2010年5月にリリースしたメジャー・デビュー・アルバム『Time Machine』をリリースするタイミングで彼らDirty Old Menの楽曲と出会った。その時に歌の力強さとか、ボーカルの儚さとか、メロディーの心地良さに心をギュッと掴まれ、それから彼らの鳴らす音に夢中になった。Dirty Old Menは、昨年は3枚の作品をリリース、その間には2本の全国ツアーを行ない、今年1月にはシングル『約束の唄』を、そして今作のフルアルバム『GUIDANCE』と、休むことなく走り続けている。
インタビュー中に高津戸信幸(Vo&G)が言っているように、「自分の作る曲が正解なのか不正解なのか。それは誰が決める事なのか」と楽曲を作りながら藻掻き悩んでいた。その殻を少し破ることが出来て完成した『約束の唄』は、音楽の力を信じてやまない彼ららしい言葉で綴られた作品となっていた。今作『GUIDANCE』には、そうやっていっぱい悩んで泣きじゃくって、それでも何かを掴み取ろうとする彼らから生まれた作品が集まり、今のDirty Old Menが充分に詰め込まれていた。この作品が出来上がったことにより、彼らの今後がより楽しみになった。(interview:やまだともこ)
大切に歌ってきた歌を詰め込んだアルバム
── ようやく1st.フルアルバム『GUIDANCE』がリリースされますけど、私としては本当に「待ってました」という感じですが、みなさんはこの作品が出来上がって手応えはいかがですか?
高津戸信幸(Vo&G):メジャーに入る準備の段階から1年半のベストアルバムという思いで作ってきた作品で、自信のある作品ができました。
野瀧真一(Dr):1年半の間このアルバムに入れるための曲を作っていたというわけではないですが、1年半前のセッションであわせた『想イ花』や『パントマイム』も入っていて、1年半かけて作ったと言っても良いぐらいの作品です。
── 長く寝かせていた曲もようやく日の目を見る、と。
野瀧:『パントマイム』は『Dirty Old Men e.p.』(2010年3月3日TOWER RECORDS限定リリース)で出してますけど、『想イ花』は今回初めて出すので、だいぶ寝かせましたね。
── 『GUIDANCE』を最初に聴いた印象は、アルバムというよりは全曲がシングルでリリースしても良いぐらいの曲が集まったなと思ったんです。ただ言い方を変えると、アルバムを通して1枚の流れがあるというよりは、1曲1曲の集合体だという印象を受けました。今回はそういった狙いがあったんですか?
野瀧:まさにその通りです。目標がアルバムではなく、1曲単位で最善を尽くしてやっていったので、そういう感じに仕上がったと思います。
── となると、曲順はすごく悩んだんじゃないですか?
山下拓実(G):曲名を紙に書いて並べ替えたりして、けっこう時間がかかりましたね。
野瀧:みんなが持ち合った曲順もすごくバラバラで、摺り合わせるのが大変でしたよ。
── 今までにリリースされた作品の1曲目に挿入されていた曲が今作にも入っていますが、これはどういった意図があるんですか?
高津戸:より多くの人に聴いてもらいたいアルバムなんです。だから、これまでの曲を全部入れたいぐらいの気持ちでしたけど、その中からベストアルバムを作る感じで選んだんです。『パントマイム』は今の自分たちを書いた歌詞で大切に歌って来た曲ですし、お客さんの反応もすごく良いんです。みんなの意見をまとめたという感じが大きいですね。
── 『パントマイム』や『願い事』に込められた「ありがとう」は、みなさんを象徴しているようでもありましたね。ライブで「僕らと出会ってくれてありがとう」という言葉がいつも残るんです。
高津戸:この1年半もそうですけど、ツアーでも「ありがとう」を伝えるためにやっていたという感じでもありますから。
野瀧:「ありがとう」の言葉の意味って、大切なものを失いかけた時に気付くというか。そういうのがすごく曲に出ていると思います。だからなのか、今回の『GUIDANCE』は苦しみや悲しみが多く出た作品になりました。
── 歌詞では、全曲を通して主人公が泣きじゃくってますからね。
高津戸:泣くという感情は人間の最大の感情表現だと思うんです。嬉しくても辛くても泣くし、誰かが泣いている姿を見て自分も涙が出てきたり、そうやっていろんな涙とともに過ごしていた時間だった気もしています。
── となると、聴いた人にどう感じてもらいたいっていうのはあるんですか?
