ロマンポルシェ。6年ぶりのアルバム『盗んだバイクで天城越え』がいよいよ発売される。日本人ならどこかで聞いたことのあるようなタイトル、世界中の人になぜか親近感を与える可愛い猫のジャケット。かつての「梶原一騎があの世から送り込んだ二匹の黒猫」は、結成13年目を迎え、今や誰からも愛されるCATSに変貌したのだろうか? いや、アルバムの内容は期待通りのロマンポルシェ。だ。底辺の生活を美しいメロディで寓話のように切り取った『THE PARK』、暑苦しいまでの男気を歌い上げた闘魂注入曲『ワルのテーマ』、そして80年代の価値観を根底から覆すタイトル曲『盗んだバイクで天城越え』など、その狂気と毒性はむしろ強まっているのだ。4/29には新宿LOFTで発売記念ライブを行うロマンポルシェ。の二人に話を聞いた。(Interview:加藤梅造)
今後のターゲットはゼロ世代!?
──ロマンポルシェ。としては本当に久々のアルバムですね。
掟ポルシェ(以下、掟) なんで今回アルバムを出したかというと、『おうちが火事だよ!ロマンポルシェ。』以降、6年間アルバムというものを出していないわけで、その間に出したものといえばシングルの4曲、ベスト盤に入れた2曲だけ。つまり6年間でたった6曲!! さすがにこれはまずいなあと。それでなんとかアルバムを作って、まだ俺達やってますよというのを世間に伝えようかと。まあ生存確認みたいなもんです。
ロマン優光(以下、ロマン) ライブでも自分たちがやる曲に飽きてるから。
──ロマンさんはライブ中いつもつまんなそうだから、飽きてるのかどうか分かりづらいですが。
ロマン 失礼だな、そんなことないよ!
掟 たばこ吸ってダルそうな態度を取るのが彼の仕事ですから。
ロマン みんな誤解してると思うけど、俺ディレイやってるから、実は忙しいんですよ!
──アルバムに取りかかったのはいつ頃からですか?
掟 去年から作れって言われてたのが、今年頭になってもまだ何もできてない状態で。一番の原因は火事で機材が燃えちゃったから。新しい機材を憶えるのが面倒臭くて。
──ロマンさんも金がなくて機材を売っちゃったとか?
ロマン それはネタの話でしょ。何台も持ってますよ!
掟 虚実入り交じりすぎでわかんないから(笑)。
──でも今作はたくさんのミュージシャンが作曲で関わってますね。
掟 自分じゃできないことは、プロの人達に全面的におまかせ!
──『全裸で書いたラブレター』作曲のサワサキヨシヒロ!さんが今回もタイトル曲を手がけてます。
掟 サワサキさんはSMAPのシングル曲も作っているコンポーザーですからね。今や日本を代表する作曲家にもう一度ロマンポルシェ。の曲を作ってもらおうと。これでCDショップのSMAPの隣にロマンポルシェ。のCDが並ぶはず。タワーレコードの店員は是非「SMAPとほぼ同じものです」というポップを付けてもらいたい。
──間違って買ったら大変じゃないですか!
掟 そしたら、ディスクユニオンに売ればいいんですよ。
──掟さんは火事以外にもお子さんが生まれたりと生活環境の変化があったわけですが、それは影響してますか?
掟 大ありですよ! なにせ家だと曲が作りづらい。打ち込み作業してるとまだ一歳未満の子供が俺にもシンセ弾かせろって泣いて仕事にならなくて。電子音って子供にウケるんですよ。ピコピコしててミニモニ。みたいで。
──じゃあ、今回のアルバムは子供にもウケそうですね。
掟 どの曲も『おかあさんといっしょ』や『みんなのうた』に使われてもおかしくないと思いますよ。おすすめは3曲目の『珍・ポタージュ』。
ロマン 一番子供に人気が出そうだよ。
掟 『チンチンポンポン』に続くチンポ歌謡の第2弾としてどうでしょうか。大人ね、あいつら物心ついてるからダメ。これからは何もわかってない子供から搾取! ロマンポルシェ。の今後のターゲットはゼロ年代生まれ!
──歌詞に出てくるスケベ椅子は大丈夫ですかね?
掟 そういえばサワサキさんから「自分の娘に聴かせられないから、『スケベ椅子』とか『顔面騎乗』とかいう言葉を使うのはやめてくれないかな」って懇願されました(笑)。
──ジャケットがまたすごいことになってますが、何で『CATS』なんですか?
掟 えっ、これただの猫ですよ。猫ロマンと猫ポルシェ。
ロマン どっからどう見ても普通の猫。
掟 俺達バカな格好はやり尽くしちゃって、全裸とか全身銀粉とか、それを超えるものはないかとネットでいろいろ検索したんですよ。そしたらね、ブロードなんとかっていう所でいい大人が猫の着ぐるみを着て必死にダンスしている画像があったんです。すごい自信満々な顔でね。これはバカだなあと。
ロマン しかもあの格好で人を感動させようとしてるんだよな。
掟 これには俺たちも負けてるなと思って、是非取り入れたいと。なんていうのこういうの?オフブロードウェイ?
──結局『CATS』じゃないすか!
