かつてまだロックンロールが一世を風靡する前、テレビのブラウン管の中でエルビスが腰を振る姿に全米の多くの良識人は激しい不快感を感じたという。不快なもの、見せてはいけないものを眼前に突きつけるのがロックの本質のひとつだとしたら、ピストルズ、ナパーム・デス、スターリン等が切り開いてきた延長線上で、現在も活動を続けているのがロマンポルシェ。というバンドだと言える。説教、全裸、千本ノック、デスビート、チャップリン、ランジェリーなど様々なエレメントから成るロマンポルシェ。の無茶苦茶なパフォーマンスは、時として強烈な光を放ち、社会が覆い隠そうとする闇の部分を照射する。それを見ないようにするのは簡単だが、やはり目を背けるわけにはいかないのがロマンポルシェ。のしぶとさでもあるのだ。10年間の活動記録をベスト・アルバムという形でまとめたロマンポルシェ。の掟ポルシェに10周年記念インタビューを行った。(interview:加藤梅造)
ロマンポルシェ。はスーサイドを意識的にパクった
──今日はロマンポルシェ。の10周年記念インタビューということでお願いします。正確にはいつが記念日なんですか?
掟:1997年7月10日に最初のライブをやったので、それをデビューと言えば今が活動10年目。ちなみに98年の4月に1st アルバム(『人生の兄貴分』)を出したので、そこから数えても10年。まぁ何でもいいです。
──デビュー・ライブは何処でした?
掟:今はなき西荻WATTSという、大家さんが2階に住んでるライブハウスがありまして。ちょっとデカイ音出すと「今何時だと思ってるんだ!」と大家が怒鳴り込んでくるという。そんなところにライブハウス作んなって話なんですが。まぁ刺青者や前科者などステキな人間しか集まって来ない所でしたから、大家さんも早く出てって欲しかったんでしょうか。
──当時はパンク系のバンドに混じってやっていたわけですか?
掟:そうですね。ロマン優光がもともとプンクボイ(註:ロマン優光がベース弾き語りをする1人パンク・バンド)でLess than TVというレーベルからCDを出してたんで、その周辺のバンドと一緒にやることが多かったです。自分たちみたいな打ち込み系のイロモノはライブやるにも似たようなバンドがないから場所に困るんですよ。そのおかげで結果的にいろんなバンドと対バンできましたけど。スーサイドというNYパンクのバンドがありますが、あれも2人組で、エレクトーン演奏しかしてないくせに、ボーカルが客を殴ったりして。要はキチガイですよね(笑)。ロマンポルシェ。は音楽的にもコンセプト的にもスーサイドを意識的にパクってまして。音はともあれ活動形態がパンクだということで、スーサイドは輸入盤屋では仕方なくNYパンクというカテゴリーに入れられている。パンク聴きたての中学生なんかがピストルズみたいなものと間違って買っちゃったりすると、エレクトーンと安っぽいドラムマシンの音と時々入る「ハウッ!」というウンコをガマンしているような奇声だけが聞こえてきて泣きを見る......、そういうことをロマンポルシェ。ではやりたかったんですね。
──わかりづらいですね〜。
掟:ボーカルのアラン・ヴェガもスーサイド始めた時は結構いい歳でしたからね。その辺の見切り発車感も一緒。演奏面で音楽的素養があまりないというのも同じですし。
──1998年と言えばPOLYSICSに代表されるニューウェイヴの復活みたいなシーンと同時期ですが、そういったバンドとはまた違ったわけですよね。
掟:これ、何度も言い過ぎて彼らには本当に申し訳ないんだけど、POLYSICSなどの「TOKYO NEW WAVE OF NEW WAVE」周辺のバンドはテクノポップを下敷きにしているものに集中していて、あまり面白いことをやってるとは思えなくて。俺自身家で聴くのはもっぱらハードコア・パンクとかデスメタルで、そういった普通のロックのカテゴリから著しく外れたものすべてをニューウェイヴの延長だと思っていた自分としては、彼らのニューウェイヴ観には共感できなかったんですね。あの辺とは対バンもほとんどしてないし。
──ふり返ると、ニューウェイヴを新しく解釈したバンドであるロマンポルシェ。とPOLYSICSが同時期にデビューしているんですよね。
掟:DEVOとプラスチックスの合体みたいな音で「これぞニューウェイヴだ」みたいに言われた時は、さすがに「おい、ちょっと待てよ!」と思って(笑)。まぁ今はPOLYSICSも完全に自分たちの音楽を確立したと思うし、年々面白い音を出すいいバンドになってきて、『ミスター・ロボット』以降の音源は好きですけどね。
──それで出したのがニューウェイヴの邦楽と洋楽を集めたコンピレーションCD『ニューウェイヴ愚連隊』なんですか?
