』を始め、メジャーというフィールドに立つことによって感じられた、焦りや不安が言葉となって吐き出された『象る天秤』の新曲を含めた計7曲。『Time Machine』というタイトルのように、彼らのこれまでとこれからを感じられる作品となっているだろう。
今回は、ボーカル&ギターの高津戸伸幸に、バンドのこれまでのこと、今、そしてこれからについて語っていただいた。止めどなく溢れる言葉に、彼の意欲も溢れるほどにあることを感じる事ができた。(Rooftop:やまだともこ)
これまでのことも知ってもらいたかった
──ニューアルバム『Time Machine』がリリースが間近となりましたが、出来上がって手応えはいかがですか?
高津戸:自信があるというか、誇りというか、これがDirty Old Menですという作品になりました。メジャー第一弾になるんですが、今までインディーズ時代に積み上げてきたものもあるし、ポッと出のバンドじゃないっていうことも伝えたかったし、これまで支えてきてくれたお客さんやスタッフさんがいてくれたおかげで音楽を続けられているという気持ちもありますし、そういう方々の温かさというか、ぬくもりも一緒に伝えたかったんです。この作品をリリースして、新しく聴いてくれるお客さんも増えると思いますけど、その人にも僕らの歴史を知ってもらいたくて昔の曲を再録しましたし、新曲は僕らが進化して成長している過程での代表の2曲を詰め込んだので、現状のベストアルバムができたという実感はあります。
──5曲がインディーズ時代の曲のニューレコーディングとなりますが、これらを選ばれた基準はどんなところにあるんですか?
高津戸:ライブで常にやっていた曲や代表曲で、他にも入れたい曲はたくさんありますけど、スタッフや自分ら4人で話し合った曲が一致したので、すんなり決まりました。4曲目の『セオリス』は高校2年生の頃からやっていた曲で、どうしても録音したかったし、『桜川』も最初に曲ができた時からピアノを入れたいと思っていたので、やっと夢が叶いました。
──『桜川』はピアノのメロディーと曲の雰囲気がぴったり合いすぎていて、聴いていて感情が高まるというか泣けるんですよね。このアルバムで大名曲が生まれたという感じでした。2008年6月にリリースされた1st.アルバム『bud』に入っている曲ですが、どんな感じでこの曲が出来たか覚えてます?
高津戸:前は事務所が中目黒にあって、その建物の上から目黒川が見えたんです。歌詞にもしたんですけど、散った桜の花が川に敷き詰められている光景で、桜が芽生えるとか散るとかが僕には命の儚さや尊さに見えて、これを表現したいなって思い、この歌詞になったんです。歌詞は全体像が見えた時に、一気に書き上げました。
──映画とか、そういうものを見てイメージを沸かせたのかと思ったんですが、そういうこともあります?
高津戸:映画は大好きで、映画を見た後のどうしようもないモヤモヤした気持ちとかを曲にしたりします。あと、一人でいることや妄想が大好きで、常に妄想しているんです。そういうのは曲に繋がっているかもしれません。最近は風を操るという妄想をしていますが、これは作品にはならないと思います(苦笑)。
──なるほど。『桜川』と同じ『bud』に収録されているのが、3曲目の『moon wet with honey』になりますが、こちらは、アコースティックギターから始まる曲でしたが、アレンジはメンバー皆さんで考えられたんですか?
高津戸:そうです。この曲はメンバーでやりました。
──『Time Machine Music』は、プロデューサーに玉井健二さんを迎えていますが、一緒にやることによって勉強になったところとか影響を受けたところはどんなところですか?
高津戸:スタジオに入る時の意気込みも変わったし、前までは自分らだけでやっていたものがすごく広がったり、こうやってもいいんだって自由度も上がりましたし、すごく勉強になりましたね。歌録りでも引き出しをたくさん開けてくれて、一緒にやれて良かったなって思いました。
──Dirty Old Menがどこまでもやってもいいということを教えてもらった、と?
高津戸:今まではライブでできる最小限の音で録りたいって思っていたんですけど、そうやって勝手に固くなっていた頭を柔らかくしてもらった感じです。なんでもやっていいんだって。
──メンバーそれぞれ、特に教わったものはどんなことですか?
高津戸:自分は歌に関して、これまでは"か"とか"さ"とか言葉として発音しやすいもの、得意なものが来た時に感情を出していたものが、一番歌いづらい"溢れる"とかにアクセントを出そうとか、そういうところを教えてもらいました。言葉を大切にしなくちゃダメだってすごく思えました。言葉を大切に、言葉を出すことを考えようって。
──Dirty Old Menは、言葉を重視しているバンドでもありますからね。
高津戸:歌詞は大切にしていますね。自分の人生を詰め込んでいるようなものなので、大切にしたいです。
──玉井さんと一緒にやって以降、メンバー間で成長していると感じた部分ってありますか?
