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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】COALTAR OF THE DEEPERS(2007年6月号)-ディストピアの世界の中で、未来に向かう希望の音

ディストピアの世界の中で、未来に向かう希望の音

2007.06.01

COALTAR OF THE DEEPERS(以下、COTD)は、オルタナティヴ以降のロック・シーンの中で日本が世界に誇ることができる最も先鋭的なバンドの一つだ。先日発売されたシングル『TORTOISE e.p』に続き、今回、約5年ぶりの5thアルバム『Yukari Telepath』が待望のリリースとなる。デスメタル、ハードコアパンク、エレクトロニカ、シューゲイザーなどのオルタナ以降のロックを独自に進化させたCOTDの世界がより緻密に構築された今作は、「SF」をトータル・コンセプトとし、「近未来、テレパシー、紀元前文明、逃避行」といったキーワードが散りばめられている。「これがCOALTAR OF THE DEEPERSだというものにしたかった」というNARASAKIの言葉通り、COTDの集大成的な作品になっているが、全身全霊でこの傑作を作り終えたNARASAKI に早速アルバムについて語っていただいた。(interview:加藤梅造)

世界に向けて日本人がやっているロックを意識したい

──オープニングの“Zoei”なんですが、激しい変則リフに東洋的な妖しい旋律の歌が続くという、NARASAKIさん独特の曲ですね。

NARASAKI(以下、N):俺はYMOがけっこう身体に染みついていて、やっぱり世界に向けて日本人がやっているロックというものを意識したい。欧米の人が聴いて不思議な感覚になるような。日本にも変なバンドがいるんだぞという、ある意味、日本を背負っているような気持ちもあります(笑)。特にこの曲はCOTDらしいと思うので、最初に持ってきました。十代の頃に聴いていたのがニューウェイヴとデスメタルなので、ニューウェイヴの綺麗な旋律も好きだし、デスメタルのようなブルータルな音楽も両方好きなんです。

──続く“Wipe Out”は、なんといっても三味線+ギターリフというのが新鮮ですが。

N:三味線っていう楽器は、欧米の人にとってはかなりアメージングなものだと思うんです。かなり変わった曲ですが、黄色い猿がなんか変なことをやってるぞって思われるぐらいでいいんじゃないかな。実際に海外から来るメールなんかを読んでいると、そういう部分はかなり意識しますね。

──マイナーナインス・コードが印象的な“Water Bird”は、「海に死んだ子供だけが出会うことのできる伝説の青い鳥の歌」とありますが、これはNARASAKIさんの創作ですか?

N:はい。海で子供を死なせてしまうと、とてもいたたまれない気持ちになると思うんです。それをなんとかいい解釈にできるような逸話がないかなと。そういうつもりでこの話を作ったんです。でも歌詞の中で「ついばんで」って唄っているんですが、鳥が目をつついたりするような残虐なイメージもあるんです。曲はとてもきれいな世界ですが、歌詞はえぐい部分もあるという。

──この曲もそうですが、COTDの音楽って水の世界という感じがあるんですが、どうなんでしょう。

N:そうですね。火よりは水に惹かれます。せせらぎとか大好きだし。歌詞でも水や海という単語が出てくることが多いですね。小さい頃に溺れかけたというのがあるからかもしれないけど、海の圧倒的な強さとか波の強さってどうすることもできない。ただ単に流されることしかできなくて、どうしようもない強い力に乗っていくしかないという感覚があるんですね。人生も然りですが(笑)。

──“Hedorian Forever”について。「これは攻撃的なYMO」だそうですが、YMOはリアルタイムで好きだったんですか?

N:はい。YMOは今聴いてもすごいなぁと思います。YMOがメインに使っていたProphet-5というシンセがあるんですけど、それに近い音色を今回はたくさん入れてますね。特に『BGM』(註:YMOが1981年にリリースした前衛的なアルバム)の音色が好きなんです。

──“Aquarian Age”は同名のOVAのサントラ曲をリテイクした曲ですが、「哀愁を漂わせながらも輝く未来に向かって歩いている。この曲は、俺そのものだよ」とコメントされてますね。

N:この曲はすごい俺っぽいなぁと思っていて、是非アルバムに入れたかった。今回、ブックレットを『アクエリアンエイジ』の監督に描き下ろしてもらったんですが、その絵も哀愁を帯びながらも進むしかないという感じに描いてもらったんです。