掟:それはありましたね。ロマンポルシェ。が当初から言われていたのは「わかりにくい」ということで...。当時のマネージャーからも「面白いんだけど売るほうとしても伝えづらいですよね」と言われてまして。それでいろいろ考えて、自分たちの下地になっている音楽を啓蒙するところから始めないとわかってもらえないんじゃないかと思って、『ニューウェイヴ愚連隊』を出したんですよ。
──その啓蒙活動はうまくいったんでしょうか?
掟:それ自体ほとんど売れなかったから意味がなかった(笑)。でもCD発売記念で、ジグ・ジグ・スパトニックを日本に呼べただけでもよかったかな。ジグジグはジェネレーションXのメンバーのバンドじゃないですか。それでパンクな音を期待してレコード聴くと、チャカチャカスコスコって軽い音しかしなくて、もうこけおどしもいいところで愕然とする。スーサイドと同じく、俺はそういうこけおどしが前面に出たものにとてもシンパシーを感じるんですよ。
──2002年頃は、ロマンポルシェ。がテレビ音楽番組『HEY!HEY!HEY!』に出たりして、かなりメジャーな存在になってましたよね。
掟:多分、ロマンポルシェ。としては『男峠』(2000年)を出した頃が人気のピークだったと思うんです。ただ、その頃から俺がモーニング娘。にハマって、バンド名を"ロマンポルシェ"から"ロマンポルシェ。"に改名したんですが、それがことのほか評判が悪かった。まぁ俺がロックンスターだと仮定すると、バンド少年少女にとってロックンスターは神様じゃないですか。で、その神様の上に神様がいて、しかもそれがションベン臭いアイドルだったという事実に、かなりガッカリされたと思うんです。その時点で離れていった人は多かったですね。説教とかしてても100%本気で言ってるわけじゃないんだっていうのが、モーヲタ活動によってバレてしまったと。
──でも、アイドル・ファンであることは最初から公言してましたよね。
掟:隠してたわけじゃないんですが、ステージに上がる時やメディアに出る時は、目をつり上げて喧嘩腰で出ないといけないという気持ちはまだまだありましたから。
──離れていったお客さんは掟さんに本気で危険なものを求めてたんですかね?
掟:そうだと思いますよ。やっぱりガチでキチガイみたいな人がやってるものであってほしいと。確かにそういうものを目指して自分もやってたんですが、本質的にこぢんまりした性質ですから。そういった本物のキチガイを観に来た人には申し訳ないなぁと。
──でも、そういった期待に応えていたら最後は本当に発狂するしかないですよ。
掟:期待に応えようとがんばっている人もいますから。俺はそういった一試合完全燃焼みたいなスタイルはできなかった。まぁしょうがないかなと。
全裸より青春ガンバレのほうが恥ずかしかった
掟:2002年に『孫』というアルバムを出したんですが、これが思いのほか売れなかった。『HEY!HEY!HEY!』にまで出たのに何故売れないのか? といろいろ考えたんです。それでバンド・スタイルにして、音楽性も売れるものに変えて、ロマンポルシェ。を青春パンク路線にしてみようと。
──えー、そんなことがあったんですか!?
掟:実際に練習もしましたよ。U.G.MANのメンバーしか集まらなかったんですけど(笑)。本当はギターを横山健さんにお願いしたかったんですが、それは通らなかったみたいで。俺自身面識もないし当然ですけど。で、1回だけ大阪のイベントでU.G.MANと一緒にやった時に、1曲だけバンドでやってみたんです。その時のバンド名は「ヌーベルバーグ」。最初は「ハンバーグ」にしようかと思ったんですが、ヌーベルバーグのほうが頭のわるい人が考えた芸術感が出てていいかなと。でも、今ヌーベルバーグってバンドが実在してるらしいですけど。
──その後、バンドはどうなったですか?
掟:ライブを観たレーベルの社長に「うーん、ロマンポルシェ。は青春パンクって感じじゃないね」と一蹴されて。元はと言えばその社長が「青春パンクをやったらどうだ」って言ったのにもかかわらずですよ! なんだそれ! って。でも実際、自分でもやってて恥ずかしかったんです。俺はよくライブで全裸になったりしますが、お客さんにキンタマ見られようとケツの穴見られようと全然恥ずかしくないんです。でもねぇ、自分頑張れソングみたいなありきたりな傷のナメあい歌詞を唄っている自分に対して、ものすごい羞恥心を覚えたんです。これは無理だなと。
──本気で青春パンクをやろうとしてたんですか?
