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トップインタビュー【復刻インタビュー】中島卓偉(2007年11月号)- 無条件にノレて踊れる、明るい笑みを湛えた渾身作『SMILER』

無条件にノレて踊れる、明るい笑みを湛えた渾身作『SMILER』

2007.11.01

みんなが笑顔になるためのライヴ

──本作の中核を成すのは、3曲目の「CRY CRY CRY」と4曲目の「SMILE」というワン・ビートで押しまくるダンスビート・ナンバー2曲だと思うんですよ。よりプリミティヴなロックを標榜している本作の象徴的なナンバーと言うか。“CRY”と“SMILE”という対照的なタイトルを付けているのも関連付けようとする意図が見えますし。

卓偉:よく判っていらっしゃる(笑)。「CRY CRY CRY」と「SMILE」がこのアルバムのリード・チューン的な曲なんですよ。新曲ってどうしても定着するまでは何回かツアーでやらないとダメなんですけど、今回の新曲は一発で認知されるようなものにしたかったんです。そのためにはワン・ビートでシンプルな曲がいいと思ったし、無条件に楽しめるには明るさが欲しいとも思ったんですよ。だからバラードも1曲しか入っていないんです。

──リズム・パターンを変えずに一定のテンションで演奏するのは、単調なだけにそれ相応のテクニックが必要とされる気がしますけど。

卓偉:リズム隊はアンサンブルが変わらないと難しいですよね。でも、今回はそれも成功したんじゃないかな。ディスコ・ビートだけどちゃんとライヴ感のあるロックに仕上がっていると思うし。

──アルバム・タイトルの『SMILER』は「SMILE」から派生させた造語ですよね。

卓偉:「SMILE」の歌詞は、数ある候補曲の中から収録曲がこの7曲に絞れてきた時に書いていたんですよ。特定の誰かに宛てたわけではなく、不特定多数に向けて「いつもの笑顔を見せて/そのままの笑顔でいて」と唄っている曲で、そういうタイプの曲は意外とこれまで書いたことがなかったんですよね。その歌詞が出来た時に、“これこそがライヴにおけるテーマなんじゃないか?”と思えたんですよ。ライヴはみんなに笑顔になってもらうためにやっているし、毎日が楽しくないと感じている人に対してライヴの楽しさを提供したいし、自分も含めてライヴを通じて笑顔になれる集団…それが“SMILE”に“R”を付けた“SMILER”と言うか。楽しいからこそライヴをやるんでしょうし、そういう思いを伝えられるのが一番のエンターテイメントのような気がして。こういう詞を書こうっていう意識は実はなかったんですよ。ただ、書き始めた途端に閃いたんです。

──今までは特定の誰かに宛てた歌詞を書くことのほうが多かったわけですね。

卓偉:ええ。どうとでも取れるものと言うか、誤解を恐れずに言えば自分が唄わなくてもいい歌詞にしたいと思ったんです。誰かが唄って誰かに伝わる歌でもいい。「SMILE」に限らずどの曲もそうなんですけど、シチュエーションを選ばない曲にしたかったんですよね。

──なるほど。そういう話を伺うと、5曲目の「さすらいのGUITAR MAN」や6曲目の「コードネーム1091」のストーリーテラーに徹した物語性に富んだ歌詞も凄く納得できますよ。それと、「さすらいのGUITAR MAN」でバグパイプやフィドルのサンプリングが施されているのも新たな趣向ですね。

卓偉:元々ヨーロッパの音楽は大好きですし、アイリッシュ・パンクは自分のド真ん中なんですよ。自分もそういう音楽が好きなのに、それを採り入れられないもどかしさがずっとあったんです。如何にもアイリッシュっぽい楽曲を作っても、取って付けたような感じにしかならないと思っていたんですよね。まだ10代の頃にパンク・バンドをやっていた時期はそういう曲を幾らでも作れたんですけど、当時はサンプリングもできなかったし、バグパイプもなかったですからね(笑)。自分の音楽的ルーツをストーリーとして組み込んで、そのルーツに対する深い愛情が注ぎ込まれていないと伝わらないじゃないですか? それが今なら取って付けたようじゃない感じでできると思ったんですよ。自分なりのアイリッシュ・パンクがようやくできるようになった自負があったからこそ、「さすらいのGUITAR MAN」はあんなアレンジになったんです。

