八分の六のミディアムスローで書き上げられた「レーザー・ショック」は、矢野誠のアレンジで順調にレコーディングが進んだ。電通側の大勢いるプロデューサー連中も大喜びで、クライアントのプロデューサーも誰一人反対する者はなくスムーズに運んでいった。
ここで最終判断となるTOYOTAの重役に聴かせたところ、突然却下の判断がくだされた。理由は、その昔、スローな曲を使ってカローラが売れなかったことがあるという、ただそれだけのことらしい。TOYOTAの内部事情から言えば、ちょうどTOYOTA自販がTOYOTA自工に吸収合併されたばかりで、その自工から来た堅物の重役の判断。あいにく時期が悪かったといえばそれまでだが、急遽、楽曲は八分の六の「レーザー・ショック」からアップテンポの「レーザー・ショック」に切り替えられ、伊藤銀次のアレンジに委ねられることになった。
白井良明(G)、奈良敏博(Bg)の立つレコーディングスタジオでは、レコード会社、電通、クライアントの大勢のプロデューサーたちがいろいろ異なった意見を出してきて、イライラも沸点に達しようかと思ったそのとき、銀次がキレてしまった。慌てて駆け寄り、「銀次、オレも我慢が限界に来ているからここは抑えてくれ」と説得し、全プロデューサーをスタジオの外へ出し、入室禁止にさせてもらい、なんとか無事にアップテンポの「レーザー・ショック」はレコーディング完了となったのだった。
余談だが、いい曲だったのに残念ながら却下されてしまった八分の六の「レーザー・ショック」はその後、「渚にて」という曲でアルバム『唇にスパーク』に収録されている。