高津戸:日頃僕が音楽に助けられてる1人なので、音楽を聴いて自分を見つめ直せるし、笑顔も感動も全部もらっています。だから、自分が誰かの音楽を聴いて感動するように、僕らの曲を聴いて感動してもらえたらいいなと思います。人生観変えたいとか世界を変えたいという大きなことはないですけど、感情を少しでも動かす事ができたらって思います。そのためにも、責任のある言葉を使える人間になりたいと思っています。
ようやく殻を破れた
── Dirty Old Menの歌詞は、以前は“物語性”と表されることが多かったと思いますが、今回入っている『ブリキ』や『chocworld』のような物語性の高い楽曲も、これまでの楽曲と聴き比べると明らかに完成度が高くなっているというか、成長の過程がすごく伺えるなと感じましたよ。
高津戸:『chocworld』だったり、『ブリキ』だったり、『パントマイム』だったり、物語を書くと言ってもメッセージ性がより明確に出てきたのかなっていうのは自分でもあります。
── 意識してこうなったわけではなく?
高津戸:書きたいものが溢れてきているんです。昔は物語を書いて完結させるという感じでしたけど、今は伝えたいことがあるから、それを物語にするという感覚のほうが強いです。昨年は、自分の中でもっと歌詞の幅を広げたいって挑戦したり試行錯誤したりして、『パントマイム』とか『Time Machine Music』も自分の中では成長した物語に入ってくると思うんです。だから、そう考えると今を伝えるストレートな歌詞になるのは、『約束の唄』ぐらいなのかなと思ってます。他はまだ物語の延長線上というか、成長していこうとして頑張っているというのが出ているんです。『約束の唄』で殻を破れた感じです。
── 『約束の唄』はシングルのジャケットに「僕が守るよ、この唄で守ってみせるから。」とありましたが、歌詞もどこか頼りないんだけど力強い感じがあって、歌い出しは「信じられなくなってく」ですけど、何もなくなってもこの唄が守ってくれているという頼もしさを感じました。
高津戸:自分の譲れないものを書きたいって思った時にこの曲が出来たんです。曲が進むにつれて力強さも出したかったし、短い曲の中で感情の変化があって、胸をギュッと締め付ける感じとか、僕自身もこういう曲が好きなんです。
── 高津戸さんは、音楽で人と繋がっているとライブでもよくおっしゃってますが、それがこの曲に詰め込まれているような気がしました。
高津戸:ライブや音楽をやってなかったら、人と出会わないというか…。音楽活動をやってる時ぐらいしか人に会わないので、音楽やってて良かったなって思います。
── 他の曲も一生懸命音楽と繋がろうとしているという印象を受けましたが、歌詞を書く時は、対どなたを想像しているんですか?
高津戸:特定の誰かというよりは、ライブで感じた事を歌っているのが『約束の唄』や『パントマイム』で、『ことばのうえ』は以前所属していた事務所との別れや、その時に伝えられなかったものを歌っています。生活をしている中で起きるひとつの小さな物事から歌詞を作っています。
── 今話にあがった『ことばのうえ』は『泣いてもいいかな』に継ぐ名曲が出来上がったと勝手に思ってますが、昨年はツアーが何本かあったり、CDのリリースも3枚ありましたし、その中でよくこれだけの楽曲を作り上げたなと思いますけど。
野瀧:最新曲になればなるほど、レコーディングは切羽詰まってましたね。一番最近でレコーディングした曲が『chocworld』になるんですけど、切羽詰まってるのに高津戸がピッピピッピ笛吹いてて…(笑)。
── この曲は前作で言うと『MY HERO』にノリが近いですね。明るくて楽しくてライブで盛り上がりそうな曲というところで。
高津戸:そうですね。インディーズでリリースした『elif』だったり、ライブで楽しめる曲です。
── アレンジはライブで盛り上がるものを、というイメージで書く曲もあるんですか?
高津戸:そういうわけではないんですけど、単純に気持ちいいテンポ感は考えています。『MY HERO』の時は楽しい面白いかわいいっていうイメージの傾向が強いですけど、今回はバンド感を出したいと思って作っていったんです。