今年7月に約5年ぶりのアルバム『Yukari Telepath』をリリースし、リスナーのみならず業界内でも高い評価を受けたCOALTAR OF THE DEEPERSが、現在入手困難な過去のEPを紙ジャケットで復刻した10枚組BOX SETを12月に発売する。1991年のバンド結成以来、日本のオルタナ・シーンを牽引してきたCOALTAR OF THE DEEPERSにとって、新しい試みをすばやく形にできるEPは、ある意味バンドの変遷を非常によく表している。もっと俯瞰して見ると、このBOX SETのラインナップはそのまま、90年代以降のオルタナティブ・ミュージックの流れを現在に伝える資料として高い価値があると言えよう。11月22日と23日には新宿ロフトで2デイズのワンマンライブを行うことも決定し、いつになく活動的なCOALTAR OF THE DEEPERSのNARASAKI氏にお話を伺った。(interview:加藤梅造)
新緑『BEAR ep』が示す今後の方向性
──今年のCOALTAR OF THE DEEPERS(以下、COTD)は、アルバム『Yukari Telepath』を既にリリースされてますが、12月には10枚組BOX SETを発売するということで、いろいろすごいことになってますね。
NARASAKI:BOX SETについて言うと、ぶっちゃけあんまり出したくなかったんですよ(笑)。俺個人にとっては、やっぱり今が一番大事なんで、改めて過去のものを聴きたいとは思わないんです。
──NARASAKIさんは普段から自分の過去のCDとか聴かないタイプなんですか?
NARASAKI:全然聴かないですね。やっぱり一番新しいものを聴いて欲しいという気持ちが大きいんで。まぁそうはいっても、過去の音源を中古盤屋で高値で買うという状況もあまりいいとは思わないので、今回復刻して出すというのも悪いことではないのかなと。だからポジティブでもなければ、ネガティブでもない感じですね。
──すべて紙ジャケ化での復刻ということで、制作費も結構かかるんじゃないですか?
NARASAKI:でも音源が既に存在しているものなので、その分はアートワークにお金をかけるのもいいんじゃないかなと。
──BOXの中には最新音源となる『BEAR ep』が含まれていますが、このへんは常に最新のものを聴いて欲しいというCOTDらしい所ですね。
NARASAKI:最近気づいたことがあって、前作の『Yukari Telepath』を出した後に、自分がやりたいことってそもそも何なんだろうと思うようになって、それがよくわからなかったんです。十数年やってきて、やりたいことがないというのもおかしな話なんですけど(笑)。常にやりたいことをやってきていますが、COTDとしての明確なものがないような気がしてきて、じゃあそこで一体何をやろうか? というのが次の『BEAR ep』のテーマなんです。俺が聴きたいものを作るという姿勢はずっと変わってないんだけど、COTDはバンドなんだから、もっとみんなであれこれ試行錯誤してもいいのかな、と。
──NARASAKIさんはリスナーとしても、ロックに限らずものすごく幅広いと思うので、そういう音楽全体の中での自分というのを考えたりはしますか?
NARASAKI:リスナーとしての自分は、何を聴いてもいいなぁと思うほうで、音楽を聴くことには結構満たされているんです。じゃあ、クリエイターとしての自分は何をやるのか? というのは、まぁ自分にしか作れないものをやるしかないんだけど、それはすごく難しい。それが今回『BEAR ep』を作ることで少し方向性が見えたかなと感じています。
POPなものは毒を含む
──NARASAKIさんの音楽のルーツはやっぱり80年代のニューウェーブなんでしょうか?
