POPとはオンリーワンな存在であり、思わず追随したくなるモノ
──(笑)でも、このアルバムでPOPミュージックに出会えるっていうのは、凄い体験だと思いますよ。
ヒダカ:かなり、ネジ曲がっちゃうかもしれないですけど(笑)。
カトウ:とにかく1曲目から衝撃的ですからね。そこから広がっていって、いろんな景色を見てもらえるかもしれないし。
──音楽的にも豊かですからね。たとえば「PERFECT DAY」における独特な混ざり具合とか。
クボタ:表面上はかなりサラッとしてるんですけどね。
ヒダカ:ギターPOP的な要素はずっとありましたからね。この曲って、パンクでもメロコアでもEMOでもなく、かと言って、純然たるギターPOPでもない。つまり、俺達にとっても“未知”なんですよね。これがどういうふうに受け取られて、どんなふうに呼ばれるかっていうのが、楽しみでもあって。
クボタ:POPな要素っていうのは、メタルにもテクノにもパンクにもあるし。そういうのを何でも取り入れてしまうっていう凄さですよね。それは自分でも感じました、この曲を作ってる時に。
──POPっていうものに対する解釈が自由なんですよね。
ヒダカ:オンリーワンな存在であり、思わず追随したくなる。そういうものがPOPだと思うんです。アンディ・ウォーホルもそうですよね。カッコいいシルクスクリーンの作品を、あえて量産する──つまり、オンリーワンを捨てることでオンリーワンになったっていう。
──「CUM ON FEEL THE NOIZE」も楽しませてもらいました。クワイエット・ライオットに同じタイトルの有名な曲がありますが…。
ヒダカ:カヴァーじゃないんだ? っていうね(笑)。それも狙いのひとつなんですよね。メロディや曲調は全然違うんだけど、たまたまタイトルが一緒になっちゃった、っていう。そういう引用だったり仕掛けだったりは、いろんなところにあるので、そこも楽しんでもらえれば。
──「LETS ESCAPE TOGETHER」は'80年代ニューウェイヴ経由の4つ打ちをフィーチャーしたナンバー。これもユニークというか、独特なPOPチューンですよね。
ヒダカ:これ、マシータが大好きらしいですよ。さっきの取材で初めて知ったんですけど(笑)。
マシータ:4つ打ちの歌モノって多いじゃないですか、今。
ヒダカ:アジカン以降の流れ、ジンとかベース・ボール・ベアとかね。
マシータ:オラ達も30代なりの4つ打ちというか(笑)、ニューウェイヴ的なアプローチの曲はずっとやってきたんだけど、そのオイシイところが全部凝縮されてると思うんですよ、この曲。で、いいなぁ、みたいな(笑)。
カトウ:この曲、オレがけっこう唄ってるんですよ。1曲目のイラッとした感じの「プレイバックPART2」っていう感じで、ここでもかなりイラッとした感情が放出されるポイントなんじゃないかな、と。あと、オートチューンのヴォーカルで遊んでみたりしてます。
ヒダカ:ダフト・パンク的な。(カトウの声質は)オートチューンの掛かりがいいんですよ。俺は全然乗らないので。
クボタ:カトウに唄わせてる理由はそれだけです(笑)。
ヒダカ:でも、考えてみると、ニューオーダーとか初期のキュアー、ギャング・オブ・フォーとかワイヤーとかなんかも、4つ打ちで踊れる曲っていうのをたくさんやってるんですよね。それを21世紀にやろうと思ったらこうなるって感じですね、自分では。
──80年代のニューウェイヴって、実はダンス・ミュージックだったっていう。
ヒダカ:向こうにはクラブっていうものがあったから、パンクでもロックでも打ち込みでも、踊れる音楽として認識されてたと思うんですけどね。日本でいえば、やっぱり“ロンドンナイト”かな。
クボタ:ごちゃ混ぜだったからね、ハードコアもレゲエも。
カトウ:モーターヘッドもね(笑)。
クボタ:パンテラとマキシ・プリーストが同じ日にかかってたり。
ヒダカ:(大貫)憲章さんって、やっぱりすげぇ! っていう。
エンターテインメントが信じられなくなった時代の閉塞感
──そういえば吉川晃司さんも“ロンドンナイト”に行ってたらしいですね。あのダンスも、“ロンドンナイト”で覚えたっていう…。
ヒダカ:そうか、つまり吉川晃司だったんだ…「TONIGHT, TONIGHT, TONIGHT」も、(吉川風の発音で)“トゥナイッ、トゥナイッ、トゥナイッ”って唄わないと。
──ハハハハハ!