──NARASAKIさんは、アニメや特撮といった非日常的な物語が好きそうな感じがありますが。

N:いや、普通にドキュメンタリーなども好きですが、作品を作るという観点で見た場合、日常からかけ離れているもののほうに惹かれるというのはありますね。

──“Automation Structures”はものすごく複雑な曲ですが、これが宅録というのがまた驚きでした。

N:ほとんどの楽曲は宅録の段階から完成品に近いクオリティで作っていますね。俺の声って結構かわいい系じゃないですか(笑)。どれだけ凶暴な世界観と一緒にできるかというのは、一番最初のデモの段階から作り込まないとうまく表現できない。そこが一番伝えたいところだから。

──基本的にCOTDの曲は細部にわたって完璧な世界ですよね。誰もいじれないというか。

N:逆に、作品をぬかりないように作るとそれが自分のすべてになってしまって、急に嫌いになったりする時もあるんです。すごく一所懸命やったことに対して格好悪いなぁと思ったり(笑)。でも、それが俺のやり方だというのが判ったから、まぁいいかな。

絶望から起こる行動が好きなんです

──“Lemurian Seed”はレムリア(註:5000万年以上前に存在したといわれる伝説の大陸)という言葉が非常に象徴的な曲ですね。

N:この詞はキーボードのWatchmanに書いてもらったんですが、彼はとてもスピリッチュアルな人で、ヒーラーでもあるんです。曲からぱっと浮かんだ言葉をつないで歌詞にしていった作品ですね。今回、歌詞に関してはでっかくいこうというのがありました。歌詞を書く時にはワクワクしたいという気持ちがあって、それなら宇宙だろう、とかね(笑)。

──“AOA”は今作の中で一番シューゲイザー的な曲になってますが。

N:まぁ、シューな香りはかなりしてますね。もともとは、'91年ぐらいにイギリスから出てきた弱い歌とうるさいギターのバンドをまとめてシューゲイザーと言ってますが、どのバンドも全然違うもので、代表とされるMy Bloody ValentineやRideやSlowdiveでも、それぞれは全然音が違いますからね。さかのぼれば、そういうやる気のない歌と轟音ギターというのは俺的にはDINOSAUR JR.が最初だったと思うけど、彼らはシューゲイザーとは言われないわけですし。まぁ、歌メロだけ聴けばみんなポップだというのは共通してますよね。'91年頃はハウスが流行ってきて、レッチリがブレイクして、NAPALM DEATHやAphex Twinも出てきてという、みんながいろんな方向に面白くなってきた時代ですね。そういうのは当時全部聴いてました。あの頃のイギリスは本当にやる気があった(笑)。

──アルバム・タイトルにもなっている“Yukari Telepath”は、アルバム中で最も静謐な美しい曲ですが、その美しさは歌詞にも出てくる「ディストピア」の中の危うい美しさでもありますね。

N:この歌の中では、ディストピアというのはすごく客観的に捉えている世界で、自分達の外界としてのディストピアなんです。それが「ゲシュタルトのむこう」という意味なんですけど、外にあるディストピアなんです。俺は絶望的な感覚は好きですが、絶望的な人ではないんです。そこから起きる行動、そういうのが好きなんですね。

──そして今作中最も問題作(?)であるのが“Evil Line”。なんと、ジャーニーやビリー・アイドルといった'80年代産業ロックを意識して作られたそうですが。

N:ジャーン! って感じですね。『ベストヒットUSA』で流れていたような曲しか知らないんですが、熱くて哀愁漂ってて、それは俺が特撮ヒーローの主題歌が好きなのと同じで、こういう曲をカッコいい曲というんだなと思うんです。カッコいい音楽はこれ、ジャーン! って。褒め言葉としてのカッコいいではなくて、具体的な形としてのカッコいい感じ。でもこの曲で今回プロモーション・ビデオを作ってますから(笑)。

──この曲こそがCOTDだと思われても困るんじゃないですか?

N:そうですね。でも、何考えてるんだコイツって思われるようなスタンスでずっといたいんです(笑)。「こうきたか!」みたいなね。

──“Ribbon no kishi”はCOTDにしては判りやすい曲調なんですが、歌詞が少年と少女のシュールな物語になっていて、そのギャップが面白かったです。

N:メタル好きの人ならこの気持ちがよく判ると思うんです。NAPALM DEATHとDREAM THEATERが同じメタルの枠の中でも全然違うというかね。タイトルが「Ribbon no kishi」なのは、サビの歌詞が「タリラリッタラッタラッタ」だからというだけなんですが(笑)。曲が普通にポップなんで、歌詞が聞かせどころになっています。

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