自分の蛇口には限界がない

12_ap2.jpg──「コードネーム1091」は本作の中で最もアッパーなデジタルビート・ナンバーですね。

卓偉:この曲と「お願い胸騒ぎ」の詞が映画的で個人的には凄く好きなんですよね。これまではずっとリアルなことを唄ってきて、それが徐々に情景が浮かぶような歌詞を書くようになって、今はその情景描写のさらに上を行くものを書きたいと思っているんです。『24 -TWENTY FOUR-』みたいに時間軸を設定した物語の歌詞をようやく書けるようになったと思って。

──正体不明の男からミッションを受けたスパイがマイクロチップを奪い、ビルの屋上からパラグライダーに乗って逃げるというストーリーですが、一編の小説を書くような感覚に近いんじゃないですか。

卓偉:近いですね。本を読むのは凄く好きですから。なぜ読書が好きかと言えば、時間を忘れてそのストーリーに入り込んでいけるし、活字を読んでいるだけなのにその情景が頭に浮かぶからなんです。音楽を聴くのは単純に心地が良いから、テンションを上げたいからという理由ももちろんあるでしょうけど、日本人なら歌詞を聴き込む楽しさもあると思うんですよね。だから、歌だけど映像が見える歌詞を書きたいというのがここ数年のテーマなんです。

──ミッションを受けたスパイは“1091”=“TAKUI”で、卓偉さん自身が主人公という設定なんですよね。

卓偉:僕が主人公で、映画の『スパイ大作戦』がモチーフになっているんです。ちょっと『ルパン三世』っぽくもありますね。

──この歌詞はもちろんフィクションですけど、日常生活の中でミッションを下されたスパイのように生きる瞬間って多々あるような気がしますね。

卓偉:「コードネーム1091」の歌詞を面白いと思う人はそういうタイプだと思うんですよね。自分の親や会社の社長の言うことはある種のミッションかもしれないし、誰しもが抱えるスケジュール自体がミッションに近いと思うし。

──卓偉さんにとって音楽活動はミッションですか?

卓偉:深い質問ですね(笑)。もう一人の自分がいるとすれば、その自分が「こうやろうぜ、ああやろうぜ」と訴えかけてくるミッションは常にありますね。ただ、スタッフやファンが「卓偉、こういうのをやってくれ」という意見に耳は行かないんですけど。責任を背負って自分にすべてを注いでくれる人の意見しか耳に入らない人間なので。

──コンポーザー=中島卓偉には果たすべきミッションが常に多々ありそうですけどね。

卓偉:そうですね。やっぱり、常に新しいことにチャレンジしてきたいですからね。現状に満足することなく、「もうちょっとできるんじゃないか? まだ何か違う答えがあるんじゃないか?」と囁くのはいつももう一人の自分ですから。蛇口を最大限ひねれば最大限の水が出るけど、ひねる限度があるし、貯水タンクにも限界がありますよね。でも、自分の音楽論としては蛇口に限界がないんですよ。“誰がマックスを決めたんだ?”っていう感じなんです。もうこれ以上回らないというところまで蛇口をひねって、これ以上水は出ないとそこで諦める人もいるでしょうけど、僕は“もう一周回せるんじゃないか?”という可能性に懸けたいんです。限界が目前まで迫ってきたら、それ以上のものをどうやったら引き出せるんだろうといつも考えるんですよ。蛇口の水をちょろちょろ出して長持ちさせるのではなく、蛇口を全開にしてすべてを出し切っていきたい。“まだやれるんじゃないか? うかうかしていると時間なんてすぐに経っちまうぜ!”っていう。音楽に対しては常にそういうミッションを背負っているかもしれませんね。