NARASAKI:そうですね。そこにはすごく影響されてますが、同時期に流行のディスコ音楽とかも普通に聴いてました。あとネオアコも好きでしたしハードコアパンクも聴いたし、まぁイギリスの音楽が好きだったというのはありますね。
──ジャンル一つで括れないというか、雑多な要素があるというのはCOTDの音楽性にも現れていますよね。
NARASAKI:そうなんですかね。COTDの音楽性に対しては、演奏はゴリゴリなのになんで歌だけフニャフニャしてるんだよとか、なんでもっとガッツがある感じに歌えないのかとか、そういう印象を持たれるみたいです。
──確かにCOTDの音楽は、単純なわかりやすい音楽ではないと思うんですが、様々な音楽要素があるにも関わらずにきちんと統一感があるのは、NARASAKIさんが宅録である程度作れちゃうからなんでしょうね。
NARASAKI:そこは難しい所もあって、基本的に自分は音フェチなので、音の気持ちよさを求めて作っていくと、デモの段階で曲が完成してしまう。でもそこで突きつめないようにして、バンドのみんなで作っていく部分も欲しい。
──今のCOTDは正式メンバーとしてはNARASAKIさんとKANNOさんの2人で、プラス、サポートメンバーという構成ですよね。
NARASAKI:そう。B'zと同じですね(笑)。
──そういう形態の方がやりやすいんですか?
NARASAKI:入りたかったらいつでも入っていいというスタンスなんだけど(笑)。でもCOTDはワンマン色も強いから、みんなが一番気楽なスタンスでやっていけるのがいいかなと。
──実際、COTDはサポートも含めメンバーの出入りは多い方ですよね。
NARASAKI:そこは確かに俺の性格のきつさもあったと思うんだけど(笑)。でもここ数年はみんな大人になったんで、うまくいってますよ。今度のロフトのライブでは初期のメンバーと一緒にやったりもしますしね。
──ちなみに初期のCOTDはボーカルがNARASAKIさんじゃないんですよね。
NARASAKI:そうなんですよ。バンド名をつけたのも俺じゃないし。そのバンドをこれだけ長く続けてるのも考えてみれば不思議ですよね。すごく短命な感じのバンドなのにね(笑)。
──90年代のオルタナ・シーンは数多くの個性的なバンドを輩出しましたが、その分、刹那的な部分もありましたよね。今回のBOXを聴くと、当時のシーン全体も浮かび上がってくるんじゃないでしょうか。
NARASAKI:その時々の時代の空気感は感じますね。未熟な部分も含めて。それはそれでいいんじゃないかと思います。
──ところで、最初にボーカルが抜けた時に別のボーカリストを立てようという話はなかったんですか?
NARASAKI:それでもよかったんだけど、成り行き上俺が……。でもやってるうちにだんだん歌うことの気持ちよさがわかってきました。
──あまり特定の楽器に対するこだわりはないんですか?
NARASAKI:いや、基本的に俺はギタリストだと思ってます。
──なるほど。ギターはCDで聴いてくれってことですね。でもライブでギターを弾きまくりたい欲求とかないんですか。
NARASAKI:ボーカルはボーカルの気持ちよさがあって、ギターにはギターの気持ちよさがあるんです。ライブでそれを同時にやるのは難しいですね。どっちかでうっとりしたいなと。
──じゃあ「特撮」ではギターに専念できますよね。
NARASAKI:でも特撮の場合はギターで気持ちよくなろうというのではなく、みんなで合わせる楽しさですね。あと、特撮はやっぱり大槻ケンヂさんのボーカルがいかにカッコよく聴こえるかが一番重要ですから。
──COTDの場合は、先程おっしゃってたようにNARASAKIさんの音フェチの部分が大きいですよね。
NARASAKI:今はどれだけ気持ちのいい音を出せるかを追求していきたいです。音の体感というものに興味があって、精神的にはテクノに近いのかもしれない。
──例えば、もろ音響派な感じのものをやってみたいという時はないんですか?
NARASAKI:そうですね。アンビエントはライフワークとしてずっとやっていきたいと思っています。でもアンビエントのアーティストもたくさんいて、今自分が持っている音源だけでも事足りるってのもあるんですけど(笑)。
──僕はアンビエントってすごく個人的でフェティッシュな音楽だと思うんですけど、COTDの場合は、アンビエントの要素はあっても、それはもっとマスに向けている感じを受けるんです。
NARASAKI:そうですね。POPな方向というのは、俺にとってはすごく毒を含んでいるもので、キャッチーなメロディとか、POPなものは俺の中では毒の要素なんです。俺がやりたいのはやっぱり「ひねくれ者の音楽」なので、そのほうがCOTDらしいかなと思ってます。