ありったけの愛情と敬意に溢れたブッチャーズへのオマージュ作品
リーダーの吉村秀樹が昨年5月に急逝したことで企画されたブラッドサースティ・ブッチャーズのトリビュート・アルバム『Yes, We Love butchers』が先月末、2枚同時に発売された。「Abandoned Puppy」(捨てられた子犬)、「Mumps」(おたふく風邪)というそれぞれのサブ・タイトルは、ジャケット・ワークを手がけた画家・彫刻家の奈良美智による命名。パッケージに意匠を凝らすなら、『banging the drum』、『bloodthirsty butchers VS +/-{PLUS/MINUS}』、『ギタリストを殺さないで』のジャケットに作品を提供するなどブッチャーズと縁の深い奈良以外にいないだろう。
かの不朽の名作『kocorono』の担当ディレクターだった海部幹男が総指揮を執った本作は、札幌時代からの盟友である怒髪天やSLANG、the pillowsを始め、八方塞がりだった90年代のライブハウス・シーンを共に駆け抜けたCOCOBATやBRAHMAN、ブッチャーズと帯同ツアーの経験もある向井秀徳やthe band apart、吉村と親交が深かったLOST IN TIMEやLOSTAGE、MONOBRIGHTやperfectlifeといった気鋭の後進に至るまで、ブッチャーズを愛してやまない総勢24組ものバンド/ミュージシャンが一堂に会した驚異の企画盤である。
しかもこの企画に賛同したバンドが後を絶たず、第3弾の「Night Walking」(夜間遊歩)が間髪入れず来月末に発売されるという異例の展開になっているのだから、ブッチャーズの尋常ならざる影響力と吉村の人徳を改めて思い知らされる。なお、この「Night Walking」には30年近い同志であるeastern youth、吉村が在籍していたこともあるCo/SS/gZ(COPASS GRINDERZ)やDischarming man、互いに敬愛し合っている少年ナイフなど、前2作同様に錚々たる面子が参加するという。
吉村は生半可な気持ちでバンドをやる人間に対して常に手厳しかったから、参加するにあたってどのバンド/ミュージシャンもただならぬプレッシャーがあったはずだが、深い愛情と敬意をもって原曲を噛み砕いた上で楽曲本来の持ち味を最大限まで引き出すことに成功している。その手腕は各自、実に見事で、吉村に手向けた独自の歌詞を加えて荘厳な世界に染め上げたBRAHMAN、パンキッシュな解釈で原曲を大胆に再構築させたTHE STARBEMS、吉村と出会った頃の流行歌(EPOの「DOWN TOWN」と思しい)とマッシュアップさせたという怒髪天、原曲とは異なる軽快さと温かみのある曲調でポップさを抽出した(「プールサイド」のリフを盛り込むセンスも素晴らしい)CARDなどはとりわけ秀逸だ。
最新作『youth』の最後を飾る「アンニュイ」をあえて取り上げたSLANGの心意気、ブルージーなテイストを滲ませながら“悪いオトナの手本”になるためのDNAを継承したKING BROTHERSの流儀、吉村に「この曲はお前にやる」とまで言われた「プールサイド」を切々と唄い上げる向井秀徳の表向きは淡々としているが全力の愛情表現。そんなものに思いを馳せながら聴くと、吉村を失った大きなkocorono穴を改めて実感せざるを得ない。本作に通底するブッチャーズへの底知れぬ愛を感じるたび、不世出のバンドマンである吉村の不在にやり切れない思いに駆られるし、ブッチャーズの歌はまさに代替不可なことを痛感するのだ。
だが、悲しんでばかりもいられない。この作品群は次世代の聴き手に向けてブッチャーズの音楽を受け継ぐ萌芽でもあるのだから。その意味でも、The SALOVERSやcinema staff、THE NOVEMBERSといった若手バンドが本作に参加した意義は大きい。彼らを通じてブッチャーズという大きすぎる頂にこれから登り詰めるのはとても幸せなことだ。このトリビュート・アルバムからオリジナル作品を聴き始めるのも決して遅くはない。たとえばロマンポルシェ。がカバーした「ラリホー」は今から27年も前の札幌時代のレパートリーだが、そのポップなメロディ・ラインが未だに色褪せていないのがよく分かるだろう。そんな不滅のオリジナル楽曲がバージョン違いを含めて170曲以上はあるし、正規のアルバムだけで13枚もあるのだ。それらと聴き比べることで、本作に参加した各バンドの卓越したセンスと表現力を新たに窺い知るのではないか。
音楽は時空を超える。生き死にすら超える。聴き手であるあなたがいる限り、こうしたトリビュート作品で誰かが唄い継いでいく限り、吉村秀樹は死なない。今日もこの世界のどこかで吉村は魔法のコードをかき鳴らしながら全力で声を張り上げているはずだ。
2014年2月(親愛なるアレックスさんへ)1日
文◉椎名宗之
写真◉アカセユキ
Yes, We Love butchers 〜Tribute to bloodthirsty butchers〜
「Abandoned Puppy」
CRCP-40357/3,000円(税込)/絶賛発売中
【収録曲】
01. ACIDMAN「襟がゆれてる。」
02. the band apart「2月/february」