受け手の想像力を刺激する歌詞を書きたい

──最後を締める「はじまりの唄」は流麗なメロディが胸を打つ唯一のバラードですが、憂いよりも明るさに重きを置いた曲調ですね。

卓偉:基本的にはビートルズを意識した60年代サウンドですからね。小気味良いピアノが入って、ドラムが跳ねた16ビートで、ビートルズで言えば「Lady Madonna」っぽい感じと言うか。こういう曲調もずっとやってみたかったんですよ。さっき話に出たように、『20's CALBORN』に入る予定だった曲なんです。歌詞もメロディも、何ひとつ書き直す必然性がなかったんですよね。

──「こんなに素晴らしい出会いはないよ/あなたに逢えてよかった」という歌詞は卓偉さんがファンに向けた言葉とも取れるし、「SMILE」同様、不特定多数の“あなた”に向けているという点では本作の最後を飾るに相応しい曲ですよね。

卓偉:そうですね。一対一の歌、あるいは一対百の歌は今までたくさん作ってきたし、特定の誰かを揺るがないものとしてストーリーに置くと、広がりが生まれないんですよね。歌詞の中にいろんなキャラクターを登場させることでそれぞれの思惑が飛び交うような歌詞を今は書きたいんです。ビートルズの「She Loves You」は“あの娘はオマエのことを好きみたいだよ?”っていう三人称の歌ですけど、ポール・マッカートニーが「あの曲を書いたことによって作風が凄く広がったのを実感した」とインタビューで答えていて、その言葉がずっと僕の頭に残っていたんですよね。仮に独りで悩んでいる歌でも、ずっと独りで考え続けているわけじゃなよなと思って。生きていればいろんな人達に出会うし、第三者の助言もある。それが歌詞に出てくるのは凄く自然なことだと思ったんです。

──『僕は君のオモチャ』がジョン・レノン的な世界観だとすると、『SMILER』はポール・マッカートニーっぽい作風と言えるかもしれませんね。

卓偉:深さと明るさの対比ということで言えばそうかもしれませんね。『SMILER』は『僕は君のオモチャ』よりもアッパーで、いい意味で緩い感じを出そうとしましたから。

──でも、どちらも中島卓偉のパーソナリティが如実に表出している作品に変わりはない、と。

卓偉:ええ。それがこの1年の間に出せたのが嬉しいですね。2枚に分かれていますけど結局14曲を仕上げたわけで、作業自体はずっと続いていたから大変は大変でしたけど、こうして出来上がると充足感はいつも以上にありますからね。

──『RUBBER SOUL』、『REVOLVER』という位置付けの作品が続いた後は、『SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND』のようなコンセプト・アルバムを期待してしまいますけど。

卓偉:いつかああいう作品を作ってみたいとは思っていますね。僕は伊坂幸太郎さんという作家が好きで、その人の小説はいろんな作品に同じ登場人物が出てきたり、似たような舞台設定や事件がリンクしてくるんですよ。“あれ、この人あの作品にも出てきたな”と気づいて、いろんな作品を読めば読むほど面白いんです。そういう作風に共感を覚えるんですよね。

──今後の楽曲に「お願い胸騒ぎ」のタクシー・ドライバーが出てきても面白いですよね。

卓偉:ええ。「コードネーム1091」のスパイがパラグライダーで飛び回っている曲があっても面白いだろうし。そうやって楽曲間に関連性を持たせるのは楽しいですよね。クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』みたいに、いろんな登場人物と事件がひとつの映画の中で交錯する感じを歌詞にしたいんです。世間で今流行っている曲はちゃんとした結末やきっちりとした答えを出した歌詞が多すぎて、聴き手の想像力が低下していると思うんですよ。全部を説明して答えを提示してくれるものしか脳が評価できなくなっていると言うか。僕はそういう予定調和なものよりも受け手の想像力がフル稼働するようなのりしろの部分を作りたいし、もっともっと感性を研ぎ澄ませて面白い歌詞を書いていきたいですね。まだまだやりますよ。

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