若いころ、わたしにとって、イギー・ポップは謎だらけでした。なんだかずっと怖いと思っていて、近寄ってはいけないと思っていたのです。
まず見た目が、すでにヤバいです。だいたい上半身は裸だし、ラリった雰囲気がビシバシ伝わってきていた。そんなこんなで、危険な奴だと思い、わたしは、イギー・ポップの音楽をあまり聴いてきませんでした。
でも、あるとき、ジム・ジャームッシュ監督の『コーヒー&シガレッツ』という映画を観たのです。内容は、はっきりおぼえていないのだけれど、トム・ウェイツとイギー・ポップがコーヒーを飲みながら会話をするもので、わたしは、トム・ウェイツが好きだったので、喜んで映画館に観に行きました。でも、相手がイギー・ポップだから、こりゃ、なかなか危険だぞ、大丈夫なのかトム・ウェイツなどと思っていたのですが、イギー・ポップがやたら良い人だったのです。なんだか、やってることはめちゃくちゃだけど、良心がある感じがしました。
一方、トム・ウェイツは、人間的に、とても面倒くさそうな奴でした。実際に映像を見返してないから、勘違いをしているかもしれないけれど、それでも、とにかくイギー・ポップは性根が良い奴に見えたのです。きっと気遣いもできるし、優しいのです。
現在、YouTubeなどで、イギー・ポップの昔のヤバい映像がたくさん見られるようになりました。インタビュー中、ラリラリになって椅子の上で飛んだり跳ねたり、奇声を発したり、以前なら、「ああ、こいつはやっぱりヤバい」と思っていたのでしょうが、『コーヒー&シガレッツ』を観ていたので、なにをやっても、大変良い奴にしか見えず、まったくヤバさを感じません。
そんなこんなで、今回は、ロックの王道です。イギー・ポップの『LUST FOR LIFE』をお勧めします。あらためて聴いてみたら、大変素晴らしいアルバムでした。
このアルバムの前作、『The Idiot』では、ラリってどうしようもない状態になっていたイギー・ポップを、デヴィッド・ボウイが更生させ、一緒に音楽を作ったというエピソードがあります。とにかく、デヴィッド・ボウイが、イギー・ポップの芯の良い奴さ加減を見抜いたからこそ、このような音楽が作られたのではないかと思うのです。そして、再び、デヴィッド・ボウイがプロデュースをして『LUST FOR LIFE』が作られました。これらのアルバムは、イギリス人とアメリカ人が共作した大変有意義な音楽だと思えます。
その後も、薬物中毒になったり、いろいろやらかしている様子のイギー・ポップですが、なにはともあれ、シワっぽくなっても、筋肉を鍛えまくってるイギー・ポップを見ると、この人、本当に真面目で良い奴なんだろうなと思えてくるのです。そしてミュージシャンとしても最高に格好良いのでした。