03. BRAHMAN「散文とブルース」
04. COCOBAT「ROOM」
05. 八田ケンヂ「9月/september」
06. HUSKING BEE「ocean」
07. KING BROTHERS「JACK NICOLSON」
08. ロマンポルシェ。「ラリホー」
09. The SALOVERS「サラバ世界君主」
10. SLANG「アンニュイ」
11. SODA!「ファウスト」
12. THE STARBEMS「ギタリストを殺さないで」
「Mumps」
CRCP-40358/3,000円(税込)/絶賛発売中
【収録曲】
01. CARD「sunn」
02. cinema staff「僕達の疾走」
03. Climb The Mind「襟がゆれてる。」
04. 怒髪天「I'm on fire」
05. LOSTAGE「JACK NICOLSON」
06. LOST IN TIME「9月/september」
07. LOW IQ 01「ファウスト」
08. MONOBRIGHT「サラバ世界君主」
09. 向井秀徳「プールサイド」
10. THE NOVEMBERS「11月/november」
11. perfectlife「襟がゆれてる。」
12. the pillows「散文とブルース」
「Night Walking」
CRCP-40366/3,000円(税込)/2014年3月26日発売
【収録曲】
01. ART-SCHOOL「ファウスト」
02. bed「ソレダケ」
03. Co/SS/gZ「7月/july」
04. Discharming man「no future」
05. eastern youth「Never Give Up」
06. きのこ帝国「discordman」
07. MO'SOME TONEBENDER「ロスト・イン・タイム」
08. 少年ナイフ「ファウスト」
09. SiNE「燃える、想い」
10. タルトタタン「ピンチ」
11. ueken butchers project【上田健司(b)、Chara(vo)、名越由貴夫(g)、暴動[グループ魂](g)、ASA-CHANG(per)、小松正宏(ds)】「august/8月」
*ジャケット・ワーク◉奈良美智
*発売はいずれも日本クラウン株式会社より。
▼The SALOVERS「サラバ世界君主」MV
Live Info.
【小松正宏】
SOSITE 2nd Album「Syronicus」Release Party
『Shijimaniofu vol.1』
2014年2月1日(土)下北沢 THREE
出演:SOSITE(加倉ミサト+小松正宏)/朝生 愛/壊れかけのテープレコーダーズ/Ropes
OPEN 18:30/START 19:00
前売 2,000円/当日 2,500円(ともにドリンク代別途)
問い合わせ:THREE 03-5486-8804
【田渕ひさ子】
7thfloor presents『情ガ溢レル〜フリージアとショコラ〜』
2014年2月10日(月•祝)渋谷 7thFLOOR
出演:植田真梨恵/田渕ひさ子(bloodthirsty butchers, toddle, LAMA)/...and more
OPEN 18:20/START 19:00
前売 2,300円/当日 2,800円(ともにドリンク代別途)
問い合わせ:7thFLOOR 03-3462-4466
『OTO TO TABI 2014』
2014年2月22日(土)サッポロファクトリーホール & cube garden(2会場同時開催)
出演:
[音楽]青空教室/ALICEPACK/OGRE YOU ASSHOLE/大脇一起(モノポックル)/オトノエ/Kidori Kidori/奇妙礼太郎トラベルスイング楽団/田渕ひさ子/DJ YEN/chikyunokiki/Chima/TOWA TEI/七尾旅人/Fragment/Predawn/bonobos
[VJ]elfinBox/エレキネシス
[装飾]candle mother/こんのあきひと/jobin./豆電社
[出店]一灯庵Sunpiazza(飲食)/Cafe de 豪雪(飲食)/コロブチカ(雑貨)/スナックとよひら(飲食)/Pub The Cavern(飲食)
OPEN 12:30/START 13:00/END 21:30
前売 5,900円/当日 6,900円(10代の方は、当日身分証明書提示で1,000円キャッシュバック)/夜だけチケット(限定50枚):3,800 円
*夜だけチケットは18:30以降のサッポロファクトリーホール限定の入場券となります。cube gardenへの入場はできません。また、一般チケットと異なり再入場はできません。
*WEB購入はこちら
*取扱い店舗:大丸プレイガイド/tabibitoキッチン/BAR CAOSAN/world EZO kitchen CAOSAN/forest clock/一灯庵 Sunpiazza/CAFE サーハビー/大道/ハンモックベースカフェ/hilninel/FAbULOUS/BETTY/music hall cafe
問い合わせ:OTO TO TABI 2014 公式サイト