ヒダカ:でも、さっきも言ったけど、後ろ向きなリヴァイヴァルではなくて、並列でありたいんですよね。キュアーとシステム・オブ・ア・ダウンが同じ高さにあるっていう。向こうって、そうじゃないですか。システム~もマリリン・マンソンも、キュアーだったりディペッシュ・モードが大好きなわけで。そういうところをリスナーとして楽しむっていうのも、失わないでいたいですよね。
──基本はリスナー体質である、と。
ヒダカ:そこは変わらないですね。メジャーなものから日本中で200人くらいしか聴かないようなものまで、幅広くチェックスしてるので。そういうこともどんどん面白くなってきてるというか。
──では、アルバムの最後に収録されている「ZENITH」があれほどまでにダークなのはどうしてですか?
ヒダカ:ハッピーエンドでは終わらせないぞ、っていうところですね。これ、30代に評判がいいんですよ。なんかね、グランジを思い出すみたいで。
──あ、なるほど。
ヒダカ:年代で言うと、80sから90sに差し掛かる辺り。結局、グランジによって混沌としていくわけじゃないですか。きらびやかなものがなくなってきて、“なんだ、結局、ハッピーエンドなんかないじゃん”って。
クボタ:ちょうど中学生くらいなんですけど、だんだんエンターテインメントが信じられなくなってきて、“アメリカってウソつきじゃん”って思うようになったりとか。
ヒダカ:映画で言うと『氷の微笑』とかね。あと、あれなんだっけ、グレン・クロースと不倫してさ、マイケル・ダグラスがどんどん追い詰められていくっていう…。
クボタ:『危険な情事』?
ヒダカ:そうそう。つまり、どれもハッピーエンドではないんですよね。あんな感じですね、イメージとしては。あと、アナログからデジタルに移り変わる最後の時期っていうのもあるんですよ。アルバムのジャケットも『未知との遭遇』がモチーフになってるんですけど、CGではなくて、ちゃんとセットを組んで撮影したんですよ、木更津のキャンプ場で。ちなみにドラムのマシータは、ここでも裸でした(笑)。
マシータ:さすがにアレは寒かった!(笑)
ヒダカ:ほら、『E.T.』って着グルミじゃないですか。なかに人が入ってて。
クボタ:それを判ってたうえで楽しめるっていう感覚があったんですよね。でも、その後はどんどんリアルなものが求められるようになってきて。内容よりも技術が先行するようになる、っていうのかな。
ヒダカ:ハリウッドで言うと『ジュラシック・パーク』から、ですよね。あの映画はちゃんと面白いんだけど。音楽で言うと、今はエディットも自由にできるわけだけど、このアルバムに関しては“フィーリング一発”ってところで、ギリギリ踏ん張ってる。
──達成感も強いのでは?
ヒダカ:出し切った感はありますね。まだライヴでやったことのない曲が多いから、ツアーが楽しみなんですよ。ここからどの曲が残っていくのか…。「ZENITH」みたいな暗い曲だけが残るかもしれないし、その逆もあり得るし。次はどういうモードになるのか、っていうのは自分達も判らないですからね。映画でいうと…ソフィア・コッポラ辺りかな。
クボタ:それか、デヴィッド・リンチ。
──どっちにしても、それほどハッピーな感じではないですね。閉塞感たっぷり、っていう。
ヒダカ:そうですね(笑)。ハッピーエンドではないし、しかも、何も解決しないまま終わってしまうっていう。
クボタ:でも、アルバムの評価っていうのは、リスナーの反応にもよると思うんですよ。これがモンスターになるのか、善人になっていくのかっていうのは、今の時点では判らない。
──まずはそのまま“優れたPOPアルバム”として受け入れられると思いますけどね。
クボタ:うん、そうだといいんですけどね。