掟 違いますよ(据わった目でとことん否定)。ネットで見つけた猫のダンスと楽しい歌のお芝居です。子供は動物好きですからね。うちの子供も『志村どうぶつ園』大好きですから。
──志村どうぶつ園もねらってるんですか?
掟 ええ、チンパンジーのパンくんの次は猫ポルシェですよ。今回はいろいろなタイアップが付くような作りにしてますからね。まあ訴訟を恐れてどこも使わないでしょうが...。
なんか売れそうな感じになってるでしょ?
──せっかくなんで収録曲について解説して頂きたいと思います。まずは1曲目の『ハイスクールララバイ』。'81年に大ヒットしたイモ欽トリオのカバー曲ですが。
掟 事情を話すと、CDを作る前段階で事務所の社長から「ぶっちゃけ今回予算厳しいんだよね。なんかさ、売れることやってくれない?」って言われて、じゃあどうしたらいいんですかと尋ねたら、「うーん、ヒット曲をカバーしたらいいんじゃない」っていう話になって、じゃあもうベタベタな所でいこうかと。ただ『ハイスクールララバイ』と言ってる以上、さすがにまずいでしょ? 俺たち41歳と37歳ですよ。全然ハイスクールじゃないよね。当時(イモ欽トリオの)山口良一は学生服を着ていたとはいえ26歳ぐらいでしたが、それより一周り以上も上ですから。だから年齢問題をごまかすためにバニラビーンズというアイドルに参加してもらって平均年齢を下げました。
──原曲に忠実ですが、かなりいい雰囲気に仕上がってますね。
掟 それは何故か! そう、俺がトラックを作ってないからですよ(開き直った顔で)。ロマンポルシェ。は80年代リバイバルとしてずっとやっていますが、海外でそのジャンルは「エレクトロクラッシュ」と呼ばれるシーンとしてアップデートした形で結実しているわけです。でもロマンポルシェ。には技術力がないから、どうがんばってもエレクトロクラッシュになれない。そこで今回、エレクトロ制作の得意なNEWDEALの力で、無理くりエレクトロクラッシュにしました。なんか売れそうな感じになってるでしょ?
──次に2曲目の『THE PARK』。COALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKIさん作曲です。
掟 これは80年代というよりは90年代初頭にソフトバレエがやってた類の音楽ですね。俺ソフトバレエ大好きですから。ロマンポルシェ。の中にはそういった要素が山ほど入っていて、この曲はその集大成みたいなものです。歌詞書いてる段階からもう遠藤遼一になりきってやってますから。NARASAKI君からも「いい男風に歌ってくれ」という指示があったんですが、いい男と言えば俺の中では遠藤遼一ですからね。
──それにしても歌詞の内容とのギャップが・・・
掟 さすがに遠藤遼一が公園に住んでいる人の歌は歌わないでしょう。メロディラインが美しいから、普通にいいことを歌ってるように聞こえるんですよ。「青いこの星の魅力を 必要以上に 受け止め」なんて。環境問題に対する警鐘にも取れますよね、その後の「たまに拾ったものを汚れを落として食べてる」って部分さえなければ。ま、拾ったものをちゃんと食べるのもある意味地球に優しいですが。
──そして3曲目は掟さん作曲の『珍・ポタージュ』。
掟 今回のアルバムは特にゼロ世代、幼児層をターゲットにしているといいましたが、子供が好きなものといえば二つしかない。チンポとポタージュ。その二つが一曲に集約されてる。もう無敵ですね。
──歌詞はともかく、曲調はまさに80年代初頭のシンプルな電子音楽ですね。
掟 あくまでシンセは音階を弾くための道具ではないという前提で作ってますね。初期ジョン・フォックスっぽい音響作りというか。ジョン・フォックス大好きなんですよ。2年前の来日公演もバカみたいに二日間とも行きましたしね。
ロマン ジョン・フォックスはDOLLのインタビューで「ピストルズは俺たちの客だった」って自慢話してたな。まあ、あの世代の人はみんな同じ事言ってるけど。
掟 SEAMOになる前のシーモネーターが、股間に天狗のお面をつけて「将来はロマンポルシェ。みたいになりたい」って言ってたみたいな。でもどっかで気付いたんだろうね、これじゃダメだって(笑)。だからピストルズもジョン・フォックスを見てこれじゃウケないって思ったのかもね。
──4曲目『ハガキスターの悲劇』。
掟 ネタ元としてはバットホール・サーファーズとスピッツ・エナジーという、ニューウェーブというよりはもう一本別の潮流にあるオルタネイティブのバンドへのオマージュですね。
──歌詞については誰かモデルがいるんですか?
掟 『kamipro』という雑誌で富田里奈さんという女子格闘家にインタビューしたんですが、彼女は今まで付き合った3人の男性が全員、伊集院光か爆笑問題のラジオのリスナーで。自分もヘビーリスナーだから、ラジオの話をしてるうちに好きになってしまうらしくて。そこから発展させて、じゃあハガキ職人が好きな女の子がいてもいいだろうと。
──掟さんの歌詞には、ちょっとヘンな女とそれに振り回される男っていうモチーフが多いですよね。
掟 そもそもサブカル的なジャンルの男を好きになるような女はキ●ガイばっかりですからね。でも、その手の女とつき合って振り回されるのも案外楽しいもんですよ。今はもういいですけど(笑)。