最後に君に会ったのは土曜日の高円寺だった。
会うのをこれで最後にしようと思った。
土曜日の深夜の鳥貴族、うるさい若者たちで溢れる店内で君と向き合ってお酒を呑んだ。
久々に会った君は「ポテトサラダ好きだったよな?頼もうか。トマトは嫌いだよな?冷やしトマトはやめておこう。」得意げな感じでメニューを眺めていた。
ビールを何杯も呑んで上機嫌で、煙草をふかした後に「やっぱりお前が好きだなぁ。」と言った。
5年も一緒にいたのに、今のあたしの心には君を想う容量なんてこれっぽっちも残ってない。気持ちも思い出も全部、削除したんだ。
この半年間のあいだに別の男への好きって気持ちで容量がいっぱいになってしまった。
「明日も早いから、悪いけどそろそろ帰るね。」なるべく怒らせないように伝えた。
「本当に帰るんだ。まぁ、いいけど。」すぐ不貞腐れるところは変わらない。
レジで会計を済まそうとすると君が全部支払ってくれた。
「おごってくれるの?珍しい。」
「何その言い方。付き合ってたときも俺けっこう奢ってたじゃん。忘れたの?」
あたしたちの記憶はもう同じじゃないんだ。
すぐに君から逃げられるように、お店の階段を降りた横に自転車を停めていた。
「ごちそうさまでした。じゃあね、おやすみ。」
自転車に鍵をさして跨いだ瞬間、君が強引に肩を抱き寄せてきた。
「やっぱお前が好きだなぁ。」
自転車は斜めになって、今にも倒れてしまいそうな体勢のなか、君は君だけのことしか考えていなかった。
本当に何も変わらないね。心のなかでつぶやいた。
いつだって自分のタイミングで、自分の都合の良い記憶しかない人。
ごめんね、もうあの頃のあたしには戻れない。
終電をなくした君を置いて、あたしは高円寺の夜を自転車で駆け抜けた。