Asagaya/LoftA10 volume.2 2017.5月号掲載
尾ノ上さんはキスをした後にいつも「好き」って言ってぎゅって抱きしめる。
その言葉は嬉しいはずなのに、言われるたび「本当に?」って聞きたくなる。
それはあたしが尾ノ上さんにとって一番大切な人じゃないから。
尾ノ上さんに同棲している彼女がいるって分かっているのに好きになってしまった。
少しの罪悪感を感じながらも、もう半年くらい「恋人ごっこ」が続いてる。
この数週間、仕事が忙しいと言われて会えなくて、尾ノ上さんのインスタグラムを覗いてしまった。
SNSではつながらない暗黙の了解だったけど、せめて近況を知りたくなって。
尾ノ上さんが載せる写真は彼女との2ショットの写真はないものの、誰かと行ったと思われる写真が数枚載っていた。
ページの右端のタグ付けページのボタンを押してみた。
すると、尾ノ上さんと彼女らしき人が二人で映っている写真が載っていた。
かぁっと体が熱くなっていく。
見てはいけないものを見てしまった。
一瞬戸惑ったけど、指はその女性のページのボタンを押していた。
そこには彼女が撮ったと思われる、桜を見上げる尾ノ上さんの横顔の写真があった。
それも二日前に投稿されたもの。
「仕事が忙しいから。」と言って最近会えてなかったあたしにとって、その写真はどんな言葉よりも傷つくものだった。
いい加減、やめなきゃ、、、どんどん辛くなるだけだ。
でもそんな簡単に諦められない。
心のどこかで彼女と別れてしまえばいいのにって思ってしまう。
あたしから「もう終わりにしよう。」って言ったら簡単に終わってしまう。
それが怖くて何も言えないまま、あたしの真上に咲く桜は雨と共に静かに散っていく。
次会えるのはきっと桜が散った頃なんだろう。