掟:はい。曲を誰かに作ってもらって、人が作ったパッケージに完全に乗っかるならかまいませんよって感じで。いつもロマンポルシェ。のライブでは、喋りの間は客みんなゲラゲラ笑ってるのに、曲が始まった途端に退屈そうな顔で微動だにしませんから。これで曲さえよかったら万事解決じゃないかと。これがおまえらの好きなハードコアだろ! 俺の好きなハードコアはこんなんじゃないけどって。
──確かにロマンポルシェ。の悩みとしては、説教にはみんな食いつくけど、曲は聴く人を選ぶなぁというところですよね。
掟:今にして思えばすごい勘違いなんですが、バンドを始めた時、これで女にモテるだろうなと思ったんですよ。でも実際に食いついてきたのが、10代20代のバンギャルではなくて、俺より年上の年増の女性客ばっかりだったんです。80年代にリアルタイムでニューウェイヴを通過した30過ぎの女性が「あ、その曲のネタ元わかる!」って感じで嬉々として。唯一若い層に受けたのが電気グルーヴのファン流れの奴らだったんですが、例のモーヲタ問題で電気ファンは一気にいなくなりましたから。パフュームのアドバイザー的なことを一時やってたんですが、最近パフュームが売れたことによって、そのお客さんがフィードバックしてロマンポルシェ。のライブに来るという逆輸入現象が起こりつつあるんです。自分のアイドル・オタクとしての活動が今頃になってやっと報われてきてるなと。それはそれでありがたい話です。
殺人事件の数だけ歌の題材がある
──今回のベスト・アルバムは1枚がベスト選曲盤で、もう1枚が説教盤と2枚組になってますが、僕としてはベスト選曲盤1枚でもよかったんじゃないかと思いました。
掟:本来はそうですよ。説教はCDで何回も聴くもんじゃないし。ライブで1回聴けば充分でしょ。
──こうして10年分の曲を改めて聴くと、ロマンポルシェ。の音楽性はほんとに独自の世界観を持っているなと思いました。他に似たようなものがないと言うか。
掟:俺は『ニューウェイヴ』をやってるつもりなんですが、いろいろなジャンルのキワモノが集合したものがニューウェイヴというもので、音楽に一貫した何かがあるわけではない。ロマンポルシェ。はそれを全部やっている状態ですね。わかりやすく何々風の音楽をやったほうが受け入れられやすいとは思うんですけど、俺には無理。青春パンク路線が失敗した時点で、まかり間違ってでも売れようという気はなくなりましたね。
──でもライブハウス規模とはいえ、10年間ずっと活動しているのはすごいことだと思います。10年の間に消えていくバンドはいっぱいいるわけですから。
掟:根本敬先生が「自分の描くような漫画を読むのは世の中にせいぜい500人ぐらいで、その500人に売れればそれでいい」っていうようなことを言ってたんですが、ああそうだなと。ポピュラリティのないことをあえてやってる以上売れなくて当然だし、ウケないからといってバンドをやめたいと思う必要もない。で、開き直った結果が、今回の新曲の「炭水化物は胃にたまる」で。歌詞の内容としては、人を殺した夜に冷蔵庫を見たら、あ、焼きそばが残ってる。賞味期限今日までだ。でも人殺したから食欲ないなぁ、どうしよう。でも作ってみたら意外と食えた! というものなんですが......本当に売れたいと思ったらこんな内容の歌詞じゃダメじゃないですか(笑)。
──「チャップリンの女」もそうですが、掟さんの歌詞は滑稽だけど実は恐ろしいものが多いんですよね。
掟:『お家が火事だよ!ロマンポルシェ。』は全曲ラブ・ソングなんですが、そこでのラブ・ソングは普通の男女による幸せな恋愛ではなく、頭のおかしい男女による独りよがりのぶつかり合いの恋愛を描いているんです。そういう歌詞なら唄ってて恥ずかしくない。
──そういう恋愛は、殺人事件のニュースとかで世の中に顕在化しますが、ポップ・ミュージックで唄われることはなかなかないですよ。
掟:殺人事件が歌になったっていいじゃないかと。世にある刃傷沙汰の数だけ歌の題材がありますから。もう売れる気ないから安心してそういう歌だけ作れますし。このアルバムでも「親父のランジェリー2」というバンド・バージョンが入ってますが、これも俺の好きなグラインドコア/デスメタル・アレンジにしてます。
──青春パンクよりこっちのほうがいい?
掟:そりゃそうですよ! 毎日家で聴いてます! カーカスの曲タイトルとかほとんどソラで言えますよ(笑)。ホントはデスメタルのバンドとかやりたいんですけど、今更メンバー募集するのも恥ずかしいじゃないですか。でも、ヘヴィメタルのギミックの弾けるギター、ツーバスの叩けるドラマー、もし興味があったら連絡下さい! ベースは差し支えない程度に弾ければOK! 今一応いますから。それでもし集まったらヌーベルバーグを復活します! って、もういるのか。