高津戸:他のメンバーも、頭が柔らかくなったのかなって思います。それと1曲に対して、良くしていこうという気持ちは高まりました。
──では玉井さんが参加されていない、昔の曲を再録するというところで、手こずった部分というのはあったんですか?
高津戸:再録の曲は1度レコーディングをしているので、すごく楽しくできました。とりあえず一度音あわせで録ってみようって、それが採用されたりもしていますし、『セオリス』は前に作った時から構成もフレーズも変わってなくて、歌もほぼ一発でした。ピッチの修正はほとんどしていなくて、成長できてる嬉しさがすごくありました。だから、手こずることはなかったです。
逃げられないし、負けられない
──先ほどからお話にあがっている1曲目の『Time Machine Music』と、2曲目の『象る天秤』の新曲ですが、対照的なアレンジでしたよね。『Time Machine Music』は、キャッチーなメロディーの中に繊細さを感じましたし、『象る天秤』は荒々しい表情を持っていましたし。
高津戸:出来た時期が離れているんです。『Time Machine Music』は昨年の9月ぐらいに出来て、10月ぐらいに録ったんです。『象る天秤』は12月ぐらいに出来て、今年の1月ぐらいレコーディング。この時期はけっこう激動でしたよ。その感じが『象る天秤』に滲み出ていると思います。激動感というか、答えが見えないもの、作っていて何が正解なのか、これが良い曲なのか悪いのかもわからず、これでみんなに認めてもらえるのかとか、2週間ぐらいで20曲とか作っていたんですけど、その時に作った曲って"わからないけどわかりたくなった"とか、"見たくないけど見てみたい"という感じがすごくあるんです。最終的には"光"が差し込むんですけど、『象る天秤』に関して言えば、当時の感情がそのまま言葉になっています。
──この時期に作品をリリースするというのが決まっていて、時間とかの焦りもあったりしたんですか?
高津戸:ここまでに何曲作るというノルマを決めてもらったのも初めてでしたから。周りのスタッフさんは俺なんかよりも絶対に忙しいから、絶対に間に合わせたいというのもあったし、親からの期待や不安も感じていたし、どうしても売れたいと思ったし、メジャーに行くと言ったからには逃げられないし、負けられないところに立つから不安やプレッシャーはすごく大きかったと思います。これまでに書いていた昔の曲とか、今回新しくレコーディングし直した曲とかも誇りだし、自分だし、自信のある作品です。でもやっぱりどこかにかっこつけたい部分もあったし、自分の気持ちがわからないように歌詞を書いていたという部分はありますね。
──昔の曲には、物語のような歌詞が多いですからね。
高津戸:でも、最近は自分の気持ちも出せるようになって、読み返してみても良い詞だと思えたので、今回はこれでいこう、と。今までは、説明しないと伝わらない曲だということは、自分では思いたくなかったけど思っていたところがあったり、自分にはわかるけど聴く人にはわかるかなっていうところもありました。それに、俺ってすごいだろ、こんなの書けるんだぞっていう気持ちもどこかにあったんですが、今はそれは本物じゃないなって思うようになったんです。単純に"愛してる"とか"大好きだよ"っていうのは、俺が歌っても軽く聞こえちゃうことはわかっていて、でも"ありがとう"とかをどこの誰が歌うよりも重みがあるような言葉に。今までの芯となるものはぶれないように成長できればと、今は素直に書いてます。
──自分から出るストレートな言葉で書いていこうということですか?
高津戸:ストレートな言葉というよりは、逃げないという気持ちの方が大きいかもしれないです。"ありがとう"というストレートな曲をストレートな言葉で歌って心に響くアーティストさんっていますけど、そういうストレートさは今までずっと避けていた部分だから俺にはまだできないんです。でも、今は近づきたいと思っているし、マネしたら自分は薄っぺらくなっちゃうから自分たちなりの言葉で伝えられるようにと考えています。
──自分たちなりの言葉で伝えたいという意識になったのは、どういうきっかけがあったんですか?
高津戸:初めての全国ツアー("Dirty Old Men Tour 2009 〜accelerate〜" / 2009年4月〜) を経て気持ちが変わった部分が大きいです。今までは好きで音楽をやっていたし、お金を払ってお客さんが来てくれているからこっちがありがとうなのに、ツアー先で泣きながら「ありがとう」って言ってくれる人がいたんです。その気持ちが嬉しくて、そこで気持ちが変わった感じがしました。ずっと音楽を続けたいし、逃げたくないし、今までのままでいいやではなくて、どんどん成長していきたいという気持ちになったんです。
──いろんな人に会えたから変わることができたということですか?
高津戸:変わるというか、変わったというか、もっともっとという気持ちになってきたんです。
──欲が出てきたとは違う?
高津戸:欲というよりは責任感。僕らの音楽を聴いて、もっと幸せになってくれる人が増えれば良いという気持ちと、僕らの音楽を聴いてこういう感情になってくれてる人がいるんだというのを知った時に、違う感情が生まれたという感じです。