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トップインタビュー【復刻インタビュー】中島卓偉(2007年11月号)- 無条件にノレて踊れる、明るい笑みを湛えた渾身作『SMILER』

無条件にノレて踊れる、明るい笑みを湛えた渾身作『SMILER』

2007.11.01

今年の5月に発表されたロック・モード全開の会心作『僕は君のオモチャ』と全国7ヶ所で繰り広げられた"GET OUT TOYBOX TOUR"、デビュー前のデモ・テープをCD化した『20's CALBORN』の発表とそれに伴う東京キネマ倶楽部でのスペシャル・ライヴと、今年は精力的な活動が続いている中島卓偉。前作から僅か半年のスパンで発表されるニュー・アルバム『SMILER』は、新たなサウンド・アプローチと物語性に富んだユニークな歌詞がより特化した渾身の一作だ。本作の大きな特徴は何よりもまず曲調の明るい表情にある。どの楽曲も無条件にノレる、踊れる、そしてタイトルが表すように"笑顔"になれるのが最大のポイントと言えるだろう。また、三人称以上の登場人物が出てくる歌詞のフィクション設定が聴き手のイマジネーションをすこぶる掻き立てて飽きさせない。ソロ・デビューから早9年、守りに入るどころか以前にも増して貪欲になった卓偉の表現意欲はまだまだ衰える気配がなさそうだ。(interview:椎名"コードネーム417"宗之)

何をやろうが全部自分だぜ!

──ライヴ映えする楽曲が数多く収録された前作『僕は君のオモチャ』のツアーはどんな手応えでしたか。

卓偉:毎回リリースするたびにアルバムに対して賛否両論あるんですけど、いざライヴをやってみると“なんだ、みんな盛り上がってるじゃないか”っていう感じでしたね(笑)。久しぶりに夏前のリリースでツアーも夏だったし、そういった時期的なことも含めて盛り上がりやすかった気もします。

──音楽的嗜好は人それぞれだし、賛否両論あるのは致し方ないことですよね。

卓偉:それは常にあるし、避けられないことですね。まぁ、作品の良し悪しの判断をする基準っていうのは、その人が好きになった時期の曲のイメージに左右されるでしょうからね。古くから応援してくれているファンは初期が好みだろうし、最近知ったファンはここ数年の曲が好みなんだろうと思うし。

──9月には1999年に発表された初のデモ・テープ『20's CALBORN』がCD化されましたが、あの再発にはどんな意図があったんですか。

卓偉:僕が20歳の時に出した下積み時代のデモ・テープなんですけど、デビューして以降、何枚もアルバムを発表していくにつれてそのテープに入っている曲をライヴでやらなくなったんですよね。ファンの人がテープをダビングしたりして、曲は知ってるからライヴでやって欲しいという声もたくさんもらっていたんですけど、それでもずっとやらなかったんですよ。その頃は自分も20代前半で、新しく作った楽曲をとにかく伝えていきたい気持ちが強かったですから。それがこの2年くらいで「『20's CALBORN』の曲はもうライヴでやらないんですか?」っていう声がなくなったので、“やるか!”と(笑)。人に望まれている時にやるのは余り意味がないんですよ。望まれていない時にやるからこそサプライズも大きいと思うんです。

──単純に、過去の楽曲を再演することに気恥ずかしさはありませんか。

卓偉:過去の作品を封印したがるアーティストもいますけど、僕の場合そういうのは全然ないです。過去の楽曲でも全然オッケーなんですよ。その都度納得してリリースしてきたし、発表した以上はもう自分のものじゃなくファンのものだと思っていますから。作品として発表したものはいつでもライヴでやるつもりがあるし、それを“今の自分がやったらこうなるよ”って成長の跡として見せられたらいいと思っているんです。

──『20's CALBORN』を改めて聴いて、率直なところどう感じましたか。

卓偉:やりたいことは全部採り入れたかったんだなと思いましたね。覚えたてのコード進行、覚えたてのアレンジ、そういうものを全部1曲の中に閉じ込めたかったんだなって。余分なものを捨てられない弱さを感じたし、何も知らない強さも感じましたよね。ちょうどそのマスタリングをしている時にストーンズの『A BIGGER BANG』ツアーの4枚組DVDを観たんですけど、未だに「She's A Rainbow」や「Jumpin' Jack Flash」といった60年代の曲をステージでやっているんですよね。2000年代に入っているにも関わらず。それを観て余計に“過去に発表した曲は何でもやるんだ”という気持ちに火がついたんですよ。“何をやろうが全部自分だぜ!”っていう。

──『20's CALBORN』を再発したことが、今回発表される『SMILER』の作品作りに作用したところはありますか。

卓偉:たまたまなんですけど、『SMILER』の最後に入っている「はじまりの唄」が『20's CALBORN』を作る時にこぼれた曲だったんですよ。『20's CALBORN』のマスタリングをする時に“当時はどんな曲を作っていたかな?”とその頃のデモ・テープを引っ張り出してきて、「はじまりの唄」がその中の1曲だったのは事実ですよね。

