パンクバンドの生き様を見た
Rooftopを読んでいたら目が点になった
最近のRooftopは実に面白いが、なんとも紙面の文字が小さすぎて年寄りの私はどうしてもスルーしてしまう。読めないのだ。編集長にいくら文句を言っても治らない。
昨年の暮れだったか、ふっとペラペラとページをめくっていたら、作家・石丸元章さんの脳梗塞での入院&闘病記にぶつかった。この記事も実に字が小さい。ライト付の拡大鏡を買い込んで頑張って読む。私は石丸さんが好きだ。もちろん後日、早速見舞に駆けつけた。さて、私の目が点になったのは石丸さんの次のページのオナマシのイノマーさんのページだった。
死んだその日が最終回
なんだこのタイトルは……ちょっとびっくりして記事を読むと、「パニック障害〜アルコール依存症〜口膣底癌」舌切断、転移14箇所、ステージ4(本人が書いている)とそれはもう絶望的な内容だった。
「これはすごい、壮絶すぎる」と思った。私はイノマー氏をほとんど知らない。オナマシというパンクバンドにもついてゆけないと思っていた。あの下半身ネタオンリーのオナマシの歌詞を若干嫌悪していたのだ。だから、昨年発売されたロフトレコードからのCDもほとんど聞かなかった。
そんな時、ロフト音楽部長の大塚から、2月の新宿ロフトライブまでにニュースサイト「TABLO」(運営はロフトプロジェクト。月間100万アクセスがある)で、イノマーをインタビューしませんかと言う話があった。私はそれを引き受けた。失礼かもしれないが好奇心が勝った。
一昨年、やはりロフトプロジェクト社長小林茂明さんが癌でステージ4と診断されて、壮絶な癌との戦いに敗れ亡くなった。54歳であった。私は小林さんが死んでしまう間際まで「往復書簡」をしていた。それは苦しくて悲しい書簡だった。それらを読み返すと今でも涙が出る。
イノマーへのインタビューは「TABLO」に掲載中
イノマーインタビュー
小林社長の死……そんなことを思いながら2月初旬、イノマー氏とのインタビューの収録日が来た。何しろイノマーは舌を切除している。転移した癌は全部削除したそうだが、インタビューの話は半分ほどしかわからない。とても難しいインタビューだった。
午後3時イノマー氏は飄々とそれなりに痩せた体を持ってロフト会議室に現れた。私はどんなインタビューを、どんな励まし方をしたら良いのか途方に暮れていた。とにかく重症患者に言ってはならない言葉をネットから拾って頭に叩き込んだ。「軽率な励ましの言葉をかけない」「頑張れは言わない」「回答を用意しようとせず、聞き手に徹する」「一緒に、少し先のことをイメージしてみる」「人間はいつ何があって死ぬかわからない、みんな一緒」など、安直で想像力に欠ける言葉は悲しいと書かれている。
まあ、もうすぐネットにアップされるので、一人のパンクロック野郎の雄叫びを読んでほしい。数日後には無謀にも新宿ロフトオナマシライブが控えている。
新宿ロフトは超満員
やっぱり革命的なロックだな。直球勝負の新宿ロフトライブ
ライブ演奏も不可能だと言われながら迎えた2月15日の新宿ロフトは、パンクロックの最高峰のライブだった。武道館アーティストの盟友・銀杏BOYZの峯田和伸、ピーズの大木温之をゲストに迎え、断末魔のステージだ。ドラムとギターが良すぎる。
「パンカーの意地を見せてやる」……と言ったかどうかはわからないが、会場は超満員。誰がどう見ても圧巻だった。鬼才イノマーは最後まで手を抜かず「直球勝負」をしぬき、全くもってスリリングなライブであった。「諦めたわけじゃない、手術しても歌えるようにしてやる」オナニーマシーンを率いるイノマーの完全復活大作戦だ。
一体なんて表現したらいいのだろうか? 言葉が見つからないほどセンセーショナルなステージだった。
ロックって不思議な音楽だ。楽器が下手でも譜面が読めなくても、そして舌を切られても、ボーカルのほとんどが意味不明でも、若い観客も70歳の私も涙が出るほど感動した夜だった。
オナマシの歌詞のほとんどは下ネタだ。オナニー、ちんこ、セックスしたい……なんとそれらの数々を圧倒的な若いお客さんたちが舌の回らないイノマーを合唱で支える。若い可愛い女の子が「オナニー、ちんこ」と合唱している。ダイブも始まる。当然のごとく全裸になり、おしめを履き、使用済みテッシュをばらまく、TENGAのバレンタインチョコをばらまく。
見事にステージと客席が一体化していた。これはデカ箱ではありえない光景だ。演奏も鋭く素晴らしかった。
まだまだやれるぞイノマー……。
ふむ、この映像は後世に残すべき貴重なものとなるに違いない。
後世に残すべき貴重な夜だった