──前作『僕は君のオモチャ』と本作『SMILER』は、単行本にたとえるなら上下巻のような感覚が卓偉さんの中にはありますか。

卓偉:僕の中ではビートルズの中期、『RUBBER SOUL』と『REVOLVER』みたいな位置付けですね。7曲という収録数で括ると、その2枚のアルバムに対しておこがましいですけど。12曲のフル・アルバムを出して1年間活動していくのは意外と不便で、ツアーでアルバム全曲をやることができないんですよ。やれても7、8曲ですね。ファンの期待に応えたいから定番曲もやるし、アルバム全曲と残り7、8曲でライヴをやりくりできるかと言えば不安もあるんです。それに比べて、7曲のアルバムならライヴで全曲やれるし、それを1年に2枚出すことによって意味のあるツアーを2回できるんですよね。あと、僕は最後のアナログ世代なので、『僕は君のオモチャ』と『SMILER』の2枚で全14曲というのをひとつのパッケージとして捉えた時に、LPのA面、B面っぽいニュアンスもありますね。

どんどん削ぎ落としていく進化の形

12_ap1.jpg──前作はアッパーな楽曲が大きなウェイトを占める一方で、卓偉さんの内省的な部分が色濃く出た楽曲も重要なポイントとして配されていましたが、本作はそれに比べるとサウンド志向がより強まった印象を受けますね。

卓偉:そうですね。全体的に余り唄い上げてはいないんですよ。凄くメロディアスに唄ったのは「はじまりの唄」くらいで、歌声も楽器のひとつと言うか、歌詞を伝えるためのインフォメーションに近いのかもしれませんね。

──内なる感情を赤裸々に吐露するよりも、物語の登場人物に真意を語らせる手法に今回は特化したように感じましたが。

卓偉:仰る通りです。“これはこういう歌です”と答えを提示するのではなく、聴く人の想像によって幾つもの答えがあるような広がりを持たせたかったんですよね。

──それは前作からの反動もあるんでしょうか。

卓偉:前作は前作で明るく作っていたつもりだったんですけど、内に秘めたマイナーな曲もあったし、今回はそれよりもアッパーで爽快感のある作風にしようと思ったんです。

──純然たるラップでもなく語りでもない、マシンガンのような唄い出しが聴かれる1曲目の「お願い胸騒ぎ」、ワン・ビートのリズムでメロディが展開していく「CRY CRY CRY」と「SMILE」など、卓偉さんの新たなチャレンジと着実な進化が随所に窺えるのも本作の特徴ですね。

卓偉:ええ。どんどん削ぎ落としていった進化ですね。無駄なことをせずに、どんどんシンプルになってきていますね。考え方もそうだし、アレンジもそうだし。引き算ばかりするようになったんです。音数を足してぼやけそうなところを極力ブレないように努めているし、パキッとした音が今はいいと思えるんでしょうね。

──それにしても、「お願い胸騒ぎ」みたいに語り倒しで引っ張る曲から始まるのはかなり意表を突かれますよね。

卓偉:初めての試みでしたね。ラップじゃないし、演説でもない。敢えて言うならボブ・ディランっぽいんでしょうけど、一番しっくりくる言葉は“語り”なんでしょうね。あと、GとAの2コードだけで行き来するシンプルなロックンロールをやりたいとずっと思っていたんですよ。そういうのはイギリスのバンドが得意で、60年代でも90年代でもシンプルな作りの曲をヒットさせているんですよね。僕の中では、スーパーグラスとかあの辺のバンドをイメージしていたんです。トリオ編成だけど、DとBmの2コードだけで曲を作るのが凄く上手なんですよ。その上で、歌詞とメロディの力やアンサンブルの巧みさでシンプルすぎないように曲をまとめている。そこを目指したかったんです。それをやるには、この歌詞のようにストーリーを熱弁するのも面白いかなと思って。この曲を1曲目にしたのは僕にとって大きな発見であり、挑戦であり、自分の可能性を広げる意気込みの表れでもあるんですよ。予定調和ではなく、“何これ!?”と感じる曲を1曲目に持ってくるほうが面白いですからね。

──ファンがどう受け止めるかが楽しみですね。

卓偉:メロディックな歌を唄う卓偉が好きな人は、少々面喰らうかもしれないですけどね。でも、“こういうのもアリなんだな”って思う人も絶対にいると思うし。いろんな意見があってウェルカムですね。

──メロディックな歌が聴きたい人は、2曲目の「SYSTEMATIC」でその欲求が充分満たされると思いますけどね。

卓偉:そうですね。前作でも何曲かやっているんですけど、「SYSTEMATIC」はクリックを使わずに一発録りした曲なんですよ。なんて言うか、フィーリングがクリックで出なくなることがあるんですよね。突っ込みたいところをクリックだと前に行けないと言うか、制約が出るようになったから、それなら思い切って一発で録ろうと。ライヴだって、シーケンスを流さない限りはクリックがないわけじゃないですか? その日によってテンポ感も違うし。そうやってレコーディングもだんだんとライヴ化している気がしますね。

──原曲がバラードだったとはとても思えないアグレッシヴな曲ですね。

卓偉:元々は16ビートの優しい感じの曲調だったんですよ。歌詞の内容も全然違ったし。レコーディング前はグラム・ロック的なアレンジだったんですけど、そのエッセンスは唯一コーラスに